第23話 感謝
「感謝されるって、良いもんなんだな」
「だね~、何かもっと人の役に立ちたいって思ったもん」
俺と千春の話しを聞きながら、隣で焼肉を頬張っている直樹も頷いている。
炊き出しが出来たみたいなので、調理しているエリアに行くと、おばさんやお姉さんたちが「日が暮れて暗くなると焚火の灯りだけじゃ調理しづらくて困る」と言っていた、そこで俺と千春はそれならばと思い、ライトボールを調理エリアに設置して周った。
すると、今度は「水や燃料を節約しながらの調理なので、色々と苦労している」って聞いたので、俺と千春は水魔法で水の補充したり、火魔法で火力の追加をしたりして、調理エリアの人達の要望を叶えて周った。
直樹は、おばさんやお姉さんが「食材の移動に苦労している」と聞いたので、力仕事を率先して行っていた。
炊き出しを頂く前に、調理エリアの人達が困っていた事を、俺と千春は魔法を使って、直樹は肉体を使って解消して来たのだった。
「あと、年上の人達から感謝される事ってあんまりないから、なおさらかもな」
「うんうん、同年代や年下とかなら感謝されたりするけど、年上との接点って、特に大人ってほとんどないからね、何か新鮮な感じだったあ」
俺は焼肉を食べながら千春はハンバーグを食べながら話している。すると、直樹がカレーを食べながら
「これでしばらくは食事に困らなくて済むな」
停電で冷蔵庫が使えないので「ナマ物の保存が出来なくて困ってる」と、調理エリアの人達が言っていたので、俺と千春はまだ試した事はなかったが、氷魔法を使ってみた。すると、イメージ通り食材を凍らせたり、氷の塊を出現させる事に成功した。
これにはおばさんやお姉さん達からの拍手喝采が凄かった、物凄く感謝されたし俺自身、感謝されて凄く良い気分だった。
それと、調理エリアの人達が「食材の保存が出来るようになったから、明日からのメニューを楽しみにしててね」と言われたので、明日も炊き出しが楽しみだ。
千春がハンバーグを食べ終えお茶を飲んでいると
「何か炊き出しの事以外にも、手伝える事があったら手伝いたいなあ」
俺もお茶を飲みながら
「だなあ、今んところ俺達は明日、魔法を教えるくらいだもんな」
すると直樹が周りを見ながら
「そのうち何か見つかると思うぞ」
と言って、残りのカレーを平らげた。
〇
校庭に設けられている夜の飲食兼休憩エリアは、昼間の時より人が少なかった。
調理エリアの人達の話しによると、夜出歩くのは危険なのでほとんどの人達は、昼のうちに食料をお鍋や保存容器に入れて、持って帰って夜は家で済ませるそうだ。
夜の炊き出し利用者は警察や消防、学校の先生達、そして夜に家にいるのが不安な人達だそうだ。
あまり深く考えてなかったが、言われてみればそんな気もする。
自宅が崩壊している訳ではないので、寝る時は自分の布団で眠れば良い、ただ電気が使えなくて夜が暗くて不安な人達は、学校に避難して眠れば良いと思う。
あと、これも言われて気づいたのだが、学校に寝泊まりしている人達には、家族がいたり子供もいたりする。ずっと連絡が取れなくて心配だし、家にも帰れないから精神的に疲れているみたいで、ツラそうだって調理エリアの人達が話していた。
俺は家族との旅行や学校行事以外では外泊をする事がないから、連日の外泊を楽しんでいる節があるが、大人達は違うみたいだ。
炊き出しをお腹いっぱい頂いた俺達は、特にやる事も無いので飲食兼休憩エリアでくつろいでいた。
俺はテーブルに頬杖をついて、夜空いっぱいに広がっているオーロラを眺めている。
隣の直樹は、頭の後ろで指を組んで、テーブルの近くに設置されている焚火を眺めている。
直樹の隣に座っている千春は、テーブルにうつ伏せになり顎を組んだ腕に乗せて、飲食兼休憩エリアの人達を眺めている。
お腹が満たされた俺達は、しばらく無言で自分達の世界に浸っていた。
停電発生から五日が経過して、そろそろ帰りたくなったから下校してみたけど。今日中に家には帰れなかったなあ。今くらいの時間には、もう部屋でゴロゴロしていると思っていたんだけどなあ。まさか小学校に泊まる事になるなんて、思いもしなかったな。
そして、ヒトデナシって呼ばれている変なヤツ。
魔法が使えるって事も摩訶不思議な話しだけど、人が変な姿に変化して、ある程度の打撃を与えると消滅するってのも、これまた不思議な話しだよなあ。
停電の原因は分からないし、いつ復旧するのかも分からない。
何で魔法が使えるのかは分からないし、何で人がヒトデナシに変化するのも分からない。
分からない事だらけだけど、分からないんだから一生懸命必死に考えても分からない。
分からない事はそのうち大人達が解決してくれると思うから、もう俺は考えるのは止めて、お腹が満たされて心地良い今この瞬間を堪能する為に、ゆっくりとくつろぐ事にしよう。
俺はテーブルに頬杖をついたまま、お茶を一口飲んで夜空いっぱいに広がっているオーロラをまた眺め始めた。
〇
テーブルにうつ伏せになっていた千春が、体を起こして
「ねえ、僕たちってどこで寝るのかな、どっか教室を貸してくれるのかなあ」
俺は頬杖をついたまま
「ん~、どうだろ、体育館とかじゃないんかな」
直樹が苦笑しながら
「屋外じゃ無ければどこでも良いけどな」
千春が体を起こして
「暇だから体育館を見に行ってみない」
直樹は頭を左右に傾けて、首をコキコキと鳴らすと
「だな、行ってみるか」
俺は椅子から立ち上がり、腰に手を当てて背中を伸ばしながら
「おっけえい、行ってみようぜい」
小学校の体育館は俺達が休んでいた飲食兼休憩エリアから少し歩く感じだ。調理エリアの人達に挨拶しながら歩いて行き、体育館の近くまで来たところで千春が
「ちょっと、お手洗い済ませてくる」
俺と直樹はまだ大丈夫なので、体育館の出入り口に向かって行き、千春はトイレに向かった。
体育館の出入り口付近には飲み物や非常食が積み重ねてあった。体育館の中を覗いてみると、床に段ボールが敷いてあってその周りを段ボールのパーテーションが囲んでいた。囲いの中には毛布とか飲み物とか置いてあったので、そこで寝泊まりしているんだろうと想像できた。
小さいスペースで囲まれている場所があったり、大きなスペースで囲まれている場所もあって一人用とか多人数、家族用なのかな。
体育館の壁側には避難所生活用、簡易間仕切り、段ボール畳と書いてある段ボールが積み重ねられていた。他には毛布やビニールシートとか色んな物が置いてあって、自由に使って良い感じだった。
出入り口の非常食を見ている直樹に
「あの、段ボールの囲いって基地みたいでかっこいいかも」
直樹が体育館の中を覗く
「ん、確かに男心をくすぐるな」
「体育館のスペースはまだ余ってるみたいだから、ここで俺達も寝る感じになるのかな」
「だな、ここで寝泊まりしている人達は少ないんだな。まだ、けっこうスペースは余ってるみたいだぞ」
どの辺りに俺達の基地を作るか話していると、直樹が体育館の出入り口の方を見ながら
「千春、遅くないか」
「そう言われてみると、遅いかな」
体育館の出入り口から離れて、直樹と二人でトイレがある場所に向かって歩いて行く。
「おっ」
「んっ」
俺も直樹も思わず声が出た。
トイレの出入り口から校舎の裏の方へ、一定の間隔でライトボールが浮いていた。
俺はトイレの出入り口から、手洗い場や個室の様子を伺いながら
「もしかして、千春は連れて行かれちゃったのか」
直樹は難しい表情を浮かべながら首を傾げる。そして、二人でライトボールが浮かんでいる、校舎の裏の方へ急ぎ足で向かって行く。
すると、学校の敷地の外にもライトボールが浮いているのが見えた。
俺は直樹に
「ライトボールを発動してるって事は意識はあるって事だよな」
直樹が腰の高さまで穴の開いた金網のフェンスを見ながら
「だな、もし気を失っていたら危なかったかもな」
俺も穴の開いたフェンスを見て
「運が良いんだか悪いんだか」
直樹が学校の敷地外に浮いているライトボール見ながら
「運が悪いんだろ、良かったら攫われないぞ」




