第22話 大人の主張
校庭に設置されている、飲食兼休憩エリアで俺達が休んでいると飲み物を持った北野先生がやって来た。
北野先生が俺の前に座ると
「ここに居たんだね、伝えたい事があったから助かったよ」
俺は椅子にちゃんと座りなおして、コーヒーを飲んでいる北野先生に
「応接室での話しが終わってから、休憩って感じでずっとここで休んでましたよ」
コーヒーをテーブルに置くと、北野先生は周りを見てから小さい声で
「聞いたよ、吉田さんと中井さんの事、危なかったみたいだね申し訳ない」
と言って頭を下げた。
沙織と麗奈が男達に連れ去られそうになった事かな、特に危ない感じはしなかったけど表情を曇らせている北野先生に俺は
「あの二人なら大丈夫だったと思いますよ」
北野先生は両手で掴んだコーヒーを見つめながら、表情を曇らせたまま
「だとしても、私達がしっかりしていればあんな事は起こらなかったのでは、と考えると申し訳なくてね」
北野先生も白沢先生と同じで、今の大人達の状況に不満があるみたいだ。
俺にはどうする事も出来ないけど、今の状況を周りの大人達のせいだけにしないで、白沢先生と北野先生は自分達も含めてしっかりしないとって考えている事に好感が持てるんだよなあ。
千春が北野先生の顔色を伺いながら
「さっき白沢先生が話してくれたんですけど、何か色々と意見が別れてるって言うか、なかなか話しが上手くまとならないって言うか、みんなバラバラみたいで今って凄く大変な状況だって事を聞きました。えっと、先生頑張ってくださいね」
俺もそんな感じの事を思っていたので、千春が俺の思いも代弁してくれた感じだ。千春サンキュー、そして北野先生ファイトだぜ。
北野先生は千春を見て俺達を見てから
「ありがとう、みんなが安心して生活出来る様に頑張っているんだが、なかなか心が折れそうになる時もあってね、加藤君の言葉で励まされたよ、ん~、疲れが溜まっていたのかな、何か今の言葉で元気が出て来たみたいだよ、急に体が軽くなった気がするよ、ありがとね」
ニコニコしながら北野先生は、肩を回したり首を回したりして疲れが取れて体が軽くなったアピールをしている。
すると直樹が少し体を乗り出して
「先生、質問しても宜しいですか」
「はい、どうぞ」
北野先生はコーヒーを飲もうとしたのを止めて直樹を見る。
直樹は椅子に座りなおして
「今って警察の方々は業務を行ってるのでしょうか、例えば窃盗や強盗を取り締まったり逮捕したりしてるのでしょうか」
「今現在、地域課と警備課が多少動いてる程度で、残念ながらほとんどの業務が停止している状態だよ」
北野先生は表情を曇らせコーヒーを一口飲むと、警察の現状を話し始めた。
地域課の人達は交番や駐在所で勤務している人で、普段から地域を巡回していて停電が発生してからも巡回を行っている。
警備課の人達は、災害時の救助活動が業務の中に含まれている人達なので、停電後は知識を活かして活動しているそうだ。
警察の他の課の人達は、地域課と警備課と一緒に活動したり、避難所での地域の人達の相談対応、情報収集や物資の調達等、様々な事を行っているそうで、もちろん小学校の先生達や消防署の人達、地域の人達も一緒に協力して活動していそうだ。
ここまでの話しを聞いていると、上手く組織が機能していて問題が無い様に聞こえるが、警察、消防、学校で働く全ての人達が活動しているのではなく、組織の垣根を越えて協力し合っている人達だけの話しなので、実際に活動している人数は少ないそうだ。
応接室で話した校長先生と警察の武田さん、そして消防の成田さんは組織の垣根を越えて協力し合っている人達の代表者で、白沢先生と北野先生も校長先生と一緒に頑張っているそうだ。
そして、殺人や強盗の他にも、色んな犯罪を取り締まったり逮捕したりする刑事課の業務に関しては、色んな人達が今でも議論していて具体的な解決策がまとならなくて、揉めているそうだ。
目の前で行われた犯行であれば、現行犯逮捕は出来る。
でも、捕まえた者達を警察署内に全て収容出来るのか問題だし、仮に臨時の収容施設を作ったとしても、連絡手段がなく移動手段もないため、決められた期日内で手続きに必要な書類の作成が出来ない可能性があるらしい。
今までなら、対応が困難な事態ならば立場の上の人に対応策を聞いたり、組織内で決められた規則に従って行動すれば良かったが、今は停電の為、自分の所属する組織と連絡が出来ない。
そして、組織内の規則で対応できる事もあるが、今は非常事態のために対応出来ない事の方が多い。その為、今は組織の規則に頼ることなく、緊急処置として独自の判断で行動する事にしたそうだ。
すると、今は非常事態なのだから、人命に関わる事に対して優先的に対応するべきだ、と主張する人がいたり、小さな犯罪が後に大きな犯罪に繋がり、最終的には人命に関わる事になるのだから、非常事態だからこそ今まで以上に取り締まって行くべきだ、と主張する人がいたり、色んな人達がそれぞれの主義主張をぶつけ合っていて、現状は取り締まりと逮捕についての対応策がまだ決まっていないとの事だった。
中には先が見えない、いつ電気が復旧するのか定かじゃない状況で、貴重な食料を収容中の人達に配給する事に、難色を示す人もいるらしい。
地域の人達が、安全で安心して生活できる環境を目的としている事に関しては、それぞれの主義主張が違っていても意見は一致しているのだが、そこにたどり着くまでに、どの問題から解決するべきか、安全を優先するのか、それとも安心を優先するのか、あるいは快適な生活環境作りを優先するのか、それぞれに色んな主張があり、優先順位すら決められない状態らしい。
それぞれの考え方や意見をまとめる為に頭を悩ませている間にも、地域の人達の生活は脅かされていて、実際に連日のように地域の人達からの被害報告が上がって来ているそうだ。
「だから早く何とかしないとって思っている時に、吉田さんと中井さんの件があったからね、本当に申し訳なく思ってるよ」
そう言って、北野先生はコーヒーをまた一口飲んだ。
応接室で校長先生達と話た時にも思ったけど、何で大人って話しが長いんだろう「今って警察の人は働いているんですか」って質問に対して「今は取り締まったり捕まえたりはしてないけど、色々と頑張ってますよ」って答えてくれたら終わりなのに、知りたい事だけ教えてくれたら良いのになあ。
それに決めないといけない事が決まらないって俺達に言われても、どうしようもないし「犯罪者を捕まえるのは警察の仕事なんだから、頑張って下さいね」って感じなんだよなあ。
ましてや悪い事をして捕まったんだから、食事抜きでも良いんじゃねって思うし、なんでそんな人にまで優しくするのか、俺には理解出来ないんだよな。
もしかしたら、年齢を重ねて大人になったら悪い事をした人達にも優しくなれるのだろうか。ってな事を考えていると隣の直樹が
「もし、自分達が窃盗や強盗を目撃した場合はどうしたら良いのでしょうか」
すると北野先生は難しい顔をして
「本来ならば、すみやかに近くの交番や警察署に連絡するべきなんだけど、今は君達の判断に委ねるよ、今話したように大人達でさえどうすべきか、どうしたら良いのか決められない状況だからね」
直樹も難しい顔して
「分かりました、その時の状況で最善と思われる行動を考えます」
ん~、となると、さっき直樹と千春で話していた、全ての犯罪行為に対して何かするのではなく、弱きを助け強きをくじくスタンスで、言い争っている場合は状況を見て判断して、一方的に殴ってたり殴られてたりしたら、一応止めに入るってので良さそうだなあ。
〇
まだ辺りは暗くなっていないが、夜に備えてなのか校庭のあちこちで木材に火を着け始めていた。
折り畳みのテーブルと、椅子が設置されている飲食兼休憩エリアの周りや、俺達が座っているテーブルの近くでも火を灯していた。
炊き出しを作っている場所にも火を灯し始めた。って事は今日も電気が復旧しなかったみたいだ。
なんて事を考えながら周りを眺めていると北野先生が
「応接室で話してた、君達に魔法を教えてもらう件なんだけど、明日からになったよ」
どうやら魔法を覚えたい人達は、今職員室で沙織達と頑張っているそうで、すでに数人は魔法を使えるようになり始めているらしい。
そして、他にも魔法を覚えたい人達はいるが、明日決行予定のヤギ型のヒトデナシを駆除する準備で今日は忙しいらしく、魔法を覚えるのは明日からになったそうだ。
「なので今日は学校でゆっくり過ごして下さい、もう少ししたら炊き出しが出来上がると思いますので、明日に備えて沢山召し上げって下さいね」
そう告げると、残りのコーヒーを飲み干して北野先生は校舎に向かって行った。
俺達は薄っすらと見え始めているオーロラを眺めながら、炊き出しが出来上がるのを待っていた。




