第21話 境界線
小学校の校庭に設けられている、飲食兼休憩エリアで俺と直樹と千春は休んでいる。
暗くなる前にある程度調理を済ませるつもりなのか、仮設テントの下では割烹着姿のおばさんやお姉さん、頭にタオルを巻いた料理人っぽい男の人達が、慌ただしく動き始めていた。
俺は体を直樹達に向けて足を組んで座って、左手は組んだ足の上に置きテーブルに右肘を乗せ頬杖をついている。
直樹は椅子の背もたれに体を預けて、腕を組んで座っている。
千春は体をこっちに向けて左腕をテーブルに乗せ、右手は左肘に添えて座っている。
俺達は直樹が気づいた疑問「もし、犯罪行為を行ったヤツを捕まえたら、どこに連れて行けば良いのか」について話し合っている。
さっき白沢先生に聞いた話によると、停電が発生してから五日が経過した今でも本部と連絡が取れなくて、色んな組織が混乱しているそうだった。
そして色んな組織の人達が、現状で最善と思われる判断を独自に下し動き始めた為に、色んな人達が色んな考えのもと独自の判断で動いていた。
だから指示系統がバラバラになってしまい、それぞれの考え方により優先順位もバラバラで、結果全ての組織が機能不全に陥ってしまっているって話しだった。
確かに街並みはビックリするくらいに、変わり果てていた。
スクールバスが運行していたいつものルートを歩いて来たけど、自動販売機は破壊されているし、乗り捨てられたトラックの荷台の荷物は散乱していた。
店のシャッターはこじ開けられていたし、自動ドアも割られていて、店の商品は荒らされていた。
器物破損とか窃盗罪とか正式名称は分からないけど、新聞やニュースとかで見聞きした様な事が、ここら辺の地域では行われていたんだと思う。
そんな話しもしていたら、今度は「警察の人は犯人を捕まえてるのかな」ってのも俺達は気になり始めた。
千春が腕に頭を乗せたまま
「ん~、僕は警察の人達が犯人逮捕してたら、ここまで荒れた街並みになって無いと思うんだよねえ」
俺は頬杖をついたまま
「だよな、何かやりたい放題って感じだったもんな」
すると、腕を組んだままの直樹が
「警察の人達が動けないとして、もし俺達の目の前で変なヤツ等が何かしてたとしたら、どの段階で手を出す、午前中にスーパーの駐車場で大人達が揉めてた時、俺達は放っといてその場を離れただろ」
下校途中に通りがかったスーパーの駐車場で、たぶん食料が入った袋だと思うんだけど、それを分配するか独り占めするかを言い争っていた。
そのうちおじさん同士が殴り合いの喧嘩を始めて、その隙に主婦が袋を奪って逃げちゃったんだけど、おっさんの喧嘩とかどうでも良いからその場から移動しちゃったんだよね。
俺は頬杖を止めて直樹に
「だよな、主婦は袋を盗んで逃げちゃうし、おっさんは殴り合いの喧嘩してたんだよな、でも何でもかんでも手を出してたら、大変そうだもんな、直樹が言った様にどの段階で手を出すのか、ある程度は決めとかないとかもな」
すると千春が難しい顔で
「確かに、目の前で起きている犯罪行為に対して、僕たちが手を出すのか見逃すのかだもんね」
食料を奪い合っている人がいたら止めに入ったり、店の物を持ち去ろうとしていたら止めに行ったり、強盗や窃盗行為をどの段階で止めるのかを少し考えただけで、俺は
「ん~、なんかボーダーラインを決めるのって、すげー面倒くさいかも」
直樹は組んだ腕をほどき苦笑しながら
「すまん、言葉が足りなかった、大人が喧嘩してたり喧嘩の原因と思われる物を主婦が盗って逃げたら、本当は警察に協力して喧嘩を止めたり、盗って逃げた主婦を捕まえるべきなんだろうけど、今は停電で組織が上手く機能してないみたいだから、警察官が現場に来れないかもしれないし、警察官が来るまで大人達に色々言われたり俺達が争い事を解決する事になるかもしれない。だから全ての犯罪行為に対して、俺達は警察官じゃないんだから取り締まったり捕まえたりする必要はないと、俺は考えてる」
すまん、直樹。俺は停電してようと、してなかろうと、目の前で揉め事が起きてたら、面倒くさいからその場から立ち去るけどな。
そもそも大人達が話し合いで解決出来ないって状況が問題だし、ましてや大人達が殴り合いをしている状態なんて、もう論外でしょ。ってな事を考えていると、直樹は話しを続けて
「スーパーの駐車場での喧嘩を放っといたのは、大人同士で男同士だったからで、あれが大人と子供だったり男性と女性だったら、俺達はたぶん喧嘩を止めてたと思う、ただ俺達が思っていた以上に治安が悪くなってるから、今後目の前で争い事や揉め事が起きたり遭遇する事が多くなるはずだ、だからそんな時にどの段階でどんな状況の時に俺達は手を出すのか、今のうちに境界線を決めて考えをまとめておかないと、いざって時に迅速な対応が出来ないと思ったんだ」
すると千春がお茶に手を伸ばしながら体を起こし
「それなら難しく考えないで、今まで通り弱きを助け強きをくじくで良いんじゃないかなあ」
千春は一口お茶を飲んで
「でも弱きってのが、自分が弱い立場ってのを理解していて、それを利用して強い立場の人を使って、ラクしようとしている場合だったら状況は変わるんだけどね」
俺は腕を組んで
「だな、子供だったり女性だったり一見すると弱い立場だったりするけど、弱い立場のふりをしてれば、強い立場の人達が手助けしてくれるって知ってるから、自分の都合の良い様に強い立場の人を利用して、手助けが必要な本当に弱い立場の人達を陥れたりするからなあ」
直樹が眉間に皺を寄せながら
「確かに、その辺りの見極めはなかなか難しいな」
千春が腕を組んで
「そうなんだよねえ、じゃあさ、言い争っている場合は状況を見て判断する事にして、一方的に殴ってたり殴られてたりしてたら、一応止めに入るって感じはどうだろう」
俺は千春に
「ん~、結局、今まで通りな気がするけど、そんな感じで良いと思うよ、出来る事ならそんな状況に巻き込まれたくないってのが、本心だけどな」
直樹が腕を組んで苦笑交じりに
「だな、でも多分、今までよりもそんな状況に出くわす事が多くなるんだろうな」
俺は腕を組んだまま眉間に皺を寄せ
「俺は自分に危害が及ばなければ良いんで、自力でトラブルを解決できない様な弱いヤツは、俺の目の届かないところで勝手にやってろって感じだけどな」
千春が苦笑交じりに
「みんながうっちーやなおっきーみたいに強い人達じゃないんだからね」
困難な状況になると人に頼って何とかするとか、単純に人に甘えているだけにしか思えないのだが。
まあ、色んな人がいて色んな考え方があるから、俺としては色んなやり方で困難を乗り越えて下さいなって感じだ。
ただ、弱い立場のふりをしている人の卑劣な企てに巻き込まれるのは、本当に勘弁してもらいたいもんだ。って考えていたら
「どうしたんだい、三人して難しい顔して」
飲み物を持った北野先生が飲み物を持って、俺達の前に立っていた。




