第20話 怖さの克服
「念話は思いつかなかったあ」
「だね、停電してからほとんどずっと一緒に行動してたからね」
「だな、スマホ使う必要がなかったもんな。ってかスマホ使えないんだけどな」
「ん~、怖いから僕も念話を使えるようになっときたいなあ」
俺と千春は沙織達が使える様になった念話について話していた。
俺は体を直樹達に向けて足を組んで座って、テーブルに右肘を乗せて頬杖をつきながら千春と話している。
隣に座っている直樹は椅子の背もたれに体を預けて、頭の後ろで指を組んでいる。ボーっとしているのか、あるいは何か考え事をしているのか遠くを見ていた。
千春はテーブルにうつ伏せて腕を枕にして頭を乗せている。そして顔は横に向けて、直樹の隣に座っている俺と話していた。
俺、直樹、千春の順番で横に並んで、それぞれくつろいだ感じで座っていた。
沙織と麗奈が、白沢先生の話しを聞いて電気が復旧するか治安がある程度回復するまでは、小学校に残る事に決めた。
今使える魔法は、生活する上で必要不可欠となる火と水を発生さる火魔法と水魔法。暗い場所を明るく照らす魔法ライト。体や衣類を清潔に保つ為の魔法クリーン。自分や他人が発生させる音を遮断する魔法サイレント。
そして、傷を治す治癒魔法ヒール。危険を察知した時、離れた場所にいる人に助けを求める手段としての魔法、念話。離れた場所の物に衝撃を与える魔法、衝撃波。重い物を持ち運びする時に重宝しそうな魔法、身体強化。
沙織と麗奈と白沢先生は、これらの魔法について使い方次第で他にも、生活の質を上げる為に何か役に立つかもしれないから、使い方をもっと色々考えたいと言い。今の生活で不便と感じている事に対しても、他に何か新たな魔法を使って解決できる事があるかもしれないから、他の大人達も交えて話し合う為に、沙織達は職員室に向かった。
難しい話は沙織達に任せて俺達三人は沙織達を職員室に見送った後も、校庭に設けられた飲食兼休憩エリアでくつろいでいた。
俺は頬杖をついたまま千春に
「念話は使えると便利かもな。待ち合わせ場所に遅れそうな時とか離れた相手とやり取りするのに便利だもんな」
千春は腕枕に頭を乗せこっちを向いたまま
「それもあるけど、治安が悪くなってるから一人でいる時に変なヤツに絡まれたらイヤなんだよね」
俺はスマホの感覚で念話を使えたら良いかもって思っていたが、千春の考えは違っていたみたいだ。
千春は腕枕に頭を乗せたまま右手で指折り数えながら
「小学校に来るまでにヒトデナシに二回遭遇してるし、小学校ではヤギに二回も遭遇してるんだよ。それに小学校の校庭に人さらいも現れたよね」
千春は大袈裟にため息を吐くと
「うっちーとなおっきーは、それぞれ一人で変なヤツと遭遇したとしても怖くないかもだけど、僕は一人だったら絶対にムリだよ。だからうっちー達に助けてもらうために、非常事態に備えて念話を使えるようになっときたいんだよねえ」
確かに、今日一日を振り返るとヒトデナシに襲われている先生達を助けたり、沙織達にヒトデナシが絡んで来たなあ。
小学校では校舎裏でヤギに襲われている女性を助けたり、校庭で沙織達が四人組の男達に攫われそうになったな。そして男達がヤギに変化して沙織達が襲われるトラブルが発生したばかりだ。
千春のいう通り、今までなら滅多に発生しないトラブルが今日一日でここまで多く発生していると、流石に不安を感じてしまうのかもしれない。
頭の後ろで指を組んだまま直樹が千春に
「魔法で撃退は出来ないのか」
「人間の変なヤツだろうとヒトデナシだろうと、襲い掛かって来たら怖くって魔法なんて使えないと思うなあ」
直樹は腕をテーブルに乗せ千春を見て
「何がそんなに怖いんだ」
すると千春は少し考えて
「ん~、相手が何か大きな声を出しながら迫って来たらたぶん体が動かなくなるから怖いし、殴られるって思ったら痛いからやっぱり怖いよね。それに羽交い絞めにされたら逃げられないんで怖いし、後はやっぱ相手が自分に何をしてくるのかが分からないから怖いかな。改めて何が怖いのかってのを聞かれても、今思い当たるのはこんくらいかなあ」
直樹は腕を組んで少し考えると
「千春の怖さを克服するには、格闘技や対人戦闘の知識と経験を積めば解決するんじゃないのか。威圧的、高圧的な態度で詰め寄られると身体が委縮してしまうのなら、知識と経験が伴えば、相手の力量が見抜ける様になるから、身体が委縮する事はなくなると思うぞ」
と言い、千春を見ながら
「それと打撃に対しての対処方法や掴まれた場合の離脱方法が分からないのも、知識と経験で対応できるだろう。相手が何をして来るのかが分からなくて怖いのも、知識と経験があれば、相手の行動を予測する事が出来るから、怖くはなくなると思うぞ」
千春は腕枕に頭を乗せたまま、唇を尖らせて
「確かになおっきーの言う通り、それが怖さを克服する解決方法かもしれないよ。でもね、僕ってなおっきーみたいに恵まれた体格じゃないし非力なんだよね。んで腕力で人と争う事なんて出来ないし、汗を流すのだって好きじゃないんだよね。それに運動もどちらかと言うと苦手なんだよね」
千春は話しながら体を起こして
「後はやっぱり蹴ったり殴ったりとかって、されるのもイヤだしするのもイヤなんだ。せっかく考えてくれたのに、ごめんね」
直樹は組んでいた腕をほどき
「いや、俺の配慮が足りなかった。こっちこそ力になれなくて、すまなかった」
と言い、千春に頭を下げた。
俺も直樹と同じ解決方法を考えていたが、千春には無理だったか。
考え方や解釈の仕方は人それぞれだけど、陸上競技や色んな球技みたいに、身体を動かして汗を流すスポーツって感覚で、格闘技に触れてみれば、人を蹴ったり殴ったり投げたり、絞めたりして野蛮だってイメージは、少しはなくなると思うんだけど、やっぱり未経験者には理解出来ないんだろうな。
スパーリングや組手を体験してみると分かるけど、効率良くポイントを稼ぐ為に虚実、フェイントを織り交ぜながら、色んな駆け引きがあって意外と頭も使っているんだよなあ。
でも、見る人によっては腕力でいかにして効率良く人体を破壊するか、腕力でいかにして、迅速に相手を無力化するか、そんな力任せで危ない行為を競い合っている連中って感じに、見えちゃうのかもしれないな。
それに、千春みたいに運動が苦手で、汗を流すのも好きじゃないって人に対して、スポーツを勧めても断られるのが決まっている様な物なのに、格闘技なんてもっての外って感じなんだろうしな。
でも、今って魔法が使えるんだよね。
俺は頬杖を止めて、テーブルにもたれかけていた体を起こし千春に
「なあ千春。体型や性格的に格闘技で怖さを克服するのがムリなら、魔法を使って克服するってのはどうだ。例えば、物理防御魔法とか魔法で結界を張ってダメージを喰らわない様にしてみたりするとか、そしたら怖くなくなって集中して魔法を発動出来るんじゃないか」
千春は目をパッチリ開いて
「おおっ、良いかも。魔法を使って何かするのは良いかも。それなら今の僕でも出来そうな気がするよ、叩かれても痛くないって分かってるなら、魔法に意識を集中出来るからね、魔法で自分の周りに常に結界を張っとけば僕って無敵じゃん」
千春には身体を使った解決方法じゃなくって、魔法を使って怖さを克服する解決方法なら大丈夫そうだ。
するとニコニコしていた千春が、何かに気づいたようで眉間に皺を寄せながら
「鉄壁の防御で安全な状態にしてから攻撃魔法って思ったけど、ヒトデナシや人間に対して魔法攻撃は出来ないかも。ファイアーボールを当てて火傷姿で襲い掛かって来るってのを想像したらムリだ」
直樹が隣で顎を引いてしかめっ面になっている。
俺もそれは流石にキツイと思ったので、千春に
「確かに想像すると気持ち悪いな。でも凍らせて足止めとか、電撃でスタンさせるとか突風で吹っ飛ばすとか、ファイアーボールに捉われなくても良いんじゃないか。俺さっきライトボールで、ヤギに目潰し喰らわせて動き止めたし。もしくはヒトデナシって消滅するから、一撃で消滅させるくらいの超火力でファイアーボール打ち込めば良いんじゃね」
「そっか、物凄いのを打ち込めば気持ち悪いの見なくて大丈夫だね。あと思ったんだけど、火魔法って場所によっては火事になるよね。違う攻撃魔法も考えといた方が良いかもだよね」
そう言って千春が苦笑いしていた。
俺は学校で待機している時に、俺達以外で魔法を使える生徒が火魔法で壁に貼っていたポスターを燃やしてしまい、危うく建物火災にまで発展しそうになった事を思い出して苦笑した。
すると直樹が難しい顔をして
「なあ、ヒトデナシは消滅するから良いとして。変なヤツが襲ってきたら返り討ちにして追っ払ったりもするが、野放しにしたら危険なヤツは捕まえとかないと不味いよな。でも今って窃盗とか強盗とかって捕まえたらどうしてるんだ、もし俺達が変なヤツを捕まえた場合はどこに連れて行けば良いんだ」
千春も難しい顔をして
「ん~、警察の人に言えば良いのかな、でも白沢先生の話しだと何かダメっぽい感じだったし」
俺も言われて今気づいたので適当に
「だな、警察じゃなくてここの小学校に連れてくれば良いのかな」




