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第19話 大人の事情

 白沢先生は麗奈に手を握られ、椅子に座るように勧められた。白沢先生は今にも泣き出しそうで、なんか悲しい表情を浮かべながら座った。


 白沢先生は大きく深呼吸をすると、何かを決心したような真剣な表情になり、俺達を見てから聞いて欲しい事があると言った。


 白沢先生の話によると学校、警察、消防、役所、他にも色んな組織が停電で本部と連絡が取れなくなり、停電発生当初は物凄く混乱していたそうだ。


 でも、各組織の大人達は何時まで経っても連絡が取れなくて指示が受けられないからと言って、何もしないのは不味いと考え、現状で最善と思われる判断を独自に下し動き始めた。


 組織の垣根を越えて協力し合う人達、今まで通り自分達の組織で自分達の職務や役割を遂行する人達、組織や役職、組織体制にも捉われない個人の能力を重視して、団結し行動する人達。


 色んな人達が色んな考えのもと、現状で最善と思われる判断で、独自に動き出してしまった為に指示系統がバラバラになり、それぞれの考え方により優先順位もバラバラになってしまった結果、全ての組織が機能不全に陥ってしまったそうだ。


 俺としては「そうなんですかあ、大変みたいですが、大人の皆さん頑張って下さい」としか言いようがないのが心境なのだが、下手な事言って怒られるとイヤなので静かに黙っていた。


 姿勢を変えるふりして隣の直樹を見てみると、腕を組んで目を閉じていた。千春はテーブルの上で指を組んで、親指あたりを見つめていた。


 テーブルを挟んで俺の正面に座っているのが白沢先生、左斜め前が沙織でその左隣に麗奈が座っている。


 沙織は隣の麗奈にも白沢先生が見える様に気を遣っているのか、椅子の背もたれを左脇で挟み、右手で背たれを掴み、白沢先生に体を向けて話しを聞いている。


 麗奈は左手は右手首に添えて、右腕をテーブルに乗せ、体を右に傾けながら白沢先生の話しを聞いている。


 そんな疲れる態勢で話しを聞かないで、少し椅子をずらせば良いのになって思いながら、俺は再び白沢先生の話しに耳を傾けた。


「この地域一帯の治安が乱れてる状態です、極端かもしれませんが今までは法律や規則によって心の弱い人達を抑制する事が出来てました。でも、組織が機能してない今は善悪を判断する基準として、人それぞれの倫理や道徳による判断に委ねられてしまってます。取り締まる人が居なくても、今までと同じように秩序を守って生活が出来る人達ばかりでは無いのです」


 つまり、学校で授業が自習になって先生が教室にいないと好き勝手に遊びだす生徒みたいなもんかな。もしくは、怒る人達がいないから怖い物なんて何もないぜって感じで、やりたい放題になっちゃってるって事なのかな。


「私達が一刻も早く乱れた治安を整えないと、辛い思いをする人達がどんどん増えてしまいます。そんな時に今回の吉田さんと中井さんの未遂事件が起こってしまって、私はとても悔しいのです。私達のせいであなた達を危険な目に合わせてしまい、本当にごめんなさい」


 白沢先生は沙織達に体を向けて座り直し、両手は膝の上に置いて頭が膝に着いちゃうくらい深く頭を下げた。


 なるほど、白沢先生が沙織達に謝っていたのって、大人達が一致団結出来ていなくてごめんなさいって事だったのね。


 んで、白沢先生が椅子に座った時の泣きだしそうで、悲しそうな表情だったのは、俺の勘違いで、乱れた治安を元に戻す環境が整っていない事に対して、悔しがっていたのね。


 人の心の中の事は、言われないとやっぱ分からないもんだな。ってな感じの事を思っていると、沙織と麗奈が困った表情で


「先生、さっきも言いましたけど、私達は気にしてませんから」


「本当に大丈夫ですから、頭を上げてください」


 白沢先生が頭を上げると、目には涙を浮かべていた。


 すると沙織が俺達を見て


「学校の人達に魔法の使い方を教えて家に帰るつもりだったけど、今の話しを聞いて考えが変わったわ。この学校で白沢先生達に協力しながら、ある程度治安が回復するのを待ってから家に帰ろうと思うの、麗奈はどう思う」


 麗奈はお茶を飲もうとしていたのを止めて


「私は今の話しを聞いて家の事が少し心配になったけど、たぶんパパもママも大丈夫だと思うから、早く電気が復旧する事を期待しつつ、私も沙織ちゃんと一緒に白沢先生達に協力するよ」


 沙織が少し照れた感じで


「そうよね、治安が回復するより先に、電気が復旧すれば元の生活に戻るのよね。白沢先生の話しを聞いて少し熱くなってたわ」


 二人は小学校に残るのね。麗奈を家まで送るんで沙織と麗奈と一緒に帰っている途中だったけど、沙織達が帰らないってんなら俺も残るかな。


 俺は家に急いで帰りたいって事でもないんだよな、下校しようと思ったのは学校の非常食に飽きて来てたし、先生達がイライラしてたりして、学校で待機しているのが面倒くさくなったからなんだけど。


 ここの学校の炊き出しは、メニューが豊富でお代わり自由だから、俺はこの学校で電気が復旧するのを待って家に帰れば良いって感じだなあ。


 直樹はたぶん俺と一緒で、食べ物が豊富だから復旧するまで待機って考えそうだな。


 千春は家にファンタジー作品を取りに帰りたいって言ってたが、急いで取りに帰りたいのかな。千春を家まで送るって言っていた事を忘れていた。


 隣の直樹を見てみると、腕を組んでテーブルを見つめていた。千春はテーブル上で指を組んで、左右の親指をくっ着けたり離したりピコピコ動かしていた。


 沙織はお茶を一口飲んで


「千春はどおするの」


「えっ、僕」


「どおせ、克也と直樹は食材を無駄には出来ない、とか何とか言って、炊き出しを頂きながら復旧を待つと思うのよ、でも千春は家に小説を取りに帰りたいんでしょ」


「ん~、確かに家には帰りたいけど、この学校で魔法を使いたいって人に魔法を教えながら、どうするか考えるかなあ。もしかしたら今日とか明日には電気が復旧するかもしれないしね」


 俺は直樹を見ると俺に気づいて頷いてた。どうやら直樹も炊き出し目的で残るみたいだ。っで良いんだよな、俺の勝手な憶測だけど直樹、何か言おうよ。


 沙織の意思表明は終わったぽいので、俺は気になっていた事を麗奈に聞いてみた


「なあ麗奈、さっき離れていたのに何で飲み物を人数分、持ってこれたんだ」


 すると、千春も気づいたみたいで


「あっ、そうだよね、麗奈ちゃんこっちにいなかったのに何で分かったの」


 麗奈と沙織がニヤニヤし始めた。


 すると二人は手をつなぎ、お互いに見つめ合って頷くと、俺達を見て


 沙織が自慢げな顔をして


「以心伝心」


 麗奈が笑顔で片目を閉じて


「テレパシー」


 二人は一瞬驚いた顔をすると、お互いを見て


 沙織が


「なんで~」


 麗奈が


「ええええ」


 俺は何となく察したので、騒いでいる二人を見ながら、意味合いは同じだけど二人で違う事を言っちゃってるじゃんって思っていると。


 千春が身を乗り出して


「すごい、念話が出来ちゃったの」


 騒ぐのを止めて、こっちを見て小首を傾げている二人に俺は


「名称は色々あるけど、俺や千春にお馴染みのファンタジー作品では、念話って言って以心伝心やテレパシーみたいに、声に出さなくても相手と意思の疎通が出来る魔法の事だ」


 沙織が俺の補足説明を聞いて


「へー、念話って言うんだ」


 沙織がつぶやいている隣で麗奈が


「まだ完璧ではないんですけど、今は何となく沙織ちゃんに呼ばれている気がしたり、沙織ちゃんが頭で思い描いている事が何となくイメージ出来る感じかな」


 すると沙織が


「さっき麗奈に飲み物をお願いした時に、こっちに来る前に私に意識を飛ばしてって言っといたのよ。そんで麗奈に呼ばれた気がした時に麗奈を見たら、お茶を十本持ってたんだけど、保健の先生と男性と女性はどっかに行っちゃったでしょ。だから頭に七って数字を思い浮かべて、麗奈にこっちの人数を伝えたのよ」


 麗奈が胸を張りながら


「私は沙織ちゃんから人数を伝えてもらったから、お茶を三本戻して人数分の七本持って来たって感じです、最終的にはスマホみたいに出来たら良いなって思って、頑張ってるんですよ」


 ん~、沙織と麗奈は魔法への順応性が高いなあ、俺も何か便利な魔法を使えるようにならないとだな。

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