第17話 ヒトデナシについて
校長先生から停電で電気が使えない今の不便な生活が、魔法を使う事で改善させる事が出来て、地域の人達が快適で安全なより良い暮らしが可能になると、熱心に長々と話しを聞かされた。
魔法を使って色々何かをやるのは、どうせ大人の仕事なんだから、俺達には関係ないんじゃねって感じだし、早く話しが終わってくれないかなって事しか考えてなかった。
北野先生は俺達に魔法について色々聞きたいみたいな感じだったけど結局、俺達は校長先生に魔法の何を話せば良いんだろう。なんて事を考えていると校長先生が
「あなた達にお願いがあります。とても申し上げにくい事なのですが、家に帰る前に私達に魔法の使い方を教えて欲しいのです。あなた達の親御さんがあなた達の帰りを待ち望んでいる事も理解しているつもりです。もちろんあなた達の都合もあるでしょう、ですが私達には魔法が必要なのです。なので私達に魔法を教えて頂けないでしょうか、どうかよろしくお願い致します」
俺達の正面に座っている大人達が頭を下げた。
遊び感覚で使えるようになった魔法なのに、そんなに丁寧にお願いされちゃうと、なんかもの凄く戸惑ってしまう。
俺達だけしか魔法が使えないわけでもないし、学校のクラスの生徒達も魔法は使えた。さっき白沢先生も範囲は狭いがクリーンを使えた。
根拠は無いけど、たぶん教えればほとんどの人が魔法は使えるんだと思う。そんなに丁寧に頭を下げなくても「教えてね」って言われれば「はい、分かりました」で済む話しなのに、何でこんなに必死になっているんだろう。
すると隣の直樹が
「どうか、頭を上げてください。解らない事は多いですが協力させて頂きます」
「俺も協力します」
「僕も」
急いで家に帰りたいって感じじゃないし、親は心配はしていないと思うから、直樹の真似して答えてみた。すると千春も答えてた。
「ありがとうございます。後で何人か魔法を教えてもらいたい人を連れて行きますので、よろしくお願いします。それまでは校内でゆっくりしていて下さいね」
そろそろ話しが終わるのかなって思っていたら直樹が
「一つ宜しいでしょうか」
「ええ、なんでしょう」
「ヒトデナシについて伺いたいのですが」
「それについては、武田さんと成田さんね」
直樹がヒトデナシについて聞いてくれるみたいだ。
俺も気になっていたんだよな、校長の話しが長くて忘れていたよ。
校長先生が警察と消防の人に話しを振ったら、消防の成田さんが座っているソファーから少し身を乗り出して
「ヒトデナシの何を聞きたいのかな」
「俺達に話しても良いと判断する範囲内でのヒトデナシの情報と、今後のヒトデナシの対応についてです」
直樹の話しを聞いて警察の武田さんが身を乗り出してきた。
「ヒトデナシに関して今は憶測でしか話しが出来ないってのが現状だが、それでも構わないかな」
「はい、構いません」
直樹が答えると、警察の武田さんはソファーの背もたれに体を預け、消防の成田さんが話し始めた。
ヒトデナシの発生現場に居合わせた人達の話しをまとめて考察した結果。ヒトデナシに変化した人は、言い争っているうちに激昂し感情的になり、自己中心的で身勝手な言動や行動の最中に倒れ「人ではない何か」つまり「ヒトデナシ」に変化すると推測したそうだ。
そこで人々をヒトデナシに変化させない対応手段として、校長先生が熱心に話していた事に繋がって来るらしく、心と体を常に良い状態に保つ事で、心にゆとりが生まれ奪い合うのではなく、みんなで譲り合える環境に変わるらしい。
そうする事で食料不足や先の見えない不安な生活でも、すぐに感情的になったり自己中心的で身勝手な言動や行動が抑制され、ヒトデナシに変化する人を減らせるのではないかと考えたそうだ。
ヒトデナシの外見は髪の毛が全て抜け落ちシェイブドヘッド、いわゆるスキンヘッドのようになり、肌の色は緑色に変化し、目全体が黒くなり白目の部分がない。
ヒトデナシは自分よりも腕力が強い相手と判断すると、逃げるか近づいて来ない。最近は複数で行動したり、角材やスコップを持って襲い掛かってくる個体も確認されている。
変化する前の身体能力や経験は残っているようで、ただ掴みかかって噛みついて来るだけの個体もいれば、柔道の技を使った個体も確認されているそうだ。
ヒトデナシはある程度の損傷、あるいは打撃を与えると消滅する事が確認されている。
そして、ヒトデナシ達が生物を捕食する事を確認している。つまりヒトデナシは生き物を襲って食べているんだそうだ。さらに生き物の中には人間も含まれている事から、地域住民の不安を煽る形となるので、まだ情報は非公開にしているとの事だった。
「よって、我々は地域住民が被害に合わぬようヒトデナシへの対応策として、見つけ次第、駆除している」
消防の成田さんは一気に話して喉が渇いたのか、お茶を飲み始めた。
北野先生はヒトデナシが人を襲て食べているって事を、始めて知ったようで、ちょっと顔色が悪くなっていた。
話しを聞くまではヒトデナシが襲ってきたら追っ払えば良いかなって思っていたけど、これからは見つけ次第、俺達もヒトデナシを駆除しないとマズイんじゃないかってな事を考えていると、直樹が消防の成田さんに
「自分達もヒトデナシを見つけたら駆除した方が良いのでしょうか」
「君達が駆除する必要はないよ。付近の大人に報告してくれれば我々で対応する。ただ、君達だけで対応しても危なくないと判断したならば、駆除してもらって構わない。すでに君達は、ヤギ型を駆除した実績があるそうだが、くれぐれも無理はしないでくれたまえ。危険と判断した場合は直ぐに我々に報告するようにしなさい」
ふむふむ。やっぱヒトデナシは見つけたら駆除しちゃって良い感じだな。にしてもあのヤギ頭はどんなヒトデナシだったんだろう、スキンヘッドも気持ち悪いが、頭がヤギってのはかなり衝撃的だったなあ。ってな事を考えていたら、直樹が消防の成田さんに
「分かりました、無理せず可能な範囲で自分達も協力します。それと一つ質問を宜しいでしょうか」
「ありがとう、何かね」
「先ほど話されたヒトデナシとヤギ型とは何が違うのでしょうか」
消防の成田さんが警察の武田さんに目配せすると、少し険しい表情になった武田さんが
「君達が保護した女性を見て察したと思うが、ヤギ型は女性に対して暴行を行う個体と我々は認識している」
なんか応接室の雰囲気が一気に重くなった気がする
「肌の色が緑の個体が空腹を満たすために行動しているとして、ヤギ型は性欲を満たすために行動していると思われる」
俺の中でヤギ型は見つけ次第、即駆除する事が決定した。
「正確な個体数は不明だが、ある建物に少なくても四体以上のヤギ型が潜伏している事を我々は把握している。明日駆除しに行く予定だ」
おお、頑張って下さい。空腹を満たすためにうろついているヒトデナシも危険だけど、ヤギ型は優先的に駆除しないといけない気がするぞ。
〇
応接室での話しが終わり、北野先生は用事があるとの事で職員室に向かった。
俺達は少しゆっくりしたいので、炊き出しを頂いた校庭に向かって廊下を歩いている。
千春が腰に手を当て、背中を伸ばしながら
「いや~、何か学校の外は大変な事になっていたんだね、本当にビックリだよね」
「だな、店は荒らされトラックの荷物も荒らされてて、ただ事ではない感じってのは何となく分かってたつもりだったけど、人がヒトデナシに変化しちゃうとか思ってた以上に大変な状況みたいだな、教室でゴロゴロしてて外の状況なんて知らなかったもんな」
「だね~、あと魔法が必要で教えて欲しいなら、教えてって言えばいいだけなのに、なんで大人ってやたら説明が長いんだろうねえ」
「それな。俺も思った、あと悪い人では無いんだろうけど、校長先生の熱意と言うか必死さがなあ」
「うんうん、なんかグイグイ来られても、その分こっちは距離を開けたくなるよね」
階段を二階から一階に下りながら、千春が後ろを歩く直樹に
「あと、なおっきーは普通に大人の人と会話しててかっこよかったよ」
「俺も思った、すっげえ助かった。真面目な話しとかされて、なんて言って答えて良いのか分からなかったし、言葉使いとかも分からなかったからなあ。だから、とりあえず直樹の真似しといた」
「うんうん、校長先生や警察と消防の人とか、普通に生活してて話す事ないしね、そもそも大人と話すのって、学校の先生か自分の親くらいだからね」
「だな、俺はバイト先とかキックボクシングジムとかに、年上の大人はいるけど、校長先生とか警察と消防の人くらい、年上の大人と話したのって始めてかもしれないぞ」
俺と千春で直樹の大人の対応を称賛していると、直樹が少し照れた感じで
「キックボクシングジムには居ないけど、空手道場の方には年上の大人は結構いるからな、道場での大人達の会話とか、やり取りを見てたし、それに俺も道場の大人達と会話したりもするからな」
「なるほど。んじゃ、これからは大人達と何かやり取りする時は直樹が担当って事で、よろしくな」
「よろしくね~」
直樹は苦笑いしながら頷いていた。