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第16話 快適で安全な暮らし

 俺は直樹と千春と一緒に北野先生と小学校の応接室に向かっていた。


 千春が廊下を歩きながら


「ん~、やっぱり緊張するよね」


「だよなあ、校長先生と警察署と消防署の人達だろ、普段滅多に話さない人達だもんな」


「胸を張って悪い事はしてないって言えるけど、やっぱ緊張するよね」


「んで、話す内容が魔法だろ信じてもらえるのかね」


「大人をバカにするなって怒鳴られたらヤダね」


 隣で歩く直樹も少し浮かない表情だ。


「ここです、着きましたよ、そんなに心配しなくて大丈夫ですよ」


 北野先生が俺達に声を掛けて、応接室の扉をノックした


「北野です、東高校の生徒さんをお連れしました」


「はい、どうぞ入って来てください」


 応接室から女性の声がして北野先生が扉を開けた。


 部屋の中には二人掛けのソファーに男性が二人、テーブルをはさんで二人掛けのソファーに女性が一人。


 三人の大人がご飯を食べていた。


「廊下で待ってますので終わったら声を掛けて下さい」


 北野先生がゆっくり扉を閉めた。


「構わないから入ってきてえ」


「いえいえ、ゆっくり召し上がって下さい」


 応接室から女性が声を掛けて来たが、扉越しに北野先生が返答した。


「今日は学校内でも数件ヒトデナシの目撃や襲撃が発生してるので、対応に追われて食事の時間が遅くなったのかもしれませんね」


 俺はさっきのヤギみたいなヤツもヒトデナシなのか気になったので聞いてみると


「学校外での目撃報告は聞いてましたが、学校内で確認したのは今回が始めてだと思います、アレもヒトデナシです」


 てっきりヒトデナシって緑色のヤツだけかと思っていたからビックリした。他にもヒトデナシって種類がいるのか聞いてみた。


「私が知ってるのは、髪の毛が抜け落ちた緑の個体とヤギ頭の個体だけです」


 ふむふむ。次はどんだけヒトデナシってウロウロしているのか個体数を聞いてみた。


「正確に何体いるのかは分かりません。ただ目撃件数と襲撃件数は増えて来てます、さっき聞いた話ですと角材を持って襲って来たヒトデナシもいたそうです」


 道具を使うヒトデナシも現れたのか。俺も直樹みたいに衝撃波を使えるようにしとくかなあ。

 

 千春は廊下の窓を開けると外を眺め始めた。直樹は腕を組んで、壁に背中を預けて何か考え事をしているようだった。俺も廊下の壁に寄りかかりながら、ヒールや衝撃波とか新しい魔法を使えるように頑張ろうか、どうしようかしばらく考えていた。すると応接室の扉が開いて、中から女性が顔を出した。


「お待たせしました、どうぞ中に入って空いてる席にお掛けください」


 扉を開いて女性が応接室に俺達を招き入れた。


 二人掛けのソファーに俺と直樹が座って、ソファーの隣に置いてある折り畳みのパイプ椅子に千春が座った。


 テーブルをはさんで二人掛けのソファーに男性が二人座り、ソファーの隣に置かれた折り畳みのパイプ椅子に女性が座っている。


 応接室の扉の近くに北野先生が折り畳みのパイプ椅子を置いて座った。


「自己紹介の前に、ヒトデナシに襲撃されてた女性を保護して頂きありがとうございました。そして校内に出没したヒトデナシを撃退してくださり、ありがとうございました」


 俺達の正面に座っている大人三人が頭を下げた。


 大人の人から丁寧に頭を下げられる事が生まれて初めての事だったので、ビックリして一瞬固まってしまった。


 隣の直樹が無言で頭を下げた。どうしていいのか分からなかったので、俺も直樹の真似して頭を下げといた。すると、パイプ椅子に座っている千春も遅れて頭を下げていた。


 大人三人が頭を上げるとパイプ椅子に座っている女性が


「そんなに硬くならないでラクにしてください。私はこの学校で校長を務める菊池です、私の隣に座ってらっしゃるのが警察署に勤めている武田さん、その隣が消防署に勤めている成田さんよ」


「よろしく」


「初めまして」


 ベージュのスーツを着た女性が校長先生で、白髪交じりのスポーツ刈りが警察の人、やけに眉毛げの太いスポーツ刈りが消防の人か、警察の人は白のポロシャツ姿で消防の人は紺色の長袖のシャツだ。


 二人ともやけに体格の良いおじさんって印象で、いかにも肉体労働者って感じだな、警察や消防の人って言われないと分からないな。


 校長先生はいたずらとか冗談が通じない感じで、少し怖くて厳しい印象だ。


「東高校、二年の川内です」


「同じく、東高校二年の森下です」


「えっと、同じく加藤です」


 俺から直樹そして千春の順で挨拶をした。すると校長先生が


「停電が発生してから五日、今だ詳細な情報が掴めない状況です。そして地域の人達は先の見えない不安と戦いながら、電気が使えない不便な生活を送ってます。それでも地域の人達はみんなで助け合い、協力しながら頑張ってます。もちろん私達も先の見えない状況でとても不安なのは同じ気持ちです、だからこそ私達は少しでも地域の人達の負担を軽減し、不安に怯える事なく前向きな生活が出来る環境作りを目指したいと考えております」


 校長先生は一度俺達を見て姿勢を正すと


「私達はあなた達が魔法を使えると聞きました。そこで私達はあなた達から魔法を教えてもらい、電気が復旧するまでの間は魔法を使って生活の質を向上させたいと考え、本日あなた達に話しを聞かせてもらいたく、こちらへお越し頂きました」


 なんかすっげえ真面目な話になってるんだけど。


 俺は使える魔法を説明して、魔法が使えるようになった経緯とか話して終わるのかと思っていたけど。なんか大事っていうか大げさっていうか、どうしよう。


 そもそも、千春が「もしも」に備えていたら魔法が使えるようになって、それを見て、夜は暗いから明かりがあったら良いなって思ったんで、暇つぶしに遊び感覚で魔法を試したら、出来ちゃった程度の事なんだよなあ。


「遊び感覚で出来ました」とか言ったらなんか怒られそうだな。


 困ったぞ、なんて話したら良いんだろう。なんて事を悩んでいると北野先生が


「校長、彼らは魔法の重要性というか、有用性についてはまだ気がついていない様子なので、魔法が使えると今の生活にどれだけ役に立つのかを、少しお話しされるのがよろしいかと」


「ごめんなさいね、魔法があれば今私達が抱えている色んな問題が解決する事が分かったから、嬉しくて舞い上がっていたみたいね。じゃあ何から話そうかしら」


 校長先生が一口お茶を飲み呼吸を整えると、俺達を見て話しを始めた。


 北野先生から俺達の魔法の話しを聞いた時は、手品だとかオモチャを使っているとか半信半疑の状態で、魔法の存在については疑っていたんだそうだ。


 北野先生が退室してしばらくすると、白沢先生が沙織と麗奈を連れて応接室にやって来て、校長先生達にクリーンの魔法を使ったそうで、身体も衣類も綺麗になって魔法の効果を実感した校長先生達は、そこで一気に魔法に対しての疑いが晴れたんだそうだ。


 魔法の存在を認めた校長先生達は、これからは積極的に魔法を使って地域の人達の生活の向上に役立てて行こうと話し合いを始め、夜は絶対に明かりは必要だし特に夜は防犯面で明かりがとても重要だとか。


 そして水魔法と火魔法に関しては、生活するうえで水と火は必要不可欠でかなり重要だし、クリーンは身体と衣類を清潔に保てる事は衛生面でも精神的にも、重要なんだそうだ。


 サイレントは避難所で就寝する場合に、静かな環境で眠れるので心身ともに休まる事に繋がり重要だし、起きている時でも人の会話が気になる場合があるので、余計なストレスが無くなるとの事だった。


 先の見えない生活の中で、水や燃料を節約出来る事はとても重要だし、とにかく魔法を使うことで生活の質が上がり、地域の人達が快適で安全な、より良い暮らしが可能になるそうだ。


 すっごい熱く色んな事をいっぱい説明してくれてたんだけど、魔法を使って色々何が出来て何をやるのかは、どうせ大人の仕事なんだから、俺達には関係ないんじゃねって感じで「はあ、そうですか頑張って下さいね」って感じだったし、俺は早く話しが終わってくれないかなあって事しか考えていなかった。


「魔法が使える事で先々の不安が解消され、より安全で快適な生活が出来るようになるって事が少しは伝わったかしら」


「ええ、自分が思っていた以上に、魔法って便利なんだなって感じました」


「そうよ、とてもありがたい物なのよ。ただ問題はこの現象が何なのか解らないって事と、イメージと想像力で発生するって事よね」


 笑顔で話していた校長先生の表情が、少し暗い表情に変わっていった


「あまりにも不明な点が多すぎるが、色々と確認しながら慎重に使っていくしかないだろ。藁にも縋るじゃないけど、今は選り好みしていられる状況でもないからな。使えるものは何でも使わないとな」


「ですな、それにどんな道具でも使う人次第で用途が変わってしまう。使う人の心を信じるしかないだろうな」


 警察の人と消防の人も二人して思い悩んだ表情をしていた。


 校長先生もだけど、この二人のおじさんの名前も忘れちゃったよ。

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