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第15話 ヤギ

  俺は千春と直樹の三人で、北野先生と魔法の話しをする為に校舎内に移動する事にした。


 校舎の昇降口に入ると北野先生が


「靴は脱がなくて良いからね」


 てっきり靴を脱いでスリッパにでも履き替えるのかと思っていたので


「土足で中に入って良いんですか」


「あまりにも汚れが酷いようならスリッパに履き替えてもらうけどね」


 千春が自分の靴の汚れの確認をしながら


「へー、校舎内を土足ってなんか変な感じだねえ」


 北野先生が千春に


「今は外部の人達が多数出入りしてるから、学校の下駄箱の数とスリッパが足りないんだよ。仮に靴をスリッパに履き替えたとしても、靴を置きっぱなしにしちゃうと昇降口が靴で溢れてしまうからね。それに自分の靴がどれか分からなくなっちゃうでしょ」


 千春が昇降口と下駄箱を見ながら


「ああ、言われてみると確かにそうですね」


 北野先生は頭をかきながら


「本音を言うと色々と考えるのが面倒くさいからなんだけどね。自分の靴が分からなくなるなら、校舎に入る時に自分の靴を持って移動すれば済む事なんだけど、荷物を運ぶ時に手が塞がってると不便でしょ。じゃあ靴を入れる袋を用意すればって考えると、どんな袋を用意するのかで悩むからね、もう難しい事を考えないで校舎内は土足にしましょうって話しになったんだよ」


 千春が苦笑いて


「ああ、何となく分かる気がします」


 廊下を歩きながら北野先生が


「二階の応接室に向かいます、階段はこの先です。同席する人はここの学校の校長と警察署と消防署の人達だよ」


 どんな人達と話すのかは気になっていたけど、思ってもみなかった人達だったので思わず千春に


「校長先生とかでも緊張するのに、警察署と消防署の人達とかってさらに緊張するな」


「うん、普通にしてても悪い事はしてないのに、なぜか緊張するもんね」


「あ~、なんかすっげえ緊張してきた」


「だねえ」


 俺と千春の会話を聞きながら、直樹も緊張しているのか苦笑していた。


 俺は歩きながら廊下の手洗い場を見て、やけに低いなあ腰を曲げないと手が洗えないぞ、こんなに蛇口の位置って低かったっけ。などと考えていると


「なんか机と椅子が小さいねえ」


「ああ、言われてみるとやけに小さく感じるな」


 千春と直樹が教室の扉から中を覗いていた。


 俺達の前を歩いていた北野先生が振り返って


「高校生と小学生では体格が違うからね、机や椅子のサイズも変わってくるよ」


「そっかあ、当たり前のことだけど、改めて見てみるとこんなに小さかったんだね」


「だな」


「なおっきーは座った時に足が机に入らないかもね」


「だな、太ももの上に机が乗っかる感じだな」


 確かに直樹は成長しすぎて小学生の机と椅子は使えないな。でも、千春は意外とまだ大丈夫そうだぞ。


「んっ、あれは」


 北野先生が廊下の窓を開けて、窓から身を乗り出し外の様子を確認している。遠くの方から女の人が何かに追われているのか、後ろを振り返りながら走っていた。まだよく見えないが、鼻や口の周りに赤い血らしきものが着いているようにも見える。


 俺は窓を乗り越えて校舎の外に出た。直樹と千春も、俺に続いて窓から校舎の外に出る。


 女の人が俺達に気づいてこっちに走って来た。鼻から血が出ていた、転んだとかではなく、殴られて出血した感じだ。左の目の周りと頬が赤く腫れていて、服も乱れていた。そして、脱げてしまったのか靴を片方履いていなかった。


 女の人が走ってきた後方から、ラフな格好をした二体の何かが近づいて来ていた。


 俺は見た目に驚いて思わず


「アレもヒトデナシなのか」


 隣で直樹が


「見た目が違うな」


 千春は眉間に皺を寄せて


「午前中に見たのも気持ち悪かったけど。アレもなかなか気持ち悪いねえ。僕は女の人を見とくよ」


 女の人を千春に任せて、俺と直樹は二体の何かの方へ歩いて行く。


 見た目があまりにも現実味が無いので俺は直樹に


「パーティーとかで被るヤツとかじゃないのかな」


「被り物には見えないな」


「だよなあ、あれはヤギなのか」


「山羊っぽいな」


 黒いジャージと赤いスウェット姿で、頭部がヤギの変なヤツが近づいて来る。


 学校に来るまでに遭遇した、緑色のヒトデナシとは違い今回のヤツはちょっと危ない気がするので直樹に


「今回のは追っ払うんじゃなくて、捕まえるべきだと思うんだが」


「だな」


「俺が黒で直樹は赤な」


「分かった」


 俺は向かって左側の黒いジャージの方に歩いて行く。直樹が赤いスウェットに向かって、ジャブを打ちながら右側へ移動し始めた。赤いジャージの頭と肩が揺れて動きが止まり、右に移動する直樹の方へ歩き始める。


 上手い具合に二体のヤギが離れてくれた。


 俺はゆっくり黒いジャージのヤギの方に近づいて行く。


 黒いジャージのヤギが俺を見ながら、左の握り拳を右の手のひらを使ってポキポキポキっと関節を鳴らした。すると、次は右の握り拳の関節をポキポキポキっと左の手のひらを使って鳴らしている。指を鳴らし終わったヤギは、歩きながら左の手のひらに右拳をパッシパシ何回も打ち付けながら近づいて来た。


 ヤギは拳を手のひらに打ち着けるのを止めて、今度は左手を前に突き出しながら近づいて来る。


 俺とヤギとの距離が近くなって来た。俺は左足を前、右足を半歩後ろに下げた状態で立ち止まる。


 ヤギは歩きながら左手を前に突き出し、右拳を肩の高さまで上げると、右足を大きく一歩踏み込もうとした。俺はヤギが大きく踏み込む前に右足で、ヤギの腹部を蹴り上げる。ヤギは後ろにふらつき地面に尻もちを着くと腕で腹部を押さえた。


 俺は尻もちを着いたヤギに素早く近づき、丁度良い高さにあるヤギの頭に左ミドルをぶちかました。


 地面に頭を激しく打ち付けたヤギが黒いジャージを残して消滅した。


 直樹の方を見るとすでにヤギはいなくて、直樹の足元に赤いスウェットが落ちていた。


「そんなに力を入れたつもりはなかったんだけど、消えちゃった」


「俺もだ、捕まえるつもりだったから軽い脳震盪を狙って殴ったんだが」


「北野先生が言ってた消滅する噂話しは本当だったんだな」


「だな」


 千春の方を見てみると、助けた女の人のそばで、おばさんと話しをしていた。


 女の人はハンカチで鼻の下を拭いていた。顔の腫れは引いているので千春が治癒魔法を使ったみたいだった。


 北野先生は三人の男の人達と険しい顔で何か話していた。


 もうヤギはいないと思うけど、一応周りを見回しながら直樹に


「あとさ、なんか俺が相手したヤギだけど、さっき見たヒトデナシと違って殴りかかろうとして来たんだけど」


「こっちのヤギも対人戦に慣れているように思えたな」


「俺達みたいに慣れてるなら落ち着いて対処出来るけど、慣れてない人達は怖いんだろうな」


「追っ払うだけじゃまずいかもしれないな」


「その辺の事は魔法の話しの時についでに聞いてみるか」


「だな」


 北野先生が男の人達とこっちに歩いて来たて


「今日は学校内でも数件ヒトデナシの目撃や襲撃が発生してるそうです、イヤな思いをさせてしまった。すいませんでした」


「いえ、大丈夫です」


 男の人達が直樹の足元に落ちている赤いスウェットと、少し離れた場所に落ちている黒いジャージを持ってどこかに行ってしまった。


 千春が俺達の方に歩いて来て


「ヒールで怪我は治したから、後は保健の先生にお願いしたよ」


 いつの間に治癒魔法を使えるようになっていたんだ、俺も使えるように練習しとくかな。ってな事を考えていたら北野先生が千春に


「ありがとうございました」


 と言い、頭を下げた。


「いえいえ、どういたしまして」


 千春が少し照れた感じで答えると、北野先生の表情が少し柔らかくなり、辺りを見回すと


「ここはもう大丈夫ですので、応接室に向かいましょう」


 俺達は窓から校舎内に戻るのではなく、ちゃんと校舎の昇降口を通って応接室に向かった。


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