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第14話 炊き出し

 俺はラーメンのスープを見つめながら


「思ってたよりも、ちゃんとしてるんだな」


 千春はハンバーグを切り分けながら


「ねっ、炊き出しって聞いてたから、もっと質素な食事になるんだと思ってたよ」


 直樹は焼肉を頬張りながら


「まさか肉が食べれるなんて思わなかったな」



 ヒトデナシを退散させた沙織と麗奈に、俺達は北野先生に魔法についての話しをするから、炊き出しを頂いた後も小学校に残る事を伝えると、二人も学校に残りたいと言ってきた。


 沙織と麗奈は、白沢先生や他の先生達にクリーンやサイレントの魔法を教えるんだそうだ。


 白沢先生を見ると、公園にいた時よりもサッパリとした様子だった。たぶん麗奈がクリーンの魔法を使ったんだろうな。


 俺達は沙織達が三体のヒトデナシを撃退してからは、何事もなく北野先生と白沢先生が務めている小学校に到着した。


 北野先生は食事をする前に用事があると言って、校舎に向かった。


 沙織と麗奈も、白沢先生と食事の前に済ませたい事があると言って、校舎に向かって行った。



 小学校の校庭には、炊き出しの調理エリアと飲食兼休憩エリアが設けられていた。


 校庭には体育祭の放送席とかで使う、特設テントがいくつも設置されていた。校舎に近い場所に設置されている特設テントの中では、タオルを頭に巻いたおじさんや、割烹着姿のおばさんが、食べ物を焼いたり煮たり忙しそうに調理をしていた。


 俺と直樹と千春の三人は、炊き出しのメニューの多さにまず驚いた。北野先生が炊き出しって言っていたけど、焼肉、ラーメン、ハンバーグ、おにぎり、焼き魚、豚汁、お餅、カレー以外にもメニューが豊富で、こんなに食べ物があるのになんで食料の奪い合いとか強盗とか発生しているのか、不思議な気分だった。


 校庭にはイベント会場みたいに、折り畳みの細長いテーブルが沢山並んでいて、お婆ちゃんやお爺ちゃん、スーツ姿のお兄さん、小さい子供を抱いているお母さん、老若男女問わず、沢山の人達が炊き出しを食べていた。食事をしている人もいるし、休憩中なのかテーブルに腕を乗せて腕枕をして眠っている人もいた。


 北野先生が食べ物を持って俺達のいるテーブルにやって来た。


「食べてるかい」


 俺と千春が


「はい、メニューが豊富で何を食べるか迷いましたよ」


「うんうん。僕はお腹いっぱいになったけど、なおっきーはまだお代わりしても大丈夫なんじゃない」


 直樹が顔をしかめて


「いや、まずいだろう」


 北野先生がテーブルに座って


「好きなだけお代わりして来てください」


 俺はまだ食べ足りなくてお代わりしたいけど、一応遠慮して


「ええ、さすがに気が引けますよ」


 千春が申し訳ないって感じの表情で


「だよね、僕達は部外者っていうか、先生に呼ばれて来てるだけだし」


 他にも食べる人は沢山いるんだろうから、さすがに遠慮してしまう。さっきだって炊き出しを注文しながら、調理の人に食べ過ぎだって怒られないか、ヒヤヒヤしていた。


「本当に遠慮しなくて大丈夫なんだよ。今使っている食材は保存が出来ない物を優先的に使ってるんだよ、冷蔵庫が使えないからね。だから早く使わないと食材を腐らせてしまうから、今は炊き出しのメニューが豊富で量も多いんだ」


 北野先生は笑顔で直樹を見て


「むしろ料理を残して処分するより、みんなに食べてもらった方がありがたいんだよ」


 さっそく俺と直樹はお代わりを貰いに席を立った。



 北野先生の話しによると、停電が発生してからは、情報は入らなかったけど小学校の近くに警察署と消防署があったので、早い段階で色々と連絡を取り合って協力していたんだそうだ。


 地震とかの災害ではないけど、電気は使えないし車は動かない、だから情報が掴めない、ある意味非常事態なので、警察と消防、地元の消防団とかと協力しながら、付近の住民に、不安なら小学校に避難するようにと、誘導していたらしい。


 停電が発生してすぐに精肉店、鮮魚店、青果店、飲食店、そしてスーパー、色んな店舗が冷蔵庫を使えないので、各店舗の人達で食材が痛む前にみんなで使いましょうって話しになったけど、各家庭で調理するにも停電中で火や水が満足に使えないので、始めは食材を貰った人達は困っていたんだそうだ。


 そこで、食材はあるが調理が難しいと、学校の先生や警察の人に相談したら、避難所で一度に大量に作ってみんなで食べてみてはどうでしょう。って話しになり、今では各店舗から分配されていた食材だけではなく、各家庭で保存していた食材も、避難所である小学校に持ち寄って、炊き出しとして一緒に調理しているんだそうだ。


 北野先生の話しを聞いて千春が


「先生の話しを聞いてると、なんで強盗をしたりお店から物を盗ったりする人がいるのか、本当に不思議になるなあ」


「世の中には色んな人がいて、色んな考え方があるからね、学校で炊き出しとかしている人達は、みんなで手を取り合って協力して、困難な事に立ち向かいましょうって考えが出来る人達なんじゃないかな」


「みんながそれを出来たなら、あんな殺伐とした街並みにならなかったのになあ」


 俺と直樹はお代わりを食べるのに必死だが、千春は食べ終わっているので北野先生の話しを聞いて愚痴っている。


 北野先生が俺を見て


「食べ終わったら魔法の話しを聞かせてもらいたいんだけど」


「ええ、分かりました」


「私以外に何人か一緒に話しを聞かせてもらう事になるんだけど、大丈夫かな」


「はい、構いませんよ」


 千春が手を上げて


「それって僕たちも行った方がいいんですか」


「出来れば、加藤君も森下君も同席してもらいたいですね」


「はーい、わっかりました」


 千春も直樹も一緒に魔法の話しかあ。何を聞かれるんだろうか、ちょっぴり不安だなあ。





 頂いた炊き出しが食べ終わったので、お皿やコップをまとめていると、沙織達が炊き出しを持ってやって来た。


 白沢先生はおにぎりと焼き魚、沙織は焼肉とおにぎり、麗奈はシチューとパンを持って俺達の近くまで来ると、沙織と麗奈が


「なんか炊き出しのイメージが変わるわよね」


「いっぱいあって迷いましたよ」


 北野先生が沙織に席を譲りながら


「お代わりは自由なので、いっぱい食べてくださいね」


「あ、ありがとうございます。って、直樹。ちょっと食べすぎなんじゃない少しは遠慮しなさいよ」


 沙織が席に座り直樹の食べ終わったお皿を見て突っ込む


 白沢先生が炊き出しを持って席に着き


「本当にお代わりは自由なのよ、食べながらそこら辺の事は説明するから」


 と言って直樹のフォローに入った


「本当に遠慮しなくていいのかしら」


「うふふふふ」


 沙織と麗奈がお代わりする気、満々だ。


 千春と直樹が食べ終わったお皿やコップを片付けに席を立った。


「じゃっ、あとでね~」


「ゴミはあそこに捨てるのか」


 俺は席を立ちながら沙織に


「俺達は北野先生と魔法の話しをしてくる」


「私達は食べ終わったら白沢先生の同僚って人に魔法を教えてくるわ」


「へー、魔法を信じてくれたんだ」


「ええ、先生もクリーン使えるようになったわよ」


 白沢先生がウエットティッシュで手を拭きながら


「体全体や衣類とかまだ出来ないけど、綺麗にしたい範囲を狭くして、手とかハンカチくらいなら出来る感じよ」


「へー、意外かも、頑張ってください」


 俺は白沢先生にエールを送って、校舎の昇降口で待っている北野先生の所に向かった。

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