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第13話 ヒトデナシ

「先生、公園で先生達を襲っていた、あの変なヤツらは何なんですか」


 北野先生は眉間に皺を寄せて


「私達はあの生き物の事はヒトデナシと呼んでいるよ」


「ヒトデナシですか」


「そう、ヒトデナシだ」


 北野先生の学校で把握している情報だと、停電発生から四日目のショッピングモールで複数目撃されたらしい。


 商品の奪い合いをしていた男性二人が、口論から殴り合いになり、片方が殴られて床に倒れてうずくまってしまった。殴った人が床に倒れてうずくまっている相手に、大声で罵声を浴びせていたら突然倒れた。すると、急に髪の毛が抜け落ち、肌の色が緑に変化した。あまりの変貌ぶりに周りの人達が騒ぎ出すと、見た目が変化した男性は起き上がって、人が少ない方向に走って行ってしまったそうだ。


 食料を抱えて歩いていた人が、数人のグループに囲まれて持っていた食料を奪われてしまった。奪われた人は大声を出して悔しがっていたが、突然その場に倒れてしまった。近くにいた人が心配になり声を掛けようとしたら、倒れた人の髪の毛が抜け落ち、肌の色が緑に変化した。声を掛けようとした人がビックリしていたら、見た目が変化した男性は、起き上がって人が少ない方向に走って行ってしまったそうだ。


 店員ではない一般の人が、商品に殺到する人達に落ち着いて行動するよう声を掛け、奪い合うのではなくみんなで分配しましょうと、商品棚の前で説得していた。そこへ数人のグループが、分配しましょうと声を掛けていた一般の人を罵声を浴びせながら、実力行使でその場から排除した。すると、周りの人達からグループに対して激しい非難が殺到した。今度はグループの連中達が激怒し、周りの人達に大声で罵声を浴びせたり殴り掛かったりし始めた。すると、一人二人とグループの全員がその場に倒れてしまい、何事かと周りの人達が話し合っていると、倒れていたグループ全員の髪の毛が抜け落ち、肌の色が緑に変化し、奇声を発しながら人を掻き分けて走って行ってしまったそうだ。


 ただ、停電発生から三日目くらいから目撃され始めた不審者の特徴が、ヒトデナシと類似しているので、少なくても停電が発生して三日目くらいには、すでにヒトデナシ達は存在していた可能性があるらしい。


「突然、人が人ではないモノに変化してしまったので、私達は勝手にヒトデナシと呼んでるよ」


 北野先生の話しを聞いても、何で人間の髪の毛が抜けたり、肌の色が緑になるのか分からんかったけど、名前の由来だけは分かりやすいなって感心していたら、千春が


「でも、何で先生達は襲われてたんですか」


 だな、それは俺も気になっていた事だけど、先に千春が質問してくれた。


「それについてはまだ解ってないんだよ。襲われてる時に森下君には話したんだけど、打撃を与えるか威嚇すると、何もしないで退散してくんだ。だから私達はヤツ等の目的は解らないけど、襲ってくるヒトデナシが諦めてくれるまでは、反撃するか逃げるかして自衛している感じだよ」


 北野先生が直樹を見て、装備しているキャッチャーのプロテクターをバットでポンポンって感じで叩くと


「だから今は強盗とヒトデナシからの襲撃に備える為に、こんな格好して歩いてるんだけどね」


 千春が納得した様子で


「なるほど、だから先生達はそんな格好してたんですね」


「うん、後はヒトデナシにある程度の損傷、あるいは打撃を与えると消滅するらしいんだ」


 千春が少し驚いた感じで


「損傷と打撃ってダメージって事ですか」


「そう、ショッピングモールの上層階から、一階の床にヒトデナシが落下したのを目撃した人がいたらしくて、衣類を残したまま消滅したらしいんだよ」


「うわあ、痛そう」


「後は腕っぷし自慢の男性が、ヒトデナシに襲われている人を助けた時に、殴ったら消えたって話してるらしいんだよね」


「へえ、やっつける方法があるんじゃん」


 千春が直樹を見てニヤケている、そんな直樹は苦笑い。千春よ勘違いするな、直樹は戦う事が大好なバトルジャンキーではないぞ。


 北野先生が少し困った表情で


「ただ、実証してないし噂話の範疇だからね。今のところはヒトデナシから逃げるか、反撃して退散させる、そんな感じで対処してるよ」


 俺は何となく犬や猫みたいな、動物のような感じに思えたので北野先生に聞いてみると


「さっきのヒトデナシ達を見てると確かにそう感じるね、川内君達が来てくれたから不利な状況って判断して、撤退した感じだったもんね」


 襲い掛かるけど不利になったら逃げるって、多少は知恵があるのかな。人から変化したヤツなら会話とか出来るのかな、気になったので聞いてみた。


「それも解らないよ。ただ目を見たら全体が黒くて白目の部分がないんだよね、何というか爬虫類のような目をしてるんだ。だから、私にはヒトデナシには知性があって会話をする様には思えないんだよね」


 あの状況でヒトデナシの目とか見てたのか。俺は離れていたからってのもあるけど、まったく気にしていなかったな。


 すると、北野先生が少し真剣な表情で


「私からも聞きたい事があるんだけど、良いかな」


「はい、何でしょうか」


「加藤君と森下君がヒトデナシを追い払った時に使っていた、アレって何かな」


 千春のファイアーボールと直樹の衝撃波の事かな、隠すつもりはないけど北野先生は信じられるのだろうか。すると千春が


「魔法ですよ」


 自慢げにファイアーボールを発動させた。


 すると北野先生は立ち止まって、ファイアーボールをいろんな角度から見ている。


 目をパチパチさせながら、ファイアーボールを観察している北野先生に


「えっと魔法って言ってますけど、実際にこの現象が何なのか解らないってのが現状です、イメージと想像力で出来ちゃいまして」


「他にはどんな事が出来るのかな」


「夜に照明がなくて不便だったので」


 俺はライトボールを発動させた。北野先生は目を見開きファイアーボールよりも衝撃を受けている様子だった。


「この魔法は君達しか、いや、森下君もか、三人しか出来ないのかな」


「学校の生徒で半数くらいは、何かしらの魔法が使えたと思います。正確な人数は分かりません、すいません」


 ちょっと北野先生の気迫と言うか、真剣な雰囲気が怖いんだけど。思わず謝っちゃったよ


「この魔法は生まれつきなのかな、じゃなかったらいつ頃から使えるんだい。それと、東高校の生徒さん達が魔法を使える事は、周囲に秘密にしてるのかな」


「今回の停電が発生してからですね、魔法が使える事は特に秘密にはしていませんが、普通は信じませんよね」


「魔法が使えます、でも見せれませんって言われたら疑ってしまうけど、私は目の前で火の玉や光の玉を見ているからね、秘密にしてないのなら炊き出しを食べ終わったら時間を作ってもらえないかな、詳しく話しを聞きたいんだ」


 俺は千春と直樹に目配せすると


「大丈夫だよ」


「問題無い」


「分かりました、吉田と中井にも声を掛けておきます」


 たぶん沙織も麗奈も大丈夫だと思うんだけどね。すると直樹が


「一体、いや二体か」


 進行方向の先を見て呟いた。


 俺達が立ち止まって話していたからか、沙織達とだいぶ距離が離れていた。

沙織達の少し先、左斜め前からグレーの長袖シャツと、紺色のトレーナー姿のヒトデナシが歩いて来ていた。


「まずい」


 北野先生がバットを構えて走ろうとしていたので


「先生、大丈夫ですよ」


「いや、急がないと」


 すると千春が落ち着いた感じで


「大丈夫ですって、沙織ちゃんも麗奈ちゃんも強いんですから」


 続いて直樹も北野先生に


「走ったとしても、あの二人ならたどり着く頃には終わると思いますよ」


「いや、だとしても」


 俺と千春、そして直樹も落ち着いているので先生も少しは落ち着いたみたいで、走るのは止めたみたいだ。


 俺達から見て左から麗奈、沙織、白沢先生って感じで横に並んで立ち止まっていて、左斜め前方から長袖シャツと紺色トレーナー姿のヒトデナシが、沙織達に向かって歩いて来ている。


 麗奈が動いた。沙織と白沢先生はその場から動かないで、立ち止まっている。


 麗奈が二体のヒトデナシに体を向けたまま、左へゆっくり移動し始めた。二体のヒトデナシが連られて麗奈の方へ向かって行った。


 麗奈とヒトデナシ達の距離が徐々に近くなって来る。麗奈は体を二体のヒトデナシに向けたまま、ゆっくりと左後方に移動している。二体のヒトデナシが麗奈との距離を詰める為に歩く速度を上げ始めた。


 白沢先生が麗奈から離れている、紺色トレーナー姿のヒトデナシの頭を木刀で打ち抜いた。紺色トレーナーは膝をついて頭を抱えている。


 沙織が麗奈から近い、長袖シャツ姿のヒトデナシにミドルキックを喰らわせて、吹っ飛ばした。長袖シャツは倒れてうずくまっている。


「人間だけじゃなく、ヒトデナシにも効果があるみたいだな」


「みたいだね。チャーム、魅了、言い方は色々だけど恐ろしい効果かもね」


 俺と千春で感心していると直樹が


「やめとけ、麗奈に聞こえたら怒られるぞ」


 麗奈の胸は誰でも見ちゃうからね。でもまさかヒトデナシにまで通用するとは思わなかったけどな。


 俺達が沙織達に近づいて行くと、ヒトデナシ達は起き上がって来た道を戻って行った。


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