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第12話 北野先生と白沢先生

 沙織から俺と千春が不真面目すぎるって説教を喰らっていると、木刀を持ったお姉さんが沙織に近づいて


「ありがとう。本当に助かったわ、あなた達は東高校の生徒さんよね」


「ええ、そうです。えっと、失礼ですけど、そちらは」


「あっ、ごめんなさい。私は中央小学校で三年生の担任をしている白沢です」


 なぜ、小学校の先生が公園で剣道の格好をして変なヤツらに囲まれていたんだろう。


 沙織が俺達の簡単な自己紹介を済ませて、歩いて家に帰る途中だった事や変わり果てた街の状況に困惑している事。そして、たまたま公園の騒ぎに気づいて、駆け付けた事等ここまでの経緯を簡単に説明してくれた。


 そして、さっき追い払った変なヤツらは何なのかって事を、沙織が白沢先生に尋ねると


「そうね、何から説明しようかしら」


「ちょっと、いいかな」


 キャッチャーの格好をしたおじさんが、ズボンについた砂を手で払いながら近づいてきた。


「北野と申します、私も中央小学校で教師をしていて、六年生の担任をしております」


 この人も先生だったのか。どこにでもいる感じのおじさんに見えるけど、先生って言われると確かに先生っぽいな。


 ちなみに白沢先生はバレッタだかクリップだか、名称は分からないけど、髪の毛を後ろで束ねていて、眼鏡を掛けているからなのか知的なお姉さんって印象だ。


 北野先生が沙織を見て直樹を見ると


「もし吉田さん達が急いでないなら。助けてもらったお礼に学校で炊き出しを振舞おうと思うんだけど、どうかな」


 直樹が北野先生を助けたからな、直樹を見ればお礼は食事で間違いないって思うよね。


「私は急いでないので大丈夫ですが、みんなはどうする」


 沙織が俺達に意見を求めて来た


「俺は炊き出しを食べてみたいぞ」


「僕も食べてみたいかも」


「俺もだ」


「私もです」


 千春も直樹も麗奈も、炊き出しを食べたいらしい。


「私だって食べたいわよ。そうじゃなくって私が聞きたいのは、帰らないで寄り道しても大丈夫なのかって事よ」


 沙織も炊き出しが食べたいみたいだ。


 つまり俺達みんな炊き出しが食べたいんだな。


「俺は炊き出しが食べたいぞ」


「僕も食べてみたいです」


「俺も」


「私も」


 沙織は左手でこめかみを押さえながら


「あんた達ねえ、私の質問に全く答えて無いじゃないのよ。克也達は良いとして麗奈は大丈夫なの」


「うん、大丈夫よ。それに情報収集してからじゃないと、さすがにね」


 麗奈が沙織に少し不安げな表情をした。


 俺達の話しがまとまるまで黙って聞いていた白沢先生が


「じゃあ、移動しながら説明するわね」


「お願いします」


「お願いします」


 沙織と麗奈が白沢先生と歩き始めた。


「では、我々も行きましょうかね」


「はい」


「は~い」


「はい」


 沙織達に続いて北野先生と俺、千春、直樹も歩き始めた。


「何から話そうかな。停電の状況も気になるだろうし、荒れてる街の様子も気になるだろうし、私の格好も気になるだろうしなあ。私達を襲っていた物達の事も気になるだろうし」


 北野先生は歩きながら俺達に何から話そうか、頭の中で整理している感じだった。


「何から話すかなあ」


 ブツブツ独り言をしながら歩いていると、考えがまとまったみたいで俺達に状況の説明を話し始めた。


 今、学校には保護者が家に居ない児童達と、学校周辺の人達が避難して生活しているんだそうだ。


 北野先生達は、停電が発生した初日から二日目までは、教師引率のもと集団下校を行い、保護者が在宅なら児童を引き渡し、保護者が不在の場合はメモを残して児童を学校で保護していた。


 停電が発生した三日目からは、雨が降り出したので健康に配慮して、児童は学校に残し教師が、児童達の家に保護者が帰宅していないか訪ねるようにした。


 街の様子が変わってきたのは三日目からで、情報が遮断され交通機関が麻痺している状態なので、商品がいつ入荷するのか分からないと、人々は考え不安になり始め、商品が無くなる前に、必要な物を確保しようと不安になった人達が、食料や物資を求め店に殺到し始めた。


 すると、今度は手持ちのお金が無い人達が、自動販売機を破壊したりトラックの荷台から荷物を盗り始めた。すると、そんな状況を見ていた人達が、更に不安にかられて我先にって感じで、お店の入り口を破壊し物資の奪い合いを始めた。


 児童の家に訪問していた何人かの教師が、強盗に襲われ始めたのも三日目からで、一人で行動していると強盗に狙われる危険があるので、四日目からは最低でも二人で行動するようにしたんだそうだ。


 話しを聞いて改めて驚いた俺は


「早く電気が復旧してくれないかなあって感じで、学校でゴロゴロしてたけど外は大変な事になってたんだな」


 千春が表情を曇らせながら


「イヤだなあ。不安だからって、みんながやっているからって、平気で物を盗ったり奪ったりとか」


 北野先生が申し訳なさそうに


「そうだね、心が強い人なら違う選択をしたんだろうけど、大抵の人は周りに流されてしまうと思うよ」


「ん~、僕らや子供なら何となく分かるけど、大人が平気でそうしちゃうってのが、やっぱイヤな気分になるなあ」


「ごめんね。こんな時だからこそ大人が恥ずかしくない行動を取らないといけないのに、君達や子供達を不安にさせてしまうよね」


 北野先生が本当に申し訳ないって感じで答えている。


 首を傾げて千春が

 

「ちゃんとした大人の人もいるのに、何で平気で人から奪ったり出来るんだろう」


 北野先生は困った表情で


「強盗の味方をする訳ではないけど、彼らなりに事情があるんだと思うよ、だからといって弱者から物を奪って良いって事でもないんだけどね」


 俺は停電してからの状況は聞けたので、他に気になる事を北野先生に聞いてみる。


「停電の原因や復旧の見込みについては何か分かったのですか」


「停電発生から五日経過した今でも、停電の原因と電気がいつ復旧するのかは不明だし、停電の規模も不明のままで、車両が動かないのも不明だよ。学校には警察や消防の方達もいるけど、みんな頭を抱えてるよ」


 千春が北野先生の話しを聞いて


「先生だけじゃなくて警察や消防の人がいるのに分からないのかあ」


「うん、本部との連絡が出来ないから指示を仰ぐことも出来ないんだ。だから、今は最善と思われる事をそれぞれの判断で独自に行動してる感じだよ」


 すると千春が首を傾げながら


「うちの学校には先生と僕たち生徒しかいなかったような」


「加藤君たちの学校は市街地から少し離れているよね、私の勤めてる小学校は住宅地が近いし、警察署や消防署が近くにあるからね。だから近日中に東高校も、地域住民や関係施設と連携を取り始めると思うよ」


 千春の疑問が解消されたようなので俺は


「先生、公園で先生達を襲っていたあの変なヤツらは何なんですか」


 北野先生は眉間に皺を寄せて


「私達はあの生き物の事はヒトデナシと呼んでいるよ」


「ヒトデナシですか」


「そう、ヒトデナシだ」

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