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第11話 変なヤツ

 目の前の情報量が多すぎて処理しきれないで止まってしまった。


 なんで、公園でキャッチャーの格好をしてバットを振り回している。


 なんで、公園で剣道の防具を着て木刀を構えている。


 そして、なぜ気持ち悪い緑色の何かが歯をむき出し唸りながらおじさんとお姉さんを囲んでいる。



 公園内の状況を見て思考が停止していると、ブランコの近くで木刀を構えているお姉さんと作業着姿の何かが動き出した。


 お姉さんの正面に立っている作業着が、木刀を掴もうと手を伸ばした。お姉さんは作業着の手を木刀で振り払って、力強く一歩踏み込むと、作業着の頭に木刀を打ち込んだ。作業着は頭を抱えてその場から後づさった。


 右側に立っている作業着が奇声を上げてお姉さんに掴み掛ろうとする。木刀を構えながらお姉さんは素早く後ろに下がって、迫って来た作業着の喉に、木刀の切っ先を勢い良くめり込ませた。作業着は喉を抑えながら後ろにぶっ倒れた。


「直樹、キャッチャー」


「おう」


 沙織が直樹に声を掛けて、公園奥のブランコの近くで戦っているお姉さんの方に向かって走って行く。


 直樹は手前の滑り台の近くで、バットを振り回しているおじさんの所に走って行った。


 滑り台を盾にしながら、バットを振り回しているおじさんの所に直樹がたどり着いた。


 おじさんに気を取られている二体のうちの一体を、直樹が後ろからミドルキックで吹っ飛ばす。


 隣にいた制服姿の変なヤツが、直樹に気づいて掴み掛ろうとする。直樹は後ろに下がって制服姿の太ももにローキックを打ち込み、動きが止まった制服姿の腹部を力強く蹴り上げて、制服姿を吹っ飛ばした。


 直樹の蹴り三発で、二体の制服姿の変なヤツが地面に倒れてうずくまった。


 おじさんは助けが来た事で気が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。


 ブランコの近くのお姉さんのところに、沙織がたどり着いた。


 喉にお姉さんの突きを喰らった作業着は、まだ地面に倒れて悶えていた。


 頭に木刀を打ち込まれてしゃがんでいた作業着が、ゆっくりと立ち上がり始めた。


 立ち上がった作業着が、お姉さんに向かって近づこうと一歩踏み込むと、沙織がミドルキックを作業着の肩から腕の辺りにお見舞いして、作業着を蹴り飛ばした。


 蹴り飛ばされた作業着は地面に手を着き、沙織をにらんで唸っている。


 お姉さんは残りの作業着姿の変なヤツに、木刀を向けて静かに構えていた。


「あの気持ち悪いヤツらは格闘技経験者ではないみたいですね。お姉さんは有段者なのかしら」


 麗奈はお姉さんや囲んでいるヤツらの動きを見て観察している様子だ。


「沙織ちゃんとなおっきーが行ったから平気だろうけど、何者なんだろうね」


 千春は緑色の変なヤツ等を気にしている。


 俺も色々と気になるけど、直樹と沙織で対処出来そうなので、他に変なヤツがいないか周りを警戒して見てみる。


 すると、公園の出入口は他にもあって、女性っぽい服装の変なヤツが近づいて来るのが見えた。


「千春。あそこ、こっちに来るか分からないけど、まだいるみたいだぞ」


 俺が指さす方を見て、千春が


「服装からすると女の人みたいだね。髪の毛が無くて肌の色が緑色だから、ここにいるのとおんなじなのかな」


「あっ逃げますよ」


 麗奈に言われて直樹達を見ると、お姉さんに突きをお見舞いされていた作業着と、沙織のミドルを喰らった作業着が、起き上がって公園の出入口に向かって歩いて行った。


 お姉さんとにらみ合っていた作業着も、二体を追う様にして歩いて行く。


 直樹に転がされていた制服姿の二体も、公園の出入口に向かう作業着達と同じ方向に歩いて行った。


 キャッチャー姿のおじさんが直樹に


「助かりました」


「どういたしまして」


「ある程度打撃を与えるか威嚇すると逃げて行くんですよ」


「怪我はありませんか」


「お陰様で大丈夫ですよ」


 公園内の変なヤツらが逃げたので、公園の外を歩いている女性っぽい変なヤツを、千春と見てみる。すると千春が


「ほっほ~、威嚇すればアレも逃げてくんだね」


「おじさんの話からすると、そうなるな」


 千春は何かいたずらを思いついた様な表情で


「ちょっと試しても良いかな」


「なにするんだ」


 公園の外を歩いている変なヤツを見て千春が


「学校を出てから魔法を使ってないから、外でもちゃんと使えるのかなって思ってね」


 どうやら近づいて来ている変なヤツを、魔法で追っ払うつもりらしい。


 千春が眼を閉じて眉間に皺を寄せている、魔法に集中しているのかな。


 そして目を開けると、千春の目の前に三つの火の玉が出現した。


 俺がビックリして火の玉を見ていると、隣で千春が自慢げな顔で俺を見ていた。


 俺は素直に驚いたので


「すげえな、三つ同時に発動出来るようになったのか」


 千春は三つのファイアーボールを見ながら


「凄いでしょ~、あと学校の外でも魔法は使えるみたいだね」


 すると千春は真剣な表情になると、変なヤツを見て


「足元に着弾する感じで良いかな」


「だな、それでビックリしてこっちには来ないだろうな」


 ゆっくりと移動していた変なヤツが公園の出入口に差し掛かる。


 千春が右手を高く振り上げて素早く振り下ろした。


「ファイアーボール」


 千春の目の前に出現していた三つの火の玉が、物凄い遅さで進んで行く。


「おおおい」


 てっきり物凄い速さでファイアーボールが変なヤツの足元に着弾するもんかと思っていたので、思わず声が出た。


 千春もビックリしているみたいで


「えっえええ」


 千春はファイアーボールの速度を上げようとしているのか、腕を何度もブンブン上げ下げしながら


「なんでえええ」


 まったく速度が上がらないファイアーボールを見ながら嘆いている。


 そして、千春の出現させた三つの火の玉は、変なヤツの方に向かってふわりふわりと、ゆっくりだが進んで行く。一向に速度の上がらないファイアーボールに対して千春は一生懸命速度を上げる為に、何度も腕を上下させていた。


 すると、変なヤツがこっちを見て、公園の出入口から走って中に入って来た。


「おおい、こっちに来るぞ」


「えええええ」


 変なヤツがどんどん俺達に迫って来る。


 ちょっとまずいかもって思っていると、直樹が走って来て俺達の斜め前で立ち止まると、変なヤツに向かって二回左のジャブと右で一回ストレートパンチを放った。


 走って向かって来ていた変なヤツの頭が二回後ろにのけぞると、動きが止まった。すると何かが胸に当たったみたいに、後ろに吹っ飛んだ。


「おお、なおきー」


「おおお、なおっきいー」


 俺と千春は駆け付けてくれた直樹の名を思わず口ずさんでいた。


 目の前の窮地は脱したので俺は千春に


「ふうぅ、危なかったなあ」


「危なかったねえ、まさか走って来るとは思わなかったもんねえ。変なヤツって基本動きが遅いってイメージだったから焦ったあ」


「俺は千春のファイアーボールの動きが遅すぎて焦ったぞ」


「ごめ~ん、もし魔法が地面じゃなくて変なヤツの体に当たったらって思ったら、急に怖くなってなっちゃてさあ、そしたら魔法がゆっくりになっちゃった」


「あれか、狙いを外したくないから慎重にってイメージしちゃったもんだから、魔法の移動速度が遅くなったって感じか」


「うん、たぶんそんな感じだとおもう。んで、マズイ早くしないとって焦ってたら、今度は変なヤツがこっちに向かって走って来たでしょ、だからもっと焦っちゃって」


「そかそか。ん、起き上がったぞこっちに来るかな」


 地面に寝っ転がっていた変なヤツが、ゆっくり起き上がると公園の出入口に向かって歩いて行った。


 ホッとした千春が


「向こうに行ったね大丈夫そうだ。なおっきーありがとね~」


「ねえ、あんた達、何遊んでるのよ」


 振り返ると眉を吊り上げた沙織が、腰に手を当てて立っていた。


 沙織から俺と千春が不真面目すぎるって説教を喰らっていると、木刀を持ったお姉さんが沙織に近づいて来て


「ありがとう。本当に助かったわ、あなた達は東高校の生徒さんよね」


「ええ、そうです。えっと、失礼ですけどそちらは」


「あっ、ごめんなさい。私は中央小学校で三年生の担任をしている白沢です」


 なぜ、小学校の先生が公園で剣道の格好をして、変なヤツらに囲まれていたんだろう。

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