1-3
(………………)
別に期待していたわけじゃないし、明日のテスト項目は得意な科目だから少しぐらい夜更かししても構わないし、今夜は随分と冷え込むみたいだから(部屋は暖かいが)人肌で温まるのもいいかもしれないし、いや人肌恋しいし……。
などと悶々とした気持ちをどうにか収めようと、どうでもいい言い訳ばかりを浮かばせては泡沫のように消えていった。
以前まで柊護もこんな風に朱葉を落胆させてしまったのかと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
というか、据え膳を喰い損ねて正直後悔の念が強い。
かといって眠っている朱葉を無理矢理起こすほど非道でもない。
(寝るか)
今は隣に居てくれるだけでも嬉しいと自分を慰めながら、濡れた部屋着を新しいものに着替え、先ほどまで飲んでいた湯呑を台所に片づけに行った時だった。
ふと、石蕗の言葉が脳裏に蘇った。
帰り際、屋敷の門まで送り届けると、
「そうそう。プリン三人分だけって言ってたけど、柊護君の分もこっそり作っておいたから、バレないように食べちゃってね」
基本的に石蕗に下された指示は、『三姉妹』のおやつだけで、それ以上は必要ないとのことだった。
とはいえ多少量を調整すれば一人分ぐらいは都合がつくもので、食べられない柊護を不憫に思ったのだろう。
気を利かせて石蕗は柊護の分も用意してくれていたのだ。
冷蔵庫を開けると、ホーローバットで作られたプリンが冷えてあった。
カップに小分けされているのではないので、こっそりと取り分ける際に味見しても困らない量である。
「…………」
普段の柊護であれば決して主人である朱葉の許可を得ずに勝手な振る舞いはしないし、女性優位の精神が染みついているはずの彼にしては珍しく、貪欲の方が勝ってしまった。
一口食べるぐらいなら。
そっと指先でホーローバット縁を引っ張り出そうとした時だった。
「――!」
大きな音にはっと気がつくと、取る位置が悪かったのか、バランスを崩したプリンは無残にも床に全てこぼれ落ち甘い匂いが辺りを充満させていた。
絶望と後悔と翌朝の朱葉の怒りを考えると血の気がさっと引く。
一体どうして自分はこんなことをしてしまったのだろう。
朱葉に良からぬ、よこしまな考えをしてしまったからバチが当たったのだろうか。
そう色々と思いを巡らせながらも慌てて無残に崩れたプリンを拾い集めた。
さすがにパティシエの石蕗とは違い、素人の柊護が同じようなプリンを作ることも出来ない。
翌日の朱葉の怒りを覚悟しながら思いを巡らせ、苦肉の策でコンビニのスイーツを片っ端から買いに走ったのだった。