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最高のぎゃふんをあなたに  作者: 金山和歌子
5/5

5℃傾けば世界は変わる


会場が静まり返る。

次の瞬間、喧騒はより大きくなり、ざわめきが広がった。


あるものはただただ見とれ。あるものは顔を赤くし。あるものは感嘆のため息を吐いた。

ざわめきは徐々に会場を埋め尽くす。


まるで、石が投げ込まれた水面のよう。


投げ込まれたのは、ただの石ではない。いうならばそう、アメジストのような輝く宝石。


見眼麗しい少女が、優雅な様子で歩みを進める。

彼女が進むだけで、周囲の様子が、がらりと変わっていくのが、ありありとわかる。


フランボワーズのドレスはしっとりと大人らしい。それでいて、裾にちらばった花々の刺繍は少女らしい可憐さをのぞかせる。

豊かな黒髪は光を反射しており、夜にきらめく星のよう。

リラ色の瞳は知性に輝き、視線が合った者は皆、引き込まれるように目が離せなくなる…。

赤く色づく唇は笑みを形作る。そのほほえみは聖女のよう。

…ひれ伏したくなるような美しさとは、まさにこのこと。


会場の皆が、少女に注目する。

会場の皆、同じことを考える―あの少女はいったい、だれなのか?



そう、私、シェルリ・ダンカンである。



いつもの厚ぼったい仮面は脱ぎ捨て、どこからどう見ても完璧な令嬢に生まれ変わった私。

これまでのパーティーの中で、最も気合を入れて準備をしたのだから、当然といえよう。

そもそも、私の容姿は整っているのだ。

学園一の美女をうたわれ現在も現役な母と、(中身は少々残念な変わり者だが)イケメンである父の子なのだから。

それにしっかりとしたメイクを施し、ドレスを着ていれば、もう素敵な令嬢が生まれ出でるわけである。

そもそも、態度を変えるだけでもかなり違うので、堂々とすることは大切だ。


それにしても、とちらりと周囲を流し見る。

この国では珍しい特徴的な黒髪であるのに、だれも私の名を口にしないとは。

私の仮面は優秀であったことだ。いいや、役者が優秀であったのだ。


まずまずの反応に、ゆったりと笑みを深めた。まず最初のステージはうまくいったといっていい。


「紳士淑女の皆さん、こんばんはー…」

始まった。

式が始まると、皆は落ち着かない気持ちを抱えながらもステージを見やる。

前には生徒会長が、スポットライトを浴び、マイクの前に立って居る。

おっとりとした顔をしながらも鋭い手腕と観察眼で二年のトップに躍り出て生徒会長の座に就き最近のマイブームは紅茶にジャムを入れることであり現王第二妃が叔母に当たる侯爵家次期当主ディラン・アーディだ。


「-…今年も別れの季節となりました。初等部からこの学園に―――…幾たびもの苦難を乗り越え――—…」

耳に心地いいテノールと、優し気な口調。

始めは落ち着かなかった様子の観衆も、だんだん話に聞き入っていく。

流石は生徒会長、といったところか。

私は半分くらいしかきいていなかったが、要約すると先輩方おめでとう、慕ってますよって感じ。

毎年大体一緒だから面白みがない。

ちなみに、卒業パーティーは学校行事のくくりになるため、全員強制参加なのである。

去年はたしか、壁の花(花と呼べるほどではなかったが)になり、ひたすら他人様のダンスミスを数えていた。


「先輩方といたしましては、さらなる繁栄とご健勝を、心から祈っております」


そう締めくくると、彼は優雅に一礼した。

拍手が会場にあふれる。

本心はどうだかわからないが、彼はさわやかな笑顔で答えている。


「それでは、真面目な話はここまでにして…あとは彼に任せることにしましょう」

と、ここで、舞台袖から、大きなメガネをかけた男子生徒がでてくる

「はい、会長さんありがとう!こんばんはぁ、ラオ・ピーラです!卒業生を代表いたしまして、この私が!!ご挨拶をさせていただきます!」

忘れた方のために言っておくと、デュエルで進行を担当していた彼である。

実は三年生。しかも前副会長。軽いノリの変人ながら、結構な実力者なのだ。

今日は蝶ネクタイを身に着け、髪もしっかりセットしているためか、ボンボン感がすごい。

本当は前生徒会長が挨拶をすべき場面だが…前生徒会長パルメニデス、極度の人見知りなのだ。

人前に出るような場面では、いつも彼が代わりにしゃべっていたのである。

それは最後の舞台でも同じであるようで。それでいいのか生徒会。

実力、家柄は問題ないため、容認されているのだが、どうして生徒会長になろうとしたのか?という疑問は誰もが一度は持ったことのある疑問だ。

彼の父上が関係するほの暗い話が裏話としてあるのだが、今は置いておこう。

「さぁ、いや、かたっ苦しい挨拶なんて、いらない!!ですよねぇ!?」

乾杯は彼が担当するようで、手には輝く白ワイン。

「グラスを持って!…よしいいな。それでは皆さん、愛すべきアヴァロー学園、そして大いなるラディアン王国に、乾杯!」

手に持ったグラスを、上に掲げる。葡萄酒が光をすかし、たおやかに揺れている。

一口含む。

豊かな味わい。とてもおいしい。

だけれど、ワインはそこそこに、グラスを置く。談笑を始めた周りにさっと目を向ける。

会場にアーノルドの姿はない。やはり、すでに舞台袖にいるのだろう。



「それではおまちかね、デュエルの上位者にご登場いただきましょうか!―…どうぞ!」

あちこちから黄色い悲鳴が上がる。舞台に登場したのは3人の男子生徒だ。

アーノルドは中央。舞台のライトを反射し、さらに金髪がまばゆく光る。目つぶし?と思うほどの脅威をなぜ歓声で迎えられるのか、のほうが疑問だ。

アーノルドは、デュエルで優勝した。私が負けた時点で、予想していた結末である。学園一の剣の使い手の名は伊達ではない。

2位はクリケット部部長でさらにほかに20の部活を掛け持ちしている細マッチョの爽やか運動部系コーネリアス・ダッドリー、3位は現生徒会長ディラン・アーディ。

生徒会長はだいたいなんでもできるから。


一番の指名権は、一位の優勝者にある。

「1位をとりました学園の王子、アーノルド‥指名するのはいったい誰だ!」

「シェルリ・ダンカン」

即答過ぎないか?しかも少し食い気味だったんですけど。

指名されることはすでに知っていた。指名されたという旨を伝える手紙は、次の日の時点で私のもとに届いていた。

菫の香りがする品のよい封筒は、今や暖炉の灰とかしてしまったけれど。


会場からは一部ブーンイングがあがる。学園の王子と間抜けな女生徒の中をよく思わない者たちだ。

そのような”違い”を気にしないラオ・ピーラはにかっと太陽のように笑った。

「婚約者ですからね!いやぁお熱い!では、ダンカン嬢、舞台へお願いします!!!」

エクスクラメーションマーク多用しすぎか?と思われるかもしれない。

しかしこれが、彼の通常運転である。普通なら、うざったくなるテンションだけれど、彼だからこそ、許せてしまうのだろう。


私は前方に向かって歩みを進める。コツコツとなるヒールが、心臓とリンクするようだ。

あくまで私は冷静。冷静なのだ。最後のチャンス、私はものにしてやる。


私の存在に気付いた周囲の人間が、割れるように道を譲る。

幾ばくの人間は信じられない事実に唖然とした顔を見せた。頭をひねる察しの悪いものもいくらか。

その中でも、ゆったりとした笑みは崩さない。これが私の今の仮面だから。


舞台の中央に進み出る。ライトが私をまぶしく照らした。

一瞬、あの春の日が頭をよぎった。私の10年の軌跡。まだ、終わっていない。


「ご指名ありがとうございます。…有り余る光栄ですわ」


華がほころぶような笑みを、舞台の下に向けると、呆けたような間抜け面が目に入る。

舞台の上からは、思いのほか下の様子が見えるものだ。

己をいじめていたアンネ・ゴールドの悔しそうな顔。

己を醜いと、見下して笑った者も、無視したものも、皆見とれて、注目している。

あの、シェルリ・ダンカンに。


しかし、その優し気な顔は、次の瞬間豹変する。

「私シェルリ・ダンカンは、アーノルド・コンパイルと踊ることを…ー拒否いたします」

会場は水を打ったように静まり返った。


しっかりプロット書かないから結末がころころ変わってしまうのです…見切り運転だめ…

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