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最高のぎゃふんをあなたに  作者: 金山和歌子
4/5

4面楚歌なんてそんなまさか

※少し、キャラが崩れます。


私のざまぁ劇は終盤に差し掛かる。

アーノルドに私の正体がばれることは、想定していた。

喉元に剣を突きつけるという最高のシチュエーションで、決め台詞も言った。

しかし、―…アーノルドが顔を赤くするのは想定外だ。

しかも、怒りや羞恥からではなく、なんといえばよいのか、興奮しているように見える。いうなれば歓喜という感じ。

どういうことだろう。心なしか息遣いも荒いような。想定外の反応に、背中がうすら寒くなる。


「シェルリ、やっと本音を見せたな」

声にも喜色がにじんでいる。

もうこの時点で傍を離れたくなってきたのだが、10年を無駄にするまいと我慢した。


「ええ、それが」なにか、と続く言葉は、彼の言葉にかき消される。

「10年、君が好きだった」

「はぁ?」

頭がおかしくなったのかと思ったが、声も、顔も真剣そのもの。アイスブルーの瞳はあくまでまっすぐだ。

そして私の知らない真実が、明かされようとしていた。


「10年前のお茶会を覚えているか?8歳の時の」

「…ええ」

「あの時、実は俺もいた。君が、あの騎士団の息子を沈めたのも見ていた」

あの場面を、見ていた?

「…あの集団の中に貴方はいなかった」

「体が弱かった俺は、室内で休んでいた。二階から、あの場所はよく見えた」

少しの動揺が走る。しかし表面上には出さない。


「…見ていたから何だというの」

「惚れた、のだと思う」

「はぁ?」

いけない。令嬢ともあろう自分が、はぁ?なんて優雅でない言葉を2回も言ってしまうなど。

それほどアーノルドの話は突拍子がなく、つながらない。

暴力をふるう女の子に、惚れたとでもいうのか。


「まず衝撃だった。少女が、自分より体格のいいものを、倒してしまうなんて。

幼い体の弱かった自分には、途方もなく、格好よく見えた。」


そういえば、幼い時の彼は、折れそうなほどに華奢な体つきをしていた。

体も弱く、そのせいで行動も制限されていたと聞く。

そんな彼にとって私は、強いヒーローのように映っていたのか…?

納得しようと思ったが、つまり、男の子を笑顔で引き倒すような暴力幼女にきゅんとしたわけで、訳が分からなかった。



「初めて婚約者として会った時には驚きだった。まさか、婚約者が君だったなんて、と。

あの時は緊張から心無いことを言ってしまった。すまなかった」

心無い言葉があれだとしたら、相当だ。コンパイル家の教育方針を見直したほうがいい。


興奮からか早口になっていく男は、本当に私の知っているアーノルドだろうか。私にさんざん悪態をついてきた、あの男が素直に謝るなど、信じられない。

しかしまぎれもなく、こいつはアーノルドだった。残念なことに、と言わざるを得ない。

これなら前の、悪態をついていた方がマシだったのではないか。


「次会った時君は前とまるきり様子が変わっていた。学園に入ってからは特に。しかし目は、変わらずに強い光を放っていた―・・・

安心したんだ。君は変わっていないということ。

だから、どうしたら君の本音が引き出せるのかと…いろいろやってみたが、まさか、ここで、出会えるとは」

いろいろ、というのが普段の態度のことを指すとしたら…こいつも私と同じくらい歪んでいるのでは。

じっとこちらを見る目。初めて、見つめあった。

アイスブルーの瞳は、冷たくなんてなかった。私の知らない感情がちらちら見え隠れするそれはむしろ―…



とうとう耐え切れなくなった私は、距離を置こうと、体を起こしかけ…

―アーノルドが腕を引っ張ったせいで、バランスを崩し、地に押さえつけられる形となった。

「これで、形勢逆転だろう」

一瞬のうちに周囲の煙が晴れていく。意図的に、風魔法で飛ばしたのだろう。

私たち―基アーノルドを見た観客は歓声を上げた。

「…!」

攻撃魔法を使おうと思ったが、とっさに出たのは擬態の魔法だった。私がここにいることを知られるのは、まだ早い。

擬態の魔法は便利だが厄介で、その道のエキスパートでなければ、いくばくかの時間と魔力を消費する。

その間に彼は、魔法で動きを封じ、首のチョーカーに手をかけた。

…攻撃する時間は残っていない。

するりと、首のチョーカーがとられるのを、黙ってみることしか、できない。


「煙でおおわれていたフィールドが今、明らかに!勝者は―…アーノルド・コンパイルだァ!」

黄色い悲鳴がこだまする。会場は大きな盛り上がりを見せた。


「いやぁ、やっぱり勝つかアーノルド!!」

「あァ、俺はタ―バルザンを推していたんだけどな」

「煙に隠れた三分間のやり取りが気になるところですね!!」

「真相は煙の中、というわけだなァ」

「先輩、面白くないですよ!!」


学園一の剣の使い手と、顔を隠した怪しい生徒。

そういえば、本の中ではいつも、人気者が勝っていた。王子であり、騎士であり。

人々の歓声に、優雅に手を振ることのできるような。

体を起こし、踵を返しフィールドを後にする。自分が負けた場所にとどまる理由などない。

「今の話、本当だから、一緒に…-」

振り向くことはしなかった。どんな顔で振り向けばよいというの。

私は負けたのだ。






これからについて、考えなければならない。

私は、あの試合でアーノルドに勝つ気でいた。そしてそのあと、優勝し、舞踏会で正体を明かしあいつに赤っ恥をかかせるつもりだった…しかし、負けた今となっては、正体を明かすのはこちらの恥にしかならない。

負けた時のプランも、あるにはある。


「こうなれば、そちらを。」

鏡の中の私は、口元をいびつにゆがめている。

「まだ、やることはたくさんある」


最後のチャンスは、卒業パーティーだ。しかし、一抹の不安がもたげた。

あの、アーノルド相手にこの手は通用するのか。いや通用する。するに決まっている。

もう考えることを放棄したかったので、準備に没頭することにした。

「しかし今日は体を休めて…明日のため…いいえ、卒業パーティーのために」

しかし、

「寝る前のベルガモットは、欠かさずにね」

この香りで、今日のことを鎮めよう。

まだ、チャンスはある。ぜったいに、ぎゃふん顔を拝まなければ。






そして、一週間後、卒業パーティーはやってくる―‥



ざまぁされてしまったのですがどうすれば?タイトル詐欺タグ付けたほうがいいですかね。そんなでもないか。

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