3つ子の魂百までというけれど
アーノルド視点途中に含みます。戦闘描写、省いて読めます。
卒業パーティーを、一週間前に控えた日。
私は、剣を携え、コロッセオの中央にいた。
沸き立つ観衆。
はやる気持ちを抑えるように、髪を片手で撫でつける。
コロッセオの中央に立つアーノルド。今日もまたうねりまくった金髪は太陽に反射し、いつも以上に目が痛い。
嫌味な笑顔でなく、真剣な顔をしている彼。鋭い目はしかし、冷静に相手を見つめる。
その姿にため息をこぼす令嬢が後を絶たない。見た目と成績は無駄にいいのだ、こいつは。
審判が声を上げる。
「それでは、準決勝を始めまァす!
まずは・・・」
アーノルドをみやる審判は、放送部であり伯爵という身分を持ちながら市井に赴き庶民の生活を見るのが大好きな変わり者綺麗な白銀の髪に大きなメガネが特徴的なラオ・ピーラである。
彼は大きく息を吸って、口上を述べる。
「レモングラスのような瑞々しさ!端麗な顔に皮肉な笑み、狙ってるのかお坊ちゃん!
侯爵家でもって剣もできる!神に愛されし男!アーノルド・コンパイル!!」
流石は放送部、工場もよどみない。歓声が上がり、競技場の熱気は最高潮にまで達する。
アーノルドはそんな周囲に臆することなく、優雅に一礼した。
「さぁさお相手はなんと!マントの中には誰がいるのかぁ!?ミステリアスな爆弾野郎、タ―バルザン!」
私は、一歩前に進み出て、同じように礼をした。
さぁ、麗しい顔を、無様にゆがめていただこう。
卒業生だけでなく、在学生も参加でき、剣や魔法で腕を競い合う伝統的なこの行事。
首に着けた相手のチョーカーを、先に取ったほうが勝ちというシンプルなルール。
学園の腕に自信を持った者たちが参加するこの行事には、面白い風習がある。
デュエルで勝ったものから、エスコートする相手を指定していく、というものだ。
ほとんどのものが婚約者を名指しするのだが、最後に学園の美女と踊りたい下心を持ったやつもたまにいる。
しかし心配することなかれ。
魔法使用可だから、単に剣ができればいいというものでもない。
体力勝負のゴリラが美女を指名する、リアル美女と野獣はあまり実現しないのだ。
そもそも貴族のご子息方にゴリラはあまりいない(いないとは言ってない)。
もちろん殿方主体である。しかし、女子もエントリーできるのが、最高に面白いところ。
何十年も前では、女子生徒が優勝し、王子と踊って結婚したという話まである。
しかし実際のところ、女子のエントリーはほぼないといっていい。
貴族のご令嬢たちは戦闘など興味はないし、指名するより指名されるのを待つ乙女ばかり。
卒業パーティーの中、皆が注目する前で、最初の一曲を共に躍る。それは、女子生徒にとって、限りない名誉である。ライラが言ってた。
お気づきの通り、マントをかぶったミステリアスな爆弾野郎、タ―バルザンは私。
このデュエル、身分や名を伏せたまま参加も可能。出自にとらわれ戦いに不平等が生じないように、という配慮かららしい。
それを利用させてもらった。
ちなみにタ―バルザンは、昔好きだった絵物語の主人公からとっている。私が、剣を習うきっかけとなった、勇敢な王子。
なってやろう、勇敢な戦士に。向かう相手は黒竜でも、大狼でもなく、婚約者だけれど。
目の前に立つ、アーノルド。
厳しい目つきだ。油断や隙は見えない。
「…はじめっ!」
アーノルド、戦おう。私の十年間を、最前で見て。
両者の魔法が宙を舞う。まずは、威嚇レベルの軽いもの。
フィールドは保護魔法がかけられているから、観覧車席まで被害はいかないし、ある程度の修復はきく。
そして保護魔法は、生徒の方にこそ、念入りにかけられている。
大事な生徒が傷ついたら、学園の名折れであると、フィールドにかけられたものより厳重である。
だから、思いっきり戦っても大丈夫というわけ。
「それでは、よろしく頼む」
「・・・」
かけられた声を無視し、思いきり懐に入り込み、剣先を突き出す。
「っ、早いな!」
驚いた顔をしながらも最小限の動きでかわすところはさすが、剣の成績一位である所以。
素早く体勢を立て直し、次の攻撃を繰り出す。隙が無く、的確。
プラスして、お得意の炎も襲い掛かってきた。青い炎が目の前で揺らめく。
シールドでかわした先には、剣を振りかぶったアーノルド。力強い剣先を、うまくかわす。
そして私も剣をたたきつける。難なく受け止められるのは、力の差を感じさすがに悔しい。
仕方のないことだが、努力では埋めることのできない、力の差が悔しい。
そのまま剣での応酬が続いた。そうなると、不利になるのはこちらだ。
剣をいなし、後方に飛ぶ。
すっと片手をあげるしぐさが眼に入る。ああ、次はきっと。
炎の渦が迫りきた。大きさおよそ、400シャーク。あれだけのものが作れるのなら大したものだ。
しかし、私は彼を上回る。
成長するにつれ、壁として立ちふさがったもの。男女間の身体能力の違い、だ。体の構造上、仕方のないこと。
では、その足りない部分を埋めるには?
答えは簡単に出てきた。―魔法だ。
魔法には、老若男女関係ない。魔力があれば。そして魔力は、努力によって身に着けることが可能だった。
剣の腕を磨きつつ、私は魔法に心血を祖注ぎ始める。
そして今では、この学園1番の魔法の使い手だと、自負している。去年のデュエルを見た限りは。
魔法であれば、負けるはずがない。
片手を突き出す。
魔法がぶつかり合うすなわちそれは爆発だ。大きな魔法であればあるほど―衝撃はおおきい。
そしてあたりは、煙に包まれた―。
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煙で閉ざされた、フィールド上。
「ぐっ!」
視界が悪い中、アーノルドの体は引き倒され、地に転がった。
そして、鋭い殺気に体が震える。
「…お前の、負けだ」
一瞬のうちに、マントの男が馬乗りになり、剣をのど元に突き付けていた。
最初フィールド上でその姿を見たとき、アーノルドにとって、マントに隠れたその存在は少し薄気味悪い存在だった。
そのため、初めて聞いたその声が、透明感をもって耳になじむのが、意外だった。
しかし悠長にしている暇はない。硬直の魔法のためか、体は石造のように動かない。剣はのど元から微動だにせず。
まさに絶望的な状況。しかし、アーノルドは口角を上げて、笑った。
「…それはどうかな」
無効化の魔法を体にかけ、硬直魔法を解く。
あの一瞬のうちで組み立てられた拘束は、しかし緻密で強力で、案外魔力を消費した。
これだけで、相手の実力を推し量れる。—これほどの実力者、いったい誰だ…?
それは試合が終わったら判明するだろう。今は全力で戦うのみ。
今己はコロッセオの中央にいるのだから。
今一度、相手を見定め、
「さぁ、反撃、だ…」
眼を見開く。
無効化魔法は、空いての擬態魔法をも解いてしまったようだ。
マントの下から、見知った―しかしメガネがないからか、いつもとは印象がだいぶ違う―婚約者の顔がのぞいている。
「…シェルリ?」
「…ばれたか」
いつもおどおどしている姿とは全く違い、冷たい瞳、冷ややかな声。雰囲気もガラッと変わり、別人のよう。
「ばれてしまったのなら、仕方がありません。貴方は私に敗北するの。」
口元には、冷ややかな笑みが浮かんでいる。
「ざまぁみろ」
それは美しく、残虐。
アーノルドは眼を見開き、みっともなくとり乱―
…さない。
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そういえば、三つ子というのは、三歳の子どものことを刺しているらしいです。幼いころの性格は年を取っても変わらないという意味だそうで。
二話の題名にふさわしかったような感じもします。