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最高のぎゃふんをあなたに  作者: 金山和歌子
1/5

1つの目的のため突き進む

あまり期待通りには動いてくれないと思います。

お時間あればぜひ、お付き合いください。


あと、背景は結構適当ですので、矛盾点等ありましたらご指摘お願いします。

ファンタジーだし!で、大体で読んでください。

時々修正入ります。


じんわりと、水分は静かに、しかし急速に服に広がっていった。

顔にもいくらかかかり、濡れた髪が額に張り付くのがうっとおしい。メガネも後で拭かなければ。

広々とした食堂にいる令嬢方の笑い声が聞こえる。まるで揺れる草花たち(雑草)のざわめきようだ。

「申し訳ございません、シェルリさま。お水が、服に」

赤いリボンを優雅に結んだ令嬢が、空になったコップのふちを揺らし、謝罪の言葉を口にするが、形だけである。

口はにんまり、愉快にゆがめられているのが丸見え。隠す気もないらしい。

お似合いですわ。

人ごみのどこかから声がした

リボンの令嬢もとい―繊維業によって財を築くロナルド地方の伯爵令嬢であり、趣味がお茶会でさらに夜会で

リボン多めのドレスを作り陰で少女趣味といわれ数学の授業が嫌いで友人という名の取り巻きアンネ・ゴールドに課題を押し付けて先週「夜のきらめきたちのこえ」の舞台を見にいったマリアナ・エルファントはわざとらしく眉を下げた。

「許して、下さる?」

私は、うつむきながら、か細い声で答えるほかない。

「…ええ、お気になさらず」

「え?なんと?」

ご丁寧に大げさなジェスチャー付きで彼女は聞き返す。

この至近距離で聞こえないと、耳の機能の低下が考えられる。医者にかかったほうがいい。

医者でも性格のほうは治せないだろうが。

「…大丈夫ですので。お気になさらず」

少しだけ視線を上げて、口早に伝えると、のろのろと足を動かす。行く途中で足をもつれさせ、醜く転んだ。―フリ。

後ろの人だかりの馬鹿らしい笑い声が大きくなる。

みじめな伯爵令嬢をネタに大きな盛り上がりをみせている背後は気にせず、私は無感情に立ち上がった。

濡れた服を見やる。胸元から、裾にかけて色が変わっている。コップ一杯の水で、下着も濡れてはいないし。

この程度の濡れなら、そのうち乾くだろう。

しかし、秋も深まるこの季節、濡れた場所はひんやりと冷たい。

逃げ帰ったふりをして授業は休もう、と今後の予定を頭の中で組み立てる。

ああ、そうだ。ゴールド伯爵の隠し子問題について、お手紙をしたためようかしら、なんてね。



貴族の御子息・御令嬢が通う、このアヴァロー学園はどこもかしこも豪奢な作りである。

大理石がふんだんに使用された廊下には、著名な彫刻家の芸術品が並び、道行く人々を楽しませ。

広大な庭園は、腕利きの庭師によって毎日整えられている。季節によって顔を変えるさまは、学園名物の一つ。

温室は学園内だけでなんと5つあり、噴水は10個。それぞれが彫刻家の威光が見える作りだ。しかし流石に半分に減らしてもよいと思う。

豪華なのは見かけだけでなく、施設としても充実している。

ドーム状の大きな書庫にしまわれた蔵書数は、国一番。

歴史書、美術書、子供向けの絵本、最近流行りの恋愛小説まで、なんでもこざれで、市民に開放されているスペースもある。

それだけではない。学園は、研究施設の面も備えているのだ。

研究棟では、熟練の研究者や次世代を担う若者など、国の未来を者た背負う者たちが集い、日夜研究を重ねている。

王宮が滅びても学園あらば立ち直るという、いやに風刺めいた言葉はあながち間違いでない。

学園は、都市の、いやこの国の重要機関である。

その歴史は先の大戦より前であり、およそ300年。

厳格さと華々しさをもって、王国にそびえたつ学園はまさに、国の宝といえよう。


もちろん寮だって漏れることなく素晴らしい作りだ。しかしこの広い学園のなか、寮と校舎にはちょっとした距離がある。

単純に敷地が広いというのもあるが、敷地内に流れる川のせいで、寮は少し離れたところに作らざるを得なかったのだ。

学内に川と、驚かれるかもしれないが、広大なウユン湖から都市へ生活用水を届ける大事な生命線である。

ついでに釣れた魚はおいしく食べれるらしく、学食で食べることも可能。

釣りクラブもあるらしいので、気になる方はぜひ。


川の向こうにある寮にいくには、橋を渡らねばならない。そして、橋には嫌な点が3つある。

ひとつ、橋の距離はそれほど長くはないものの、冬とても寒い。特に風が強い日しぶきがかかる、なんてことも。

耐え切れず、走り出す生徒もおり、(特に新入生や市井出身の学生たち)そんな生徒は、出身が悪いと陰口をたたかれる。

だから、生徒たちは体をぶるぶるふるわせながらも、すまして淑やかに歩く。

その様はとても面白く、冬場ウォッチングに行くのは私のひとつの趣味である。

ふたつめ。

橋の入り口に趣味の悪い3代目校長の銅像があり、これが夜になると結構不気味なのだ。

下からのライトアップに悪意を感じる。

初めて見る新入生は、ここで大体悲鳴を上げる。春の風物詩、闇夜に響く乙女の悲鳴の出来上がり。

みっつ。

橋は狭く、二人通るのがやっと、というくらいの幅しかない。

だからもし、人に嫌がらせを受けている私のような人がいたとしたら、肩を思いきりドンとぶつけられてしまう。

運が悪いとそのまま川の下へドボン。私は一回落ちたことがある。もちろん、フリだが。

また、すれ違った人と挨拶をしなければいけないという古典的なマナーも存在する。

好きな人とすれ違えば嬉しいのだろうけれど、苦手とする人と会えば険悪な雰囲気になること間違いなし。

そう、こんな感じに。

出会い頭にいやそうな顔。しかし、さっさと通り過ぎようとはしないこの男、婚約者、もといアーノルド・コンパイル―私より一つ上の18歳でリーダー性はあるものの嫌味三昧で顔重視面食い野郎きれいめおねえさんがいっそうタイプ普段は意外にも女子生徒に紳士的なフェミニストで王国の工業を担うアヴァンド地域侯爵家の長男―にあった。

色だけは、さわやかなレモン色の髪を揺らしている。相変わらずうねった邪魔そうな金髪だ。

彼はわざとらしく濡れた服を見やり、「今日は一段と、お似合いの服だな」と嫌味をかましてきた。

もし私が二ホンという国にいたらこう言っていただろう。うるせえ、セクハラで訴えるぞ。

しかし私がいるのは幸か不幸かラディアン王国なので、貴方は相変わらず、突然変異のワカメを頭につけてらっしゃるのね、という優雅な言葉しか出てこなかった。しかも心の中にとどめてるため、びくりと体を震わせる気弱な令嬢でしかない。表面上は。

たどたどしく、スカートの端を持ち上げる動作も付け加えておいた私に抜かりはない。

そもそも、侯爵令嬢の私がいじめられているのはこの婚約者殿の顔が無駄にいいせいなので、この服の濡れは、こいつのせいと言えるのではなかろうか。

「アーノルド様、ごきげんよう。…お褒めの言葉、ありがとう、ございます」

それでは、と早目に立ち去ろうとすると。

「お前、嫌味も通じないのか。頭が硬すぎるんだな、お湯にでもつけてくればましになるか」

乱暴に腕をつかまれる。嫌味も添えて。腕をつかむ力は強くないものの、嫌悪感に一瞬顔が引きつる。

そしてさすがに隣の男子生徒―国を支える大商会の長男であり幼さを感じさせる甘い顔立ちに反し5か国語を操る商談のやり手他の成績も優秀かつ性格柔和なダイス・パッスリーが焦ったように声をかけた。

「ノル、さすがに」

「…わかってるさ」

口をとがらせ、気まずそうにつぶやくアーノルドは、ダイスに頭が上がらないようだ。

「さっさと行け」

腕をパッと離し、コツコツと靴を踏み鳴らし去っていく。

ダイス・パッスリはこちらに会釈し、前の背中を追いかけていった。

水面を一瞬眺め、

「そうだわ、お風呂に入るのもありだわ」

お風呂にレモンを浮かべれば素敵な香りも楽しめよう。お風呂上りには冷たいカモミールティー。

そうすれば、憂鬱な気分も流されよう。

彼女の服のシミはすでに渇きはじめ、色を薄くしていた。


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