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鬱々ジメジメとしていて、時折獣の鳴き声がする、昼間でも薄暗い森をようやく抜けた。
といっても話しながらだし、獣は鳴き声だけで出てくることは無かったからそんなに怖いこともなかったけど…これ、アタシ此処また通って城に帰らなきゃダメなのよね……?
午前中に召喚されて、気絶を何分してたか分からないけど、多分まだ、そう時間は経っていない。
空を見上げると、真っ青が広がっていて、ところどころに白いふわふわの雲が浮かんでいる。
どこの世界でも空は同じなのかしらね。朝に太陽が昇って昼は真上に来て、夕方に沈んで夜は月が出る。
その常識がこのファンタジーな世界でも正しいなら、今は恐らくお昼、お茶会でお菓子を食べた後の腹具合を考慮してもそこそこにお腹が減っている。
11時から14時くらいのもんかしら。何となくだけど。
そこから街で色々見て帰ってくるとなると結構暗くなるわよね。
あっエステルって帰りはそのまま城に寄らずどっか行ったりしないわよね?
月一お茶会はするけど、泊まってったりする予定は無いのよね?
街で遊んで解散とかならないわよね??
アタシのことちゃんとあの城まで送り届けてねっ!?
怖いの大嫌いなんだから一人でこんな暗いとこ通ったら毎秒チビり散らかすわよ。
高校生にもなってお漏らししてる人見たくないでしょ!?
森を抜けたすぐ先には、門があった。
大きな丸太を組み上げた簡素ではあるが隙間なくきっちり作られた門。
その周囲には石造りの壁がずっと続いていた。
「この壁は街を囲うように築かれていてね」
「へぇ……頑丈そうねぇ」
アタシがそう言うとエンジェは頷いた。
「商業が盛んな街だから、食物や貴金属目当てにモンスターとか賊が入って来るのを防ぐんだ。ほら、門番も居るだろう。過去に勇者として働いていたものとか他国で軍に入っていたとか、腕に覚えがあるものを雇っているから、かなり安全なんだよ」
と、エステルが説明してくれた。
確かに、エステルが言う通り、今は門のところにがっしりとした体格の男が二人、鎧と武器を着て立っていた。
近くにいくと、若い男と、壮年の男の二人組だということがわかる。
向こうも私たちに気付いたようで、エステルを見て「ああ、この人か」みたいな表情をした。
「エステル様、お戻りでしたか」
壮年の方がそう言って門を開けようとした。だがそれを若い男が制した。
「お手数ですが、規則ですので証明書を……」
「ああ、これだね……もうしまうよ」
エステルがさっきアタシに見せた時のようにペンダントを取り出してみせた。
形式だけのようで、若い男もチラリと見ただけで頷いた。
お店とかである身分証の提示と同じくらいの大切さね。っていうかアタシそんなもん持ってないけど。
えっ此処に来て私だけ入れないパターン?
と思ったが「この子は僕の連れだよ」とだけエステルが言うとすんなり通して貰った。
「許可証を提示しさえすれば入るのは難しくないんだ。許可証として認められてるのはそれぞれの街の住民の証だとか、王や村長の印鑑のある手紙とか、僕だとあのペンダントがそうさ。1つの許可証につき、3人まで入れる。もし同行者が問題を起こせば、許可証を提示したものが裁かれる。まぁやった本人も裁かれるがね」
示し合わせて知らない人同士で街に入るわけにはいかないってことね。
何やらかされるか分かったもんじゃないから。
「連帯責任ってこと?」
「まぁそうなるね」
なんか厳しめのコストコみたいね。
いや、そうでもないか?
門は見た目よりも重いようで2人がかりでゆっくり開けてもらった。
もちろん手動、というか両開きの門なので片方ずつを2人で押して開けていくという超原始的な方法だ。
ギィ、と鈍い音を立てて町へ扉が開かれていった。