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1階では魔王と、もう1人が戦っていた。

金髪の長い髪を青のリボンでくくっている、白の軍服に似た洋服を着た男、いや、少年、かしら。

魔王ほどではないが、小柄で華奢な印象を受けた。

これ絶対美少年パターンでしょ。

きっと、あの子が勇者なのだろう。

勇者は手に持っていた剣の先を魔王に突きつけた。

「ふはははは、甘い甘いッ」

魔王が、けたたましく笑いながら黒い蝙蝠のような羽根を使って飛び、勇者の剣技を躱した。

あれ?羽根生えてたっけ「生やせます」あら、そうなの。

間をおかず、魔王は何か黒い光線のようなものを放つ。2階からは細かい表情は確認できないが、勇者は金の髪をさらりと靡かせながら、それを躱した。

魔王は何か小さく呟くと、鈍い銀色に光る剣を何処からともなく取り出した。

「ダルク様は魔術が得意で、特に周囲の生気を吸い別のモノに作りかえることが得意なんです。先ほどの光線も、剣もそれで作っています」

オズさんが色々解説してくれる。なるほどなー。アタシにはよくわかんないけど意外と凄い事なのでは?

この世界の人がどれだけそういう魔術?みたいなの出来るか知らないけど。

そうか~周りの生気を吸って…生気って生命力…周りの…?

「周囲の生気?それってアタシとか吸われてない!?」

召喚したのも生気の供給源にしようとかじゃないわよねッ!?

勇者が来たときに「お前も来い!」みたいなこと言ってたし、つまりそういうことなの!?

「大丈夫ですよ。1階のあちこちに花瓶が置かれているのが見えますか?」

オズさんはおっとりと1階のあちらこちらを順に指さしていった。

アタシもそれに沿って視線を動かす。

視線の先には花瓶を置くためだけの小さな机と、その上には黒い花が飾られていた。

それと同じものが5、6……オズさんの視線を追っていくだけで8つほど等間隔に置かれている。

アタシはその一つにじっくりと目を凝らした……花は薔薇のようだった。

そして、ゆっくりゆっくりと黒く美しい薔薇が、茶色に染まっていく――枯れていっていた。

「花の生気を吸い取ってるってこと?」

「ええ、うちの執事長が育てている黒薔薇なんですよ。ダルク様はこの薔薇が一番魔術に使いやすいとおっしゃっているんですが……」

オズさんは悩ましげに顔(ウサギの着ぐるみ)にそっと手を当てた。

「何か問題があるの?」

「それが……」

オズさんはしょんぼり、と顔を伏せた。が、着ぐるみが取れそうになり慌てて姿勢を正した。

深刻そうな声だ。

何か黒薔薇を使うことによって副作用とかあるのかしら…?

「この黒薔薇のジャムがとっても美味しいんですよね。魔術に大量消費されてしまっては作れません……」

オズさんは悲しげにそう言った。


ジャムって…それは……

「それは一大事ね!」

「でしょう?お茶に混ぜるととても美味しいんですよ」

へえ~。薔薇のジャムってお洒落!簡単に作れるのかしら。

「黒薔薇のジャムはないんですが、黄色の薔薇のジャムも作ってるんです。それも中々上手く作れたので、この後勇者様とダルク様と一緒にお茶会を開きますので、良かったら召し上がってくださいね」

もう焼き菓子を用意したんですよ、冷めちゃわないかしら。と、オズさんは心配そうに、でもどこか楽しげに言う。

お茶会かぁ~楽しみ!アタシも誘ってもらえるのね!焼き菓子って何かしら!

……いや、この後お茶会ってなによ。

オズさんもアタシの訝しげな表情を察したのか、

「いつもお二人の決闘が終わった後してるんですよ、楽しいですよ?勇者様…エステル様は気さくでお優しい方ですのでマコト様もすぐ仲良くなれますよ」

と、ズレてる気遣いをしてくれる。月イチ定期開催で決闘してんじゃないわよ。

こういうのって大一番の命を賭けた勝負!って感じじゃないの?

オズさんって魔王側の人間でしょ?何勇者の人柄褒めんてんの?

っていうか薄々感じてはいたけど魔王も勇者も、オズさんもちょっとズレてるな?

「もしかしてめちゃくちゃ仲良いの?そもそもこの黒薔薇だって――」

そもそも魔術の為に薔薇を置いてるのだって引っかかる。

アタシはその理由を聞こうとした。だが、それは叶わなかった。

なぜなら――


シュッと、目の前を勢いよく何かが横切り、風が起こる。

羽根を使って2階のアタシ達の居る付近まで飛んできていたらしい魔王の「あ、」という声がやけに近くで聞こえて、それから。

勢いよく、アタシの目の前に剣が刺さった。

はらり、と切れた前髪がアタシの足元に落ちたのが分かった。

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