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子供のころから、可愛らしいものが好きだった。

泥だらけになって男の子たちとサッカーをするより、女の子と流行りの占いを試しているほうが楽しかった。

魚や虫の採れる場所を教えてくれたお祖父ちゃんは、いつからか綺麗な花の咲く場所やお菓子の作り方を教えてくれるようになっていた。喧嘩の仕方はずっと教え続けてくれてたけど。

フリル、レース、ビーズのアクセサリー。お化粧にも興味があった。

アニメや漫画の少女たちのやわらかな喋りが好きで、それを真似て喋ると、自分も柔らかで可愛らしい存在に慣れた気がした。


だから。


「だから、まぁこう育つのも当然なのよね。所謂オネェ系ってやつ?」

「いや、骸骨やゾンビで気絶する理由にはならんぞソレ」


「だって可愛い物と綺麗なものばかり摂取してたんだもの、怖い物が苦手になって当然じゃない?」

そういうと魔王は「いやわからん」とクールな返しをしてくる。

そう、彼女が言った通り、気絶した。思い切り叫んだあとクラリとしてしまったのだ。

これには恐らくよく分からない日本じゃない何処かに召喚されたショックも大きかったように思う。

ともかく、叫んで気絶して。

気付いたら介抱してもらっていて。天蓋付の豪奢なべッドに寝かされていた。

いいわねコレ。全乙女の憧れじゃないの。

儀式の場と魔王はゴスロリ趣味が全面に出ていたが、こちらは真っ白なベッドとカーテンでロリータ趣味と形容するのがいいだろう。サイドテーブルもべッドに合わせて繊細な造りだ。脚部分にスズランの彫刻がされている。いいなーこれ。

「なんかお前ちょっとキャラ変わっとらんか」

「もうバレちゃったし、いいかなって。そもそも冷静になって考えれば元から偽る必要なかったのよね」

「なんでじゃ?まぁどんなキャラでもいいが」

興味があるのか無いのか、ベッド際の椅子に凭れ掛かかってギシギシと音を立てながら魔王が言う。

床傷付くからやめときなさいよ。いや、魔王ってことは自分の城だからいいのか……?

「基本的に初対面だとフツ―のちょっとチャラめの思春期高校生演じてるのよ。それで、ちょっとずつ親しくなって、まぁ大丈夫かな、もういいかなって思ったら地を出すのよ。学校じゃもう専らこっちのオネェキャラよ」

バカにされたりすることもあるけど、対応力と鈍感力さえ併せ持てば隠し続けるより大分楽なのよね。

あとお祖父ちゃんの知恵。しっくり来ていないのか魔王は小首をかしげている。

「そっちの方がまぁ、やっていきやすいからね。で、偽る必要が無かったってのは無理やり呼び出してきたよくわかんない魔王なんかにそんな丁重な対応要らなかったかなって」

「よくわかんないとはなんじゃ!そもそもお前もこちらに来ることを受け入れ――」

「はいはい、もうそれはいいわよ。逃げたい気分だったんでしょ。ハイ、終わり。で」

「むぅ……で?ってなんじゃ」

「理由よ、理由。どうしてアタシの事召喚したの?」

一度気絶して、綺麗なベッドに寝かされて。起き抜けにあったかいハーブティーまで貰ってしまった。

そうすると、まぁちょっと絆されてくるものもあるのよね。

帰りたい気持ちもあるけど、まぁ、話くらい聞いてあげてもいいかな…?なんて気分になってくる。

それに――

「おお、忠誠を誓う気になっ」「なってないわよ。理由聞きたいっつってんの。それとお祖父ちゃんのこと」

「ソウイチロウ?」

「そうさっき言ってたでしょ?アタシお祖父ちゃんの部屋を掃除してたら召喚されたんだし、アンタも言ってたし関係あるとは思うんだけど、お祖父ちゃんが魔王とお知り合いだったなんて初めて知ったわよ」

「ソウイチロウのやつ何も言っとらんのか?」

問いかけに頷くと、むむ、と魔王はまた声を漏らした。

「しょうがない、我が教えてやろ―う!!心して聞くがよい!」

「分かり易くぱぱっとまとめてね」

「ハードル高いな!?」

何となく威張ってる様子が腹立たしいような可愛らしいような気持ちになってきて、少し意地悪をしてしまう。

妹ってこんな感じなのかしら。上の兄弟しか居ないから新鮮だわー。

ふむ、とかむむ…とか唸っている。

「ふむ、じゃあ……ソウイチロウは昔我が母君の忠実なる側近だったのだが、異界の女に惚れ向こうに住みついたのじゃ。まぁそれで良かったのじゃが今回の我の望みを叶えるためには武力が必要でな?ソウイチロウを呼び戻そうとしたんじゃ。ソウイチロウの実力は折り紙つきじゃが、本人は異界に身体ごと順応しているため腰に爆弾を抱えた身で下手に異界に呼び戻せばその時のショックで腰をギックリさせてしまう危険があると伝書鳩で連絡した時に断られてな?代わりに、孫のマコト――貴様じゃな、その孫に自分の持てる全ての技術を叩きこんだという。ならばそいつを召喚し、さらに魔王ブートキャンプ…まおザップ…しっくりこんな、まぁ魔王式に鍛え上げて、我が望みを果たす手伝いをしてもらおうかな、と。あ、ちなみに望みとは勇者を殺してほしくてな。それが召喚の目的じゃ」

「待って待って長い早い訳わかんない!!情報量多い!」

っていうか待って!?色々やばい事言ってない!?

「むふん、我ながらぱぱっと言えたな!えらい!魔王様じゃからな!」

混乱する私の横で、魔王は悦に入っていた。


「ちょっと待って、お祖父ちゃんがこの世界の人で?お祖母ちゃんは普通の人で…?」

混乱しながらもなんとか情報を整理しようとしていた、その時。


バーーン!と大きな音が辺りに響いた。

「む、来たか」

なんでもないように言い、魔王が椅子から立ち上がった。

何なの、と聞こうとしたアタシは、思わず口を噤んでしまった。

魔王は笑っていた。容姿に似合わない、口の端をニタリを上げた笑み。

隙間から尖った牙が覗く。目は爛々と輝いていて、まるで。

まるで、獲物を狩ろうとする獣のようだった。

魔王は告げた。

「お前も来い、マコト。お前が殺すことになる相手だ」

尚も動けないでいるアタシにもう一度、魔王は言う。


「勇者が来たぞ」




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