四杯目 店長、あの人は人妻です。
やっと完結しました。話自体は短いのですが……。筆者の慣れない連載に、お付き合いいただきありがとうございました。
「……、で、なんでまだいんだ、あのねーちゃん」
小池が、松岡に見えないように体の前に手を隠しながら、
親指で彼女を指さした。
「今度は旦那さんとケンカなさっているそうです」
店主が、今日は珍しくコーヒーカップを磨きながら言った。落ちない茶渋でもあったのだろうか。
「お前、質問することだけは積極的だな……。いっそ付き合っちまえよ。お前の好みなんだろ?」
店主は苦笑し、
「無理ですよ、僕なんかが……。大体、前の彼女さんとも性格が合わなくて別れましたし……」
と言った。
「ふーん。じゃあ、人妻もののDVD、今度貸してやるよ」
ガチャーン、と、店主は、シンクにカップを落とした。
「い、いりません!」
「お、なんだ、コンプリート済みか」
「持ってもいません!」
「もう、めんどくせーな。おい、ねーちゃん、マスターが、お前のこと気に入ったんだとよ」
小池が松岡に向かって言った。
「小池さん!? なに言って……」
店主は顔色を赤くしたり青くしたりしていた。
松岡はそれを聞くと、店主を一瞥し、
「ふん、ボンボン店主には興味ないわよ」
と言った。
「ボンボン?」
小池が不思議そうに松岡に聞き返した。
店主が代わりに答えた。
「ええ、実は僕、大学休んでここを経営してまして……」
「お前、大学生だったのか!?」
小池が、煙草をくわえたまま器用に驚いた。
「小池さんも、ヒモなんかやめて、さっさと奥さんのところに帰るのね」
松岡が会計をしながら言った。
「おい、なんで、お前が知ってんだ?」
松岡は小池の方をにらむと、
「社宅のネットワークを舐めないことね」
と言い捨て、店を出て行った。
「マスター、じゃなかった、ボンボン……、強めの酒を一杯くれ……」
小池はカウンターに突っ伏しながら店主に言った。
「ボンボンじゃありません……。あと、ここにはお酒はありません……」
店主も、シンクのふちに両手をつき、うなだれていた。
◇
ヴィーナスでは、放蕩店主と、暇な遊び人と、その他の常連客が、
いつでも、あなたが来るのを待っている。
<四杯目・完>
<物語・終>
これからは、短編を気まぐれに更新できたらいいなと思います。お読みいただき、ありがとうございました。




