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三杯目 松岡さんのバトル

注・モラル的に不適切な場面があります。ですが、書きたかったので、フィクションとしてお許しください(年齢指定的なものではありません)。


喫茶店のヴィーナスは、夜は10時まで開いている。


「なあ、マスター、あの女、最近いつもいねえか」


常連客の小池が、小声で店主に言った。


店主はいつものようにコップを磨きながら、


「松岡さんとおっしゃるそうです。お姑さんと仲が悪いので、仕事終わりにうちで時間をつぶしているんだそうです」


小池が、少し意外そうに店主に聞いた。


「マスターが客のこと、そこまで知ってるのは、めずらしいな」


「僕が自分からお聞きしたんです」


店主はにこやかに言った。


「なんだ、ああいうのがマスターの好みか」


「ええ。僕の昔の彼女さんに似てるんです」


「ほー」


この店の店主は、いかにも草食系に見えていたので、これが噂のロールキャベツか、


と、小池は意外に思った。







それからしばらくして、夜のヴィーナスに、松岡が黒づくめの恰好できた。


店主がその姿を見て、


「あれ、松岡さん、今日はお葬式だったんですか?」


といった。


もはや店の置物と同レベルに常連客に認識されている小池は、やはり今日もカウンター席にいた。


松岡も他の常連客と同様に、小池には目もくれず、


店主に歩み寄った。


なぜか顔が輝きに満ちていた。


「店主さん、聞いて! あの女、とうとうくたばったのよ!」


「あの女ってのは……、姑か?」


小池が引き気味に松岡に聞いた。


松岡は心底嬉しそうに、


「そうよ! 長い5年間だったわ! 私の勝ち!」


店主は静かに言った。


「松岡さん、いくら仲が悪かった相手でも、旦那さんのお母様がなくなったのに


そんなに嬉しそうにしては、罰が当たりますよ」


「いいの! 今夜だけは喜びに浸るわ!」


松岡は店主の忠告を聞いておらず、小池はこんな松岡に引いていた。


「毎晩うっとうしかったでしょ! はいこれ、おわび!」


松岡は高いテンションを保ったまま、ブランド物の財布からピン札を


何枚か抜き取り、店主に押し付けた。


「そんな……。いただけませんよ」


店主は返そうとしたが、松岡は


「今日はもう帰るわ! コーヒー飲みたくなったらまた来るから!」


と、北風のように店を後にした。


あとには、万札を数枚持ったまま立ち尽くす店主と、


カウンターに肩ひじをついて煙草を吸う小池だけが残された。


「……マスター、その金、いらないならくれ」

 

小池が静かに言った。


「……新しい豆を試してみたいので……、それに使わせていただきます……」


店主は静かに拒否した。


チッ、と、小池は灰皿に、まだ半分以上残っている煙草を押し付け、もみ消した。


三日月のきれいな夜だった。






<三杯目・終>

四杯目で終わります。気長にお待ちいただけると幸いです。間にまた短編を投稿することもあるかもしれませんが、息抜きのようなものなので、お許しください。

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