2杯目 上地さんの居場所
ようやく2話目です。今回はおじさんメインの話です。
その日、喫茶ヴィーナスに、新たな客が来た。
「いらっしゃいませ」
と店主が言うと、太った壮年の男は、窓枠を指でなぞり、
自分の指を見て、
「掃除がなってねえなあ」
とぼやいた。
常連客の小池は、この時もカウンター席にいて、この一言で、
彼はこの客のことが嫌いになった。
「コーヒーと、サンドイッチ、2人前」
「かしこまりました」
おっさん、よく食うな、と小池は思った。
◇
2時間後。男は、新聞をまだ読みふけっていた。
「ずっといるな、あのおっさん」
と小池が店主に言うと、店主は、
「お客様なので、文句は言えませんよ」
とひそひそ声で返した。小池は顔をしかめ、
「落ち着かねえ。競馬行ってくる」
と言い、店主はその常連客に、
「気を付けて」
と笑顔で見送った。
ちなみに、小池は大体朝から店じまいの時間までいる男であった。
◇
さらに3時間後。
「まだいんのか、あのおっさん!?」
帰ってきた小池が、小声で驚きの声を上げた。
「ええ。もう、3千円分ぐらいご注文なさってます」
と、店主も声を潜めて言った。
さすがに、二人の声が大きすぎたのか、男は、
二人をギロリとにらむと、立ち上がり、
スラックスのポケットを探った。
「わりい。5百円しかねえ。ツケといてくれ」
と、自分の手のひらの中の硬貨を見て、男は堂々と言い放った。
ここで、小池がキレた。
「あのな、おっさん、ここは酒飲み場でも何でもねえんだよ。長々と居座りやがって。
やることねえなら仕事にでもいきやがれ!」
「小池さん、言いすぎです。それに、うちはお客様にくつろいでいただきたいと思っていますし」
男は黙って小池の言い分を聞いていたが、静かに口を開いた。
「……お前にはわからんよ。二か月に一度の少ねえ収入で、細々と生きるオレの気持ちは」
小池は黙り込んだ。
店主は、居心地が悪そうに、下を向いた。
その時、店の扉が開き、カララン、と鐘が鳴った。
「あー! おじいちゃん、ここにいたー!」
入ってきたのは、5歳ぐらいの男の子だった。
「お義父さん!! ここにいらしたんですか!」
あとから、30代ぐらいの女も店内に入ってきた。
小池は、あっけにとられて、言った。
「おっさん、独身じゃなかったのかよ!?」
男は、孫の相手をしながら言った。
「そんなことは一言も言ってねえ」
その男の幸せそうな光景に、店主は、写真を撮りたいな、とのんきに感想を抱いていた。
都会の裏通りの小さな店は、今日も平和であった。
<2杯目・終>
ちなみに私はお店に長居するのは苦手です。いらない情報でした。
お読みいただきありがとうございました。




