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第四話 とある家庭の下半身事情

*警告

この小説内で行われている行為は大変危険です絶対にマネしないで下さい。

娘に股間を叩かれて喜ぶような父親でもダメです。

戦いは終わった。


魔王は顔の前に股間を近づけただけで「マジで勘弁して下さい」と土下座し、生き残った四天王の三人と魔王軍も全面降伏した。

平和が訪れた異世界の住人たちは、凱旋するオレをコドピースを履いて歓迎してくれた。前回瞬殺された宝石騎士団にいたっては、コドピースの先端にそれぞれの称号と同じ宝石を付けている。今後騎士団の制度として導入していくのだそうだ。


なんて素晴らしい世界、まるで夢のようだ。


オレは最敬礼を示す彼らの間を通り、玉座の姫さまの前まで進む。


…いつのまに謁見の間を修理したんだろう?


ボンヤリとした疑問。しかし、モヤのかかった頭では思考を進めることができない。

そんな状態のオレに姫さまが可憐な笑顔で声をかける。

「よくぞ魔王を倒しました。勇者ムサシよ。これで世界に平和が訪れます。褒美を与えようと思うのですが、何か望む物

はありますか?」

「いや、褒美なんてそんな…コドピースが流行っているファンタジー世界が見れただけで、オレはもう満足ですから…」

「…つまり、この世界に望む物はない、と?」

「はい」

「つまり生きていても仕方がないと?」

「…はい?」

「だったら死ねばいいじゃないですか」

「え?なんで?…くっ苦しい…」

気がついたら、オレは姫さまに首を絞められ宙吊りにされていた。

こ、これはネックハンギングツリー?異世界の銀髪プリンセスがこんな技使っちゃダメでしょ!…あっ足が地面につかない。小柄な姫さまでは身長的にありえないのに、ナゼ⁈

「あなたのせいで、わたしは穢れて巫女の資格を失いました。アルテミジアは、あなたが今わたしに殺されるせいで若くして未亡人となってしいます。全部あなたのせい!」

言われて横を見ると、オレの遺影を持った喪服のアルテミジアさんが「よよよ」と涙を流していた。なぜか黒い和服だった。

いや、泣くくらいなら助けようよ!

あと姫さまも言動がおかしいし!

夢にしたってありえないから⁈…ん?


「こんな男がワシの大切なアルテミジアたんを…コロス‼︎」

あれ?一人称が「ワシ」?しかも部屋中が中年臭い…憑依した女神が実はババアで加齢臭でも写されたとか?

いやしかし、悪夢からでも一発で目覚めるこの悪臭は間違いなくオッサンの体臭特有の…

悪夢?


「………は!」


目を覚ますと、顔面がオッサンの硬いケツに埋もれていた。息苦しかった理由これかよ!普通は美少女のオッパイとかだろ‼︎

オレの上で逆馬乗り状態になっている無精髭のオッサンは、布団がめくれてあらわになっているオレの股間に血走った目線と剣の切っ先を向けていた。

「奥義!子孫断絶‼︎」

なんか通じるものがある技名とともに突き立てられる刃!


パキーン!


しかしそれは、寝る時も肌身離さず身に着けているファールカップによって粉々に砕かれた。

「ぬう⁈武器破壊の加護か!」

「初見で見抜くとは、やるな臭いケツ!」

砕けた剣の破片に怯んだオッサンを押しのけ、反対側に転がって距離を取る。立ち上がると、相手は別の剣に持ち替えていた。背中に二本、腰の左右にも二本づつの計六本…殺意ありすぎだろ。

「フン、なにが「やるな!」じゃ。あの程度の技で剣が折れたのじゃぞ、見抜けぬ方がむしろ間抜けじゃろう」

「…それはコレクション全部つぎ込んで死んだ四天王のリーダーが可哀想だから言わないであげて」

ベッドを挟んで向かい合うオレとオッサン…って、この言い方は何か嫌だな。

とか考えてしまったスキをついて、オッサンが動く。


バン!


なんと構えを崩さないまま繰り出した蹴りで、ベッドをオレの方へ吹っ飛ばしたのだ。

「しまった」

上か?横か?

一瞬回避に迷うと、なぜか飛んでくるベッドの速度が上がった。

「げ!」

こうなると受け止めるしかないのだが、勢いは止まらずそのまま壁まで押し込まれる。

あのオッサン、ベッド押しながらタックルしてきやがったな!


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね‼︎」


繰り出される突きの連打。それはベッド越しでもオレの股間を的確に狙っていた。

もちろん一撃ごとに剣は折れるのだが、長さが足りなくなるまでそれは続き、限界まで短くなると剣を取り替えて攻撃を続ける。

ファールカップのおかげでダメージは無いとはいえ、これかなり怖い。

「ちょ、オッサン…はな、話を…」


「ムサシ様、大丈夫ですか⁈」


バン、とドアが開く音と姫さまの声が聞こえた。

「ここです!助けてー!」

ベッドの端まで手を伸ばし、必死に存在をアピール。かなり格好悪いがそんなことは言ってられない。

「え?ベッドの裏?というかオラッツィオ殿?」

「父上!なにをなさっているのですか!」

状況を理解できない姫さまとは対照的にオッサンを止めに入るアルテミジアさん。

やっぱり父親だったのか。しかしなぜオレを襲う?

「いっいや、未来の婿殿の腕試しをしただけじゃよ…」

「ウソつけ!おもいっきり「死ね」って連呼してたじゃねえか‼︎」

姫さまに介抱されながら、ツッコミを入れるオレ。

アルテミジアさんも父親の見え透いたウソに騙されることなく、説明的な説教を始める。

「勇者…いえ、婿殿の言うとおりです父上。母上が亡くなり二人っきりの家族なのに、娘の私に嘘をつくのですか?」

「…だってパパのアルテミジアたんが誰かと結婚するのが嫌だったんだもん」

さっきまで一人称が「ワシ」だったのに娘に怒られた途端に甘えるような口調で「もん」とか言うオッサン。かなりダメな人だ。

ていうか、ちょっと待て、婿殿?

「やはりそうでしたか。昨日、婿殿の話をした時から様子がおかしかったので気をつけてはいたのですが、まさか翌朝さっそく寝込みを襲うとは…

私が初めて王宮に出仕したときも、出会った男性全員に「娘をいやらしい目で見たな」と言って鞘で股間を殴りつけていましたよね。私も子供ではないのですから、こういう事はもうやめて下さい」

「…つまりアルテミジアたんは、この男を正式に婿にしたいと…」

「…べ、別にそんなことは言ってません!私は父上が過保護すぎると…」

「あのーお話中申しわけないんですが、オレがアルテミジアさんの婿って、どういうこと?」

「そうでした。あなたは知らないのでしたね。…我が家には少々変わった掟がありまして。

曰く「ジェンティレスキ家の女剣士は、股間への攻撃を受けても微動だにしない男と出会ったなら、その者を夫として向かい入れなくてはならない」と」

「…なにそのイカれた風習」

いくら異世界でも異文化すぎる。

「元々は、気構えから生まれたらしいのですが…あなたも女剣士にとって敗北が何を意味するか、想像できますよね?」

「…陵辱とかの話ですか」

たしかに日本でも負けた女冒険者がゴブリンやオークの慰み物にされるシーンはよくある。オレは苦手だが。

「でもそれなら貞操帯でも履けばいいのでは?」

マンガとかで「装備の質を落としてでも、貞操帯は買っておけ」と、的確なセクハラアドバイスをする、渋いベテラン戦士がいないはなぜだろう?セクハラ発言の時点で渋くないからか。

「…貞操帯こそ、男の女性に対する支配欲を満足させる道具ではないですか?

その股間、今は実力的に無理でも、生涯をかけて潰しますよ?」

うお!かなり本気でお怒りのようだ!

まあ、女子に貞操帯の話をしたオレが悪いので当たり前か。それにアレって衛生的に問題あるらしいしな。

「す、すいませんでした」

「ま、まあ、あなたも頭に浮かんだアイデアを何も考えず口にしただけで、悪気は無かったのでしょう?単に頭が悪いだけの人に、私も大人気ありませんでした」

「許すにしても言い方酷くない?」

最後にプイと顔を背けたのが、若干ツンデレっぽかったから受け入れるけど。

「話を戻しますが、対峙した男を倒すか、最低でも男性機能をしばらく使用不能にしなければ辱めを受けるぞ。という教訓がいつのまにか相手を受け入れる、という形に変わったのです…不思議なことに」

「…本当に不思議ですねー」

「現実問題としては、それくらい丈夫でないと我が家の家長は務まらない、というのがあります…一回夫婦喧嘩しただけで子作りできなくなるような方では困るので…」

た、確かに。

「そういう訳で、我が家としては掟にしたがい、あなたを婿として迎えたいと…か、勘違いしないで下さい!私自身はあなたのことは別に…って、人が大事な話をしているのに、それが話を聞く体勢ですかーーーーー‼︎」


バキーン


ツンデレ風味での求婚中に相手の股間に突如斬りかかるアルテミジアさん。自分が告白しているのに、オレが他の女(姫さまだ)に膝枕されているのがお気に召さなかったらしい。

え?なんでアルテミジアさんが気づかなかったのかって?それは彼女が照れ隠しに顔を背けてたからだよ。それにラノベで美少女が介抱するっていったら、普通は膝枕だろ。怪我が無かったから回復魔法はいらないので他にしてもらう介抱っぽい行動が無かった、というのもある。

「姫までなぜそのようなことを!」

「ええと、流れでつい…」

もしここがラブホテルの前だったら最悪のセリフである。

「それよりオラッツィオ殿が人格崩壊を起こしそうですけれども…」

姫さまが膝枕しているオレの頭をナデナデしつつ、もう一方の手でアルテミパパを指差す。

そこには「太陽を見ちゃった吸血鬼」のような表情をした無精髭のオッサンがいた。ショックで髪が真っ白になっていないのが不思議なくらいだ。

「一度ならず二度までも熱烈な股間への一撃!しかもパパや姫さまの目も気にせず堂々と…何だかんだ言ってもアルテミジアたんはやっぱりその男のことが…」

「なっ何を言っているのですか父上!こんなもの軽い…そう、いまどきこれくらいは軽い挨拶みたいなものですよ!」

男にとっては致命的な股間攻撃を、欧米人のキスみたいに言うなや。

「でも初めてのときも、ろくに言葉も交わさなかったらしいじゃないか…それはつまり一目惚れ…」

「そ、それは婿殿に言われたからで」

「男に言われたからって、そんな軽率な行動をとる娘に育てた覚えはありません‼︎」

え⁈そうなの?「男の股間見かけたらとりあえず殴っとけ」みたいな家系じゃなかったの?

「ああ…「おおきくなったら、ぱぱのおよめさんになるー」と言いながらワシの股間を容赦なく叩き続けたアルテミジアたんは、どこにいってしまったんだ…」

「そんなことあったんスか?」

「こ、子供の頃のことなんて、覚えていませんよ」

本当なら恐ろしい話である。いくら嫁が美人で巨乳でも、夫婦ゲンカのたびに股間殴られたり、娘に股間を木刀で叩かれたりというのは、ファールカップ大好き人間のオレでもごめんこうむる。第一、生まれてきたのが男の子だったらどうするんだ。おそらく、おしゃぶりより先にファールカップを履くことになるだろう。オムツの中にファールカップ履かせているのがバレたら幼児虐待で逮捕されるかもしれない。

「…よく今まで家系が跡絶えませんでしたね」

股間攻撃に特化した女剣士の家系という設定の致命的な欠陥にツッコミをいれていると、床に突っ伏してマジ泣きしていたアルテミパパが幽鬼のように立ち上がった。

「…ワシが間違っていたよ、アルテミジアたん。パパは心を入れ替えて二人の仲を認める、いや応援するよ」

いやオレあんたん家に婿入りするなんて言ってないですけど!

そんな物分かりが良いというより話を聞いてない感じの父親に、不審を抱いたアルテミジアさんが声をかける

「ち、父上?大丈夫ですか?」

「心配してくれてありがとう。パパならもう大丈夫!これからは二人の魔王討伐の旅に同行してスキを見て婿殿を抹殺…じゃなくて手伝うという目的ができたから。

あ、でもそれには今日行われる選抜戦で認められなきゃいけないんだったね!

じゃあパパは準備があるから先に帰るね!」

と、言いたいことだけいってダッシュで帰るアルテミパパ。完全な他人だったら面白いオッサンで済むんだけれど。

それより、

「姫さま、選抜戦ってなんですか?」

膝枕でバブみを堪能しつつ聞いてみる。

「実は勇者さまを召喚したとき、同時にパーティーメンバーも募集したのですが、話が広まるうちになぜか真の勇者を決める武闘大会として伝わってしまって…」

「なんでじゃー!」

「でも安心して下さい、その後誤解は解け、武闘大会ではなくなりました」

なんだよかった。

「その代わり「実力もわからないヤツの下にはつけないから一回戦わせろ」ということで「勇者さま百人組手」に内容が変更となりました」

「ちょとまって、それおかしいから!武闘大会ならトーナメントで当たったヤツを倒すだけですんだのに、なんで全員とガチで戦うハメになるの!」

誤解が解けて状況がむしろ悪化するってどういうこと?

「…じゃあアルテミパパがあんなに急いで帰ったのって…」

「旅の途中どころか今日改めて抹殺するつもりなのでしょうね」

おい!

「…姫さま、ひとついいですか?」

「…だめです」

「いや、聞いて下さいよ!オレこの世界に召喚されてから魔王軍と一回しか戦ってないですよね!

でも人間には、衛兵に捕まったり、アルテミジアさんに聖剣で股間斬られたり、アルテミパパに寝込みを襲われたり、計三回危害を加えられてるんですけど!この上百人組手までしろと?」

「…私の記憶が正しければ聖剣で股間を斬りつけろ、と言ったのはあなただったはずですが?衛兵の件も服さえ着ていれば問題など起こらなかったはずです。これから行われる選抜戦も、聖剣が折れておらずあなたが勇者らしい姿をしていれば戦わず皆が納得したかもしれません。

父上のことは弁明できませんが、ほぼ自業自得じゃないですか」

というアルテミジアさんの冷静な指摘にぐうの音もでない。


ぐうー


…シャレじゃないよ。空腹で音が出ただけですよー。

「…とりあえず朝食にしませんか?」



数時間後、オレ、アルテミジアさん、姫さまはコロシアムの試合場へと続くトンネル内を歩いていた。

「…と、いうことで宮廷魔術師たちも参加します。実力は火球クラスの魔法を五十発は放てる者達が二十人ほどです」

「マジすか!それ単純計算で魔法千発撃てるってことじゃないですか!

ふふふ、ファールカップで攻撃魔法千本ノックか、面白い…」

自分でも単純というか、気分屋というか、姫さまの話を聞いているうちにオレはすっかりやる気になっていた。

「ほかにも両腕にパイルバンカーを内蔵した吸血鬼ハンターや、鋼鉄の乙女(アイアン・メイデン)型ゴーレム、爆薬付きハンマー使いの錬金術師ドワーフ、といったムサシさま好みの色モノ…ではなく、ちょっと個性的な方々も集まっているそうですよ」

「 パイルバンカーに爆薬!」

爆竹やロケット花火で我慢していたオレにとっては夢のような話だ。

「それに鋼鉄の乙女(アイアン・メイデン)!拷問系は、ネタ切れのときにアレンジしてよくやってたなあ」

しかし、トンネルを抜けたとき、オレの期待は粉々に打ち砕かれた。

「な、これは!」

そこにあったのは、地面に空いたクレーター、打ち倒された戦士や魔術師たち。被害は観客席にまで及んでいた。


「よう、遅かったじゃねえか。テメエらが真打ちなんだろう?」


声の主は、倒れた戦士たちに腰掛けていた。炎の(たてがみ)と翼を持つ四つ脚の獅子獣人。


「俺様は魔王軍四天王の一人ヘカトス!

勇者もその仲間も、全員まとめて地獄に送ってやるぜ!」

次回予告

炎の獣人を前に、なぜかロケット花火とドーベルマンの話で盛り上がるムサシ達。一方、ヘカトスも獣人キャラのクセに戦う前から戦意喪失か?


今回も予告はあてにしないで下さい。

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