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第ニ話 男たちを前かがみにする美少女

*警告

小説内で行われる行為は大変危険です。絶対にマネしないで下さい。


女子に股間を叩かれるのが「ご褒美」の人でもです。

「…というわけで、全ては誤解ですよ、はっはっは………信じてもらえません?」

洞窟内で起こった諸々の誤解を解消するため、必死に釈明してみたけれど、返ってきた反応は、

「 いい加減なこと言うな、どうせ勇者という立場を悪用し、姫さまにいかがわしい行為を強要したんだろうが‼︎」

もしくは、

「 コロス‼︎」

良くて、

「去勢してやる‼︎」

的な視線だった。

かろうじて声に出さないのは、オレの釈明に小さく相槌を繰り返す姫を(おもんばか)ってのことだろう。


真相はともかく、うら若い姫の将来を考えれば何もなかった事にするのが一番、と。


場所は謁見の間。

オレは室内の中央に立たされ尋問されていた。殺気立った衛兵付きで。

王座に座る姫さまもしくは左右に並ぶ貴族や騎士達が一声かければ、衛兵はためらわずオレを処刑するだろう。

勇者として召喚されたのに、初っぱな国賊扱いかい。

… とキレたいところだが、正面に座る姫さまの姿を見ると…

可哀想に、羞恥のあまり耳まで真っ赤にして小柄な体を縮こまらせていた。身の丈に合わない王座がさらに大きく見えて痛々しい。

年頃の女子、しかも免疫無さげな姫さまには、性的被害の疑惑を持たれるだけでも、相当な苦痛なのだろう。


…降臨していた女神ミュリッタと同名の存在が、古代バビロニア神殿売春の風習と関係あることは黙っておこう…

「紳士だな、オレ」

「?なにかおっしゃいましたか、勇者さま?」

「いえ、何も…

それより、オレへの疑いは晴れた、ということでいいんでよね!」

語尾を強めたのは、居並ぶ貴族や騎士達への「蒸し返すなよ」という念押しだ。

「くっ!」

「チッ!」

「うむう…やもなしか…」

良い返事とはいえないが、一応オーケー。

オレも姫さまも、ほっと一息。

「では、改めまして勇者…ええとたしかコンドム…」

「!ムサシ・コンドーで、姫さま。オレの国では性が前、名が後なので」


ふう、危うく異世界の巫女姫にコンドームとか言わせるところだったぜ。


「まあ、そうでしたか。ではムサシ様と、お呼びしてよろしいでしょうか?

わたしはディオナエア・マスシプラ・エアム。ここエアム王国第一王女として、病の父王に代わり国を預かっています。若輩ですので皆の支えがあればこそですが」

「!姫様」

「なんともったいないお言葉!」

「爺は、爺は、感動で死んでしまいそうですじゃ…」


コイツらチョロ過ぎる。…第一印象ほど悪いヤツらではないかもしれん。少しは友好的に接してみるか…なんて考えたのが間違いだった、


「勇者さまには、わたしたちの都合でこちらの世界に来ていただき、本当に申し訳なく思っています。ですので、滞在中はわが国をあげて歓迎させていただきます。それでも、ご不便をおかけすることもあるでしょう。そのような時は、些細な事でも仰って下さいね。

今、何かお聴ききになりたい事はございませんか?」


という優しい言葉に釣られ、九割九分否定的な反応が予想される質問をしてしまう。


「男性の皆さん、コドピースは履かないんですか?」


しかも股間を指差しながら、


ティッツァーノ・ヴェチェリオ画<皇帝カール五世と猟犬>の様に。


「こどぴーすぅ?何だねそれは?君のその変態ファッションの事かね?」

「まさか我々にも、その下劣な格好をしろと?」

「ひょっとして、貴様がいた世界には変態しかいないか?」


「 ………」


コドピース。和名の股袋が表わす様に、ズボン等の前開きを覆う袋のことだ。

金属、衣、毛皮、刺繍に詰め物。とにかく男のシンボルを強調するスタイルで、十四世紀から十六世紀末にかけてヨーロッパ中を席巻した。

始まりは傭兵たちの悪趣味ファッションだったが、流行は身分の垣根を超え、最終的には王族たちが肖像画に描かせるほどの広がりをみせた。

冷静になれば滑稽で、パイオニア達は白い目で見られたろう。現代でリバイバルする事も無さそうだ。

サブカルチャーのファンタジーで扱われる事などない中世ヨーロッパの黒歴史。

だがそれでもオレにとっては愛するファールカップの先祖が発祥のファッションである。無かった事にするなど、絶対にできない。だからバカにされるのが分かっていても、尋ねずにはいられなかったのだ。


おのれ日本製ファンタジー‼︎


「 …帰ろうかな…」

「おい、なんか勇者が帰るとか言い出しておるぞ。なんと無責任な!」

「というか、この男は本当に勇者なのでしょうか…いまのところ変態にしか見えませぬが」

「たしかに。フン!とんだ茶番であったわ!」

「ちょ、みなさん!まって下さい!

ええと…そうだわ!じいや、あれを、聖剣をここに!」

オレも含めて全員解散的な雰囲気の中、空気を変えようと、姫さまが何か用意させる。

教育係らしき老人が持ってきたのは、鞘に納められた一振りの剣。

金で縁取られた鞘の表面はブラックオパールで覆われ、大小の宝石が夜空に瞬く星座の様に埋め込まれている。鍔と柄にも同様の装飾が施されているので、納刀された状態で一つの星座となるのだろう。

「これこそ、わがエアム王国に伝わる至宝、対魔王用の聖剣パルセノス。

勇者にしか抜くことができないと伝わるこの剣を解き放つことができれば、みなもムサシ様を勇者と認めざるをえないでしょう。

試すような事をして申し訳ないのですが…」

「頭をあげて下さい姫さま。

オレの方こそ、下ネタ言ったり、人と揉めたり…マジですいません。

オレが勇者らしくないのも事実ですし。むしろこれは、汚名返上のチャンスって事で、ありがたいくらいですよ」

オレへの評価が上がれば、コドピースに対する見方も変わるはず…ん?ふふ良い事を思いついたぜ。

とはいえまずは、

「抜刀!」

渡された聖剣の柄をにぎり横に引くと、簡単に抜けた。気合い必要無かったー!

現れたのは黄金の輝き。夜空の意匠を施された鞘から顔を出した刀身は、まさに夜明けの太陽を思わせる神々しさ。

「「「…おお」」」

周囲の貴族たちから感嘆の声があがる。

勇者にしか抜けない剣なら、それを見ることができるのは数百年に一度。魔王君臨中限定なので幸運とは言えないが、子孫に語り継ぐには十分な体験だろう。


だが、そんなありがたい聖剣を見てオレが感じた事は、


「…た、ためしたい」


普通の人とは違う意味で。


「さすがは勇者さま、お見事です。これでみなさんもムサシさまを勇者と認め…

きゃあああ‼︎

なにをなさっているんですか、あなたは‼︎‼︎‼︎‼︎」


ガンガンガンガンガンガン


謁見の間に響く打撃音は、聖剣とファールカップによって生み出されたもの。つまり今オレは、自分で自分の股間を狂ったように斬りつけているのだ。


()()をと問われても…手に入れた聖剣で、さっそくファールカップの防御力を試しているだけですが」


ガンガンガンガンガンガン


「奇行を世界の常識のように言わないでください。さっき反省したばかりじゃないですか‼︎」

「そんなこと言われても、ファールカップを履いている時に攻撃力の高い武器を渡されたら、普通自分の股間を叩きますよ」

頭の悪い男子なら、みんなそうする。だからオレもそうする。

ファールカップが不要な女子に、理解してもらえないのは仕方がない。

とはいえ、

「やはり自分で殴っても、手ごたえはイマイチだな…金属バットの時から分かってはいたけれど…

姫さま、この国で一番の剣士を呼んでいただけませんか?」

といった瞬間、


「「「……………」」」


全員が沈黙した。

騎士たちの顔は青ざめ、両手で股間を押さえて前かがみ。さっきまでオレを罵倒していたのに、今は「やめておけ!」と言わんばかりに首を振っている。

姫さまも、隣に控える女剣士とオレを交互に見やりながら、

「いえ、それは、おやめになったほうが…」

と、口を濁す。

「ああ、そこにいる女剣士が王国最強なんですね」

女剣士は無言。だが剣の鍔を鳴らし足が一歩前に出る。

「!いけません、アルテミジア‼︎」

「姫、犬の躾は最初が肝心。まして下劣な一物を見せびらかしながら歩くような駄犬ならば、去勢してでも行儀を仕込まねば、飼い主である国の恥!」

姫さまの制止を聞かず、オレと相対する女剣士。

年はオレと同じ十七歳くらい。背は高め、胸大きめの黒髪ポニーテール。日本の学校に通っていたら、後輩女子から慕われてそうなクール系美少女だ。

「私の名はアルテミジア・ジェンティレスキ。代々剣を生業とする家に生まれし者」

「アルテミジア・ジェンティレスキ?」

<ホロフェルネスの首を斬るユーディト>という絵画で知られる女流画家と同じ名前だ。ちなみに、フロイト的に首斬りは男根切除の暗喩らしい。

「女だからと侮るな。

我が家に代々伝わる剣術は超実戦型。

すなわち、男の急所を攻撃することに特化しているのだ!

そして女であり、しかも男嫌いに育てられた私は、今貴様が股からぶら下げている下劣で粗末な一物を斬り落とす事に何の躊躇も無い‼︎」

「ああ、たしかに男同士だと痛みを想像して、つい手加減するよなー」

というか、見たり思い出しただけでも股間を押さえて前かがみになってしまう。今、騎士たちがそうしているように。

「…随分詳しいではないか、変態勇者」

「ああ、だからアンタの技量もすでに見切ったぜ!」

「!安い挑発だな」

「いいや違うね。一ついい事を教えてやろう。

男が股間をぶつけた時、痛みが激しすぎると体は前かがみではなく海老反りになるんだ!」

多くの動画を見、自分でも体験から自信を持って言える。あとアメリカの動画番組も同じ結論に達していたから間違いない。

「つまり、周りにいる騎士たちが前かがみなので、私の腕が未熟であると?」

「ああ、だからこれはハンデだ使え」

オレはアルテミジアに抜き身の聖剣を渡す。

「!私に聖剣を?」

いや、驚かれても。

元々そのつもりで彼女を呼んだんだけど…まあ途中から決闘の雰囲気になって、正直オレも忘れるところではあった。

「しかし、私では聖剣を鞘から抜くことが出来なかった。使えるのか?」

「伝えられている説明は「聖剣を抜けるのは勇者のみ」だけ「勇者しか使えない」とは書いてない‼︎」

TCGやっている人間ならみんなそう言う。少なくてもオレのまわりにいた連中はそうだった。

「屁理屈にしか聞こえんが、確かに装備しても問題なさそうだ」

「そうか」

勢いでテキトーな事を言ったけど、バットスターテスとかが発生しなくて本当によかった。

アルテミジアが間合いを取り直し、慎重に聖剣を構える。

「…借りものとはいえ、私が聖剣を手にできるとは…今だけは感謝するぞ変態。

だが、姫に対する数々の無礼、そして我が家系に伝わる剣技を愚弄したことは、絶対に許せん!

その愚かさを後悔するがいい!

海老反りになってな‼︎」


ダン


アルテミジアが一足飛びで間合いを詰めてきた。長い黒髪と聖剣の光が帯のように彼女の軌跡をなぞる。黒と金の帯はオレの二歩手前で渦を巻き、下段からの斬り上げ…

あれ?間合い遠くね?

これまでバットやバス停の標識やバールのような物やらで股間を叩かれ続けたオレの経験からすると、アルテミジアのこの一撃は空振りと思えた。


オレが動いて距離を調整すべきか?


というのは杞憂だった。今目の前で行われている回転は、威力を上げるための挙動。腕をたたみ、剣を含めた体全体をコンパクトにする事で回転速度を上げる。その速度は次の一歩と共に繰り出す一撃に運動エネルギーとして伝わり強烈な破壊力を生み出すのだ。

それを男の股間に見舞うとは、まさに鬼の所業‼︎

「この聖剣の一撃で、もとの世界に還れーーーーーーー‼︎」


ガッキーーーーーン


響き渡る金属音、

宙を舞う黄金の刀身、

異常に軽くなった剣を確認するアルテミジア。


「「「せ、聖剣が折れたーーーーーーーー‼︎」」」


オレの性剣の勝ちだ!


「「「何を勝ち誇っているのだ貴様ァーーー‼︎」」」

「姫!申し訳ございません‼︎

かくなるうえは、切腹にてご容赦を‼︎」

「ちょ、早まらないでアルテミジア!

みなさんも落ち着いて…

え、この気配は…何かくる!」


てんやわんやの中、姫さまがニュ○タイプみたいなセリフを言って上を見る。

と同時に、


ドガガガガガガ


連続する爆発と共に天井を破壊し、無数の魔剣が謁見の間に降りそそいだ。


「ククククク。王宮の警護ですらこの程度とは、失望したぞ人間ども」


室内にたちこめる土煙の中からそいつは現れた。

身長二メートルほどの鍛え上げられた肉体の長髪ワイルド系イケメン。ただし、肌は青紫で、額から大きな角、腕は六本生えてる。人間を虫ケラのように見下す赤黒い瞳。

「魔族…か?」

「ククク、その通り。我は魔王軍四天王のリーダー、キリアルケス。「聖剣狩り」の二つ名を持つ魔族最強の男。

召喚された勇者を殺し、その聖剣を我がコレクションに加えるために、ここに来た。

さあ、大人しく王国の至宝、聖剣パルセノスを渡すのだ!」


「…すまん、それ、さっき折れた」











次回、主人公がファールカップで魔剣を折る本数の世界記録に挑戦!

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