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第一話 ファールカップに女神の祝福を

*警告

小説内で行われている行為は、大変危険です。絶対にマネしないで下さい。


異世界転移した勇者が、召喚前に行なったものでもダメです。

「…者よ。

…勇者よ。

…目覚めるのです、勇者よ。」


「…うお‼︎」

清流のような声に導かれ、目を覚ますと、そこにいたのは美少女だった。

肩に流れる銀糸の髪。大粒のアメシストの様な瞳がオレを見つめている。 …やや虚ろで感情の読めない目だが。

「蘇った気分はどうですか?勇者よ」

「…死ぬほど痛いと思ったら本当に死んでた!でも生き返って二度どビックリ!

って、とこかな…

てか、やっぱり死んだんだオレ」

「はい」

マジかー。

でもまあ首謀者のオレが死んだのは自業自得だから仕方がないか。

心配なのは、残された仲間たちだ。

今頃みんな警察に捕まっているんだろうか?親や学校も黙っているわけ無いし…

それともオレが死んだフリしていると思って、いまだに爆笑しながら撮影を続けているとか。今が死んだ直後ならありえる。

まあ、死んでいるのに気付いた時点で同じか…

いや、あいつらならオレの死体をその辺に埋めて証拠隠滅しそうな気がする。

「確認しようが無いか…ここって日本…どころか地球ですらないよなあ」

オレ達がいるのは古代ギリシャ神殿風に柱が立ち並ぶ白亜の建造物。その周りには、波ひとつ無い水面が広がっていた。おそらく地底湖なのだろう。屋根の無い天井から見えるのは、無数の水晶がある岩の壁。っていうか、あの水晶自分で光ってるし!

「この世界の名はメガラウキア。私は女神ミュリッタといいます。といっても、今はエアム王国の巫女姫ディオナエアの体を借りているのですが」

「なるほど、リアルに神がかってるわけですね」

だから目が虚ろだったのか。

「でもなんで異世界に転移することに…いや、生き返らせてもらった事は本当に感謝しているんですが…」

「今、エアム王国、いえメガラウキア全体が魔王の脅威に晒されているのです」

「…それを救えるのは、異世界から召喚された勇者であるオレだけだと」

「話が早くて助かります。というか理解しているならワザワザ聞かないで下さい」

「だから、オレである必然性は?

あるの?

無いでしょ⁈」

「ふふ、謙遜なさらなくてもいいんですよ。

私は知っています。[いんたーねっと]というもので、あなたが勇者とよばれている事を」

「それ、バカにされてるだけだから!本来の意味と違うから‼︎

ネットの情報を全部鵜呑みにしないで‼︎

ていうか、オレに目を付けていたって事は、あの事故ってまさかアンタの仕込みか!この殺人女神‼︎」

「それは誤解です。

ただ動画を見て、こんな危ないことをしていたらそのうち死ぬだろうなー。と目を付けていただけで」

それは女神じゃなくて死神の考えかただろ。十分怖いわ!

「それに今更間違いだったとしても、もうやり直すこともできません。あなたを生き返らせるのに大量の魔力を使ってしまったので…」

そう言われるともう反論できん。受け入れるしかないかー。

オレが黙ると、女神が続ける。

「あと私に出来るのは、召喚した勇者に力を与える事くらいです」

おお!それは異世界チートというやつか‼︎

少しやる気でてきた。

「それって、エクスカリバーみたいな強力なアイテムくれるとか?

それとも、時間停止とか能力奪取みたいな異能とか?」

「いえ、伝説の武具はほかの世界で既に使われていて、百年先まで予約で一杯です。異能はリクエストを聞いてからデータを組むのが面倒くさ…ではなく、私が世界にとどまれる時間を考えると無理ですね」

「じゃあ、何ができるんですか?」

「単純な事…あなたの身体能力を爆発的に高めるとか、あとは装備しているアイテムの強化ですね」

「…装備品の強化って…」

タイトルどおりファールカップしか履いとらんがな。アホか…

「…いや、アホはオレだ」

そもそもオレには伝説の武器を選べるほどファンタジーの知識は無い。また、異能バトルマンガの頭脳戦を半分も理解できないオレでは、特殊能力を使いこなす事は不可能。

できる事といったら、ファールカップでぶつかっていくことだけだ。

「…強化してくれ」

「…はい?」

「オレのファールカップを強化してくれ!あんたの残された力全てを使って‼︎

お願いします!女神ミュリッタ様‼︎」

「ええ?本気ですか⁈

先ほどはうっかり装備品と言いましたけれど、普通に考えて身体能力強化一択でしょ。

ファールカップってそのお尻の方がヒモのパンツ的な物ですよね?面積ほぼゼロじゃないですか!正気ですか、あなた⁈」

今更だな…

「オレの動画がを見たんだろ?やってくれ!」

「…変態なのは知っていましたが、死んでも治らないレベルでしたか…

わかりました。

では立ち上がって、そ の卑猥な防具を私の目の前に…もっと近くに来て下さい」

「え?ちょ、近⁈」

手を引かれるまま近づくと、オレの股間は彼女の目と鼻の先である。洗ってはいるけど、匂いとか大丈夫かな…

「では、いきます」


ツツー


「ひう⁈」

白く細い指が、ファールカップの上をなぞる。

「さ、触られるとか聞いてないんだけど⁈」

「静かに!集中できません」

「…すいません」

おおお落ち着けオレ!童貞とバレる動きは慎むんだ‼︎

集中、集中。今までの事、これからの事を考えるんだ!

…初めてファールカップと出会ったのは、小四の春、少年野球の練習中だった。

以来ありとあらゆる方法で防御力を確かめ、動画サイトに投稿するし続けた。

VSロケット花火百連発。

高所から飛び降りての股間瓦割り。

ボールをファールカップで跳ね返してのストラックアウト。

エトセトラ、エトセトラ。

そんな人生の果てに手に入れたのが、異世界の女神の祝福を受けたファールカップ。異世界転移、してみるもんだ。


バカじゃねえの?それで魔王をどうやって倒すんだよ?

と思う人がいるかもしれない。だが、オレはいける気がする。

この股間に伝わるエネルギーは本物だ、今ならダイヤモンドだって砕けそうな気がするぜ!

エロい事されたムラムラをパワーと勘違いしてるんじゃないぞ‼︎…多分。

…そういえば。

「女神がこんな事して大丈夫なんですか?」

セクハラ紛いの祝福を続ける女神に、今更なことを聞くオレ。

「神も結婚や出産、人間に手をつけることだってあります。問題ありません」

「でも、その体は人間のなんですよね?本人の許可とってます?」

巫女姫って、男に免疫なさそうだけど。

「…依り代には…意識がありませんから、許可なんて取りようが…く、」

力が尽きかけてるのか、体がふらついている。

「…姫様ー。ご無事ですかー?」

通路から女性の声が聞こえる。姫付きの女官だろうか?心配になって様子を見に来たのだろう。声が段々近づいてくる。

この状況は、ヤバイ。

「め、女神さま⁈」

「…大丈夫です。やりとげますから…期待して下さい。私が極小の防具に残された力を注ぎこむのです。物理攻撃は言うに及ばず、魔法すら弾き返しますよ…」

「 心配してるの、そこじゃないから!」

そんなツッコミも、もはや女神には届かない。虚ろだった瞳に光が宿る。

「…勇者よ、この世界を…魔王を…どうか、どうか…」

こんな状況で、勝手に一人でいくなー女神ー‼︎

「ひ、姫さま⁈」

声の方を向くと、数名の女官(?)達が

そばまで来ていた。

… 終わった。

「…え?」

ファールカップに触れていた姫の手がピクリと動いた。

観念して下を見る。意識を取り戻した紫色の瞳と目が合った。涙目だった。

「おはようございまーす」

「…」

返事はない。

だがオレの顔を見た事で、自分がナニに触れているか理解したのだろう。美少女の顔が、一瞬で真っ赤に染まる。

「…いっ」

この後の展開を予想し、オレは耳を塞いだ。

「いやーーーーーーーーーー!!!」

狭い洞窟内に響く巫女姫様の絶叫。


はたしてオレは、変態ではなく勇者として認めてもらえるのだろうか?







次回、男の股間への攻撃に特化した美少女剣士が、セクハラ疑惑勇者と対決。

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