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煙草星の女侵略者達がやってきたよ! でものんびりゆるゆるだった件について-4

 商店街、人通りも多い所まで来た。


「それで? 街に出て来たけどどうするんだ?」

「まぁ見てりゃわかるよ」


 ただ人混みを棒立ちしながら見る。

 その間にもメディウスは煙草を掌からスッとマジックのように取り出し指をパチンと鳴らし火を点ける。

 その光景はマジシャンなんかに向いてそうだなと思ってしまう。


「お、あいつは――アンフォーラじゃねぇか?」


 メディウスの視線の先には小さな金髪で赤いカチューシャ、そして赤い服が目立つまるで西洋人形のような幼女が立っていた。

 その横にポニーテール、身長は百八十あるかという程大きく、右目に眼帯をして江戸時代風の服装――伊達政宗の女版のような女性が立っていた。


「どうやらアンフォーラはキセルと組んだようだな」

「知り合い?」

「アンフォーラはパイプの登竜門といった所か……パイプ初心者から愛好者まで吸われてる人気のある銘柄だ。そしてキセル……あいつは一服を重きに置いた本当の意味の一休憩が売りの奴さ」

「へぇー」


 その二人組は何やら別の二人組ともめている様子だった。

 別の二人組は双子のような容姿をしているが、色が正反対だ。

 髪は短く一人が髪も白色で白のメイド服、もう一人が髪も黒色で黒のメイド服らしき物を着ていた。

 もちろん幼女である――


「何だか揉めてるみたいだけど?」

「あ? あいつらマイコスの双子じゃねぇか」

「マイコス?」

「最近紙巻き煙草に代わって台頭してきた電子煙草だ」

「ああ、そういえばよく聞くな」

「臭いも付かない、灰も出ない、副流煙も出ないと三拍子揃ってるからな」

「そりゃすごい」

「しかも有害物質を九十パーセント削減らしいぜ、どこまで本当か嘘か……」

「体にいいのか……僕も吸うならあっちかな」

「この野郎――まぁ火がでないから寝煙草して家事にならないのが確かに称賛に値するわな」

「素直だね」

「ちっ……」


 メディウスがバツが悪そうに頭をポリポリと掻く。


「だがな……充電が必要なんだぜ? 吸いたいときに充電できてないと吸えない、それが難点だ」

「そうなんだ」

「でも副流煙……煙が出ないのは少し寂しいかな……」


 僕は父親が葉巻を吸っている時の事を思い出す。

 モワモワと煙――副流煙を出し口はニヤリと笑っていたっけ……。


「まぁ近づいてみるか……」


 僕とメディウスは揉めている輪の中に入ってみる。

 金髪のアンフォーラという幼女が髪を静かに撫でながら言う。


「そこはあたし達アンフォーラとキセル組の場所ぞえ。早くどきんなし」

「そうだ! あたい達の場所だぞ!」

「何を言っておられるのですか? ここはわたくし達が商店街の人達から催眠術で奪い取った場所ですよ?」


 僕はメディウスを見つめる。


「マレボロ一族だけじゃなかったのか? 洗脳……」

「催眠術って言ってるだろ? まぁ言葉を巧みに誘導する感じだ。ちなみにマイコスはマレボロ一族の最新鋭だが、まだ幼いから洗脳はできない。だからこそ誰でも使える催眠術だ」

「催眠ってメディウスも僕にやったって事?」

「あたいはそういうの苦手なんだよ。だからやってないぞ……おい、その目はなんだよ! やってねぇって!」


 メディウスの言葉を信じる他にない――

 それよりもこっちの問題だ……。


「いいからどけってんだよ! この電子組が! そこはあたいらがさっき商店街の人達に交渉して許可を取ったんだよ!」

「しつこいですね本当に……それに交渉といっても私達と同じで催眠術を駆使したのでしょう? 姉さんこの人達どうします?」


 黒い方のマイコスが白い方のマイコスに尋ねる。

 どうやら黒い方が妹で白い方が姉のようだ。


「なら決闘で決めませんか?」


 何やら物騒な事を言いだしたな……。

 メディウスに視線を移し聞いてみる。


「ねぇ、侵略するって言ってたけど人には危害を加えないって言ってたよね?」

「あ? 当たり前だ。危害なんて加えたら本末転倒だろ?」

「でも決闘って……」

「まぁ見てりゃわかるよ」


 キセルがくるくる腕を回している――


「まさか腕相撲でもしようと? このか弱い私に?」

「ならどうするってんでい」

「ふふっ、そうですね……妹よ、例の物を」

「はっ」


 そういうと黒い方のマイコスが鞄からトランプを出してくる。


「ここはババ抜き……単純な運で勝負をしましょう」

「いいぜあたいは――」

「右に同じく問題ありんせん」


 そう言うと同時に黒い方のマイコスがトランプをシャッフルしだす。

 決闘ってこんなのでいいのか……。


「もっとバトル物を期待してたんだがな……」

「んなわけあるかよ。大体こんなもんだよ」


 その後、数分間死闘は続き最後に残ったのはキセルと白い方のマイコスだった。

 そして……。


「負けたぁ」

「いよっし! あたいの勝ちだ!」

「姉さんドンマイです」

「キセル、よくやりんした」

「おうよ」

「ごめんなさいね妹よ……これでここでは商品をお試し頂けないわ」

「次を探しましょう」

「いい勝負だったぜ! マイコスの双子さんよ」

「ええ……また次があればお願いしますわ」


 そう言うとマイコスの双子はその場を去り商店街を抜けていく。


「さぁて、そいじゃやりますか」

「そうざんすね」


 何をするのか少し気になる僕は様子を伺う。


「よってらっしゃいみてらっしゃい! よっ、そこの兄さんちょっとおいでよ!」

「え、俺ですか?」


 一人のサラリーマンが足を止めキセルの所に向かう。


「ほら一服どうだい?」

「へぇーキセルか、吸った事がないや」

「そりゃもったいない。一服クイっと吸ってみな! 美味いぜ!」

「それじゃ一服だけ」


 そう言うとサラリーマンは一服する。


「おお、これがキセルか……繊細でなんだか混じりっけがないような……」

「兄さんわかるねぇ、キセルは刻みたばこを先っちょで燃やしてその長い管が自然のフィルターみたいなもんなのさ、だから紙巻きたばことは全然味が違うよ!」

「へー」

「掃除はコヨリなんかを管に入れてヤニをとるのさ。初心者セットで千五百円で売ってるだけどどうだい? お一つ買わないかい?」

「買おうかな」

「毎度あり!」


 それを見ていた違う人も「俺も」というように順番に買っていく。

 なるほど、地道だけど正しい侵略の仕方ではあるな――


「な? 流血沙汰にはなりゃしないってわけさ。もしあそこで殴り合いでもしてりゃ客なんて寄り付かない」

「確かにな……」

「それに……もっとおもしろいものが見れるぜ?」

「え?」


 金髪の幼女が「ぷぁ」っと上空にドーナツ型の白い雲を作り出す。

 そして辺りがフルーツの香りに包まれる。


「あれは――」

「出たぜ、アンフォーラの渾身の一撃だ。あの匂いは紙巻き煙草にもキセルにもないパイプ特有の匂いさ」


 辺りを未だに包む異様に甘い香り――良くいえば蝶々が運ぶ甘い蜜の香り、悪く言えば毒蛾の鱗粉のようだ……。


「あれがパイプなのか……」

「空気を飲み込んだな」


 確かにメディウスの言う通りだ。

 空気を飲んだ……というより周りが吸い付いたというべきか……。


「そこのお兄さんも一服いかがかや?」

「え? 僕?」


 指名されたのは僕だった。

 しぶしぶ幼女の所に行きどうするのか聞いてみる。


「まずは葉を三回程に分けてパイプに軽く詰めて、上を燃やしんす。その時少し吸って火種を作りんす。そしてコンパニオン……三種類の道具が付いたやつのダンパー……そう、その平べったいので燃やした所を軽く押し込みんす。」


 僕は指示に従いつつ吸ってみる。

 甘くフルーツを口に入れているようだ――


「ちなみにパイプは肺ではなく口腔内喫煙でありんす。つまりは口や鼻の粘膜からニコチンを摂取するので体には悪くないでありんすよ」

「ほー」

「ほらほら吸いなさいな」

「あ、ああ」


 口に煙を溜め、ゆっくりと吐く。


「美味いな……」

「でありんしょ? ああ、ダンパーを使い表面をならすといいでありんすよ? あと吸いにくかったらピック……その細長い棒で突き刺して空洞を一筋つくりダンパーで少しならすといいでありんすよ」

「ん……」


 指示された通りにすると、吸いやすくなる。


「メンテナンスはキャップを外してコヨリなんかで掃除するといいでありんすよ」

「なんか結構手間暇かかるんだね」

「でありんすが、その価値はありんしょ?」

「確かに――」

「今なら初心者セット二千五百円でありんすがどうでしょ?」

「買おうかな……」


 僕はいつの間にか財布からお金を出し、支払いをしていた。


「毎度ありんす」


 初心者セットを入れたビニールを片手にメディウスの所に戻る。

 メディウスが呆れた顔になっているが仕方ないだろう……。


「お前乗せられやすいなぁ」

「仕方ないだろ……煙草よりかはパイプだよ!」

「洗脳でもされたか?」

「はぁ……余計な出費だ」

「まぁ面白い物を見たし帰るか」

「ああ、そうしよう。帰りにちょっと銀行によって晩飯の材料も買わないとな」

「晩飯は肉がいいな大樹」

「はぁ……全く……」


 そう言いながら銀行に行き、買い物をする。

 その間にもまるでカウガールを思わせる服装の金髪ロングの女性――メディウス曰く「ラッキーストライク」という銘柄らしい――や、まるで暗殺者のような目つきで真っ白のスーツで中に黒のシャツを着た「テンスター」という銘柄の女の子を見かけた。


 僕は家に帰ってきて一息つく。

 メディウスは当然煙草を吸っていた。


「なぁ……どれだけの数が侵略に来てるんだ?」

「さぁな――パイプなんかもいれたりしたらそりゃ数十じゃ済まないだろうな」

「そんなに……メディウスは何もしなくてもいいのか?」

「あたしゃここでのんびり暮らすさ」


 そう言うと、一本目を消化し、すぐに二本目に指を鳴らし火を点ける。

 僕も買ってきたパイプを机に並べ、手順を思い出すが途中で面倒臭くなる。


「一本くれないか?」

「へへっ、そう言うと思ってたぜ大樹」


 メディウスの左手にはすでに一本の煙草がこちらに向けて差し出されていた。

 僕はそれを加えて、火を点けてほしいと言うとまた口にくわえた煙草を近づけてくる。

 正直これも悪くない――そう思いながら息を大きく吸い自分の煙草に火を点ける。

 まだまだ僕の煙草道は始まったばかりだ――


◆◆◆◆◆◆


 ちなみにメディウスを「姉さん!」と呼び、侵略の手伝いをしていないと怒りながら我が家を訪ねて来たメディウスの妹、ライトが登場するのはそう遠くない未来の事だった――

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