煙草星の女侵略者達がやってきたよ! でものんびりゆるゆるだった件について-3
プニュ――
次の日、僕は目を覚まし手の中にある柔らかい何かを掴む。
二度、三度それを掴むが、今までに経験したことのない柔らかさだ――
「ん、大樹――お前、結構大胆なんだな」
「えええぇぇぇ」
僕はすぐさま飛び起きる。
そして片手をあげ何を触ったのか確認する――間違いなくメディウスの胸だ……。
「な……何で裸で僕のベッドにいるんだよ!」
メディウスが面倒臭そうに上半身を起こす。
「せ、せめて隠せ!」
僕は裸体のメディウスにすぐさま布団を投げつける。
「だってよー、昨日大樹が好きな所で寝ろって言ったじゃないか」
「だからってお前――」
「ベッドはソファーより心地よかったぞ?」
僕は「はぁ」と大きくため息をつく。
自分への好意ではなくただソファーよりベッドの方が心地いいからそっちに寝ただけというシンプルかつ明快な理由が少しプライドをへこませる。
「とにかく着替えろよ……裸はやめてくれ」
「あいよ……全くこれだから童貞は――」
「な、なんでそんな事……」
僕は困惑し目線をメディウスから外す。
メディウスがふふっと笑い答える。
「わからないとでも思ったのか? 挙動からバレバレだっつうの」
言葉がでなかった――というよりはどう答えていいのかがわからなかった。
「さ、それじゃ朝飯食べて街を見てみますか」
メディウスは着替えを済まし、両手を上げ背筋を伸ばし欠伸をしている。
僕も着替えを済ませ下の階に行き、トーストを焼く。
メディウスはソファーに腰かけ煙草を吸い始めた。
「なぁ……昨日から気になっていたんだがその煙草は何処から出してるんだ?」
「おいおい、煙草自体に煙草は何処から出してるかなんて聞くやつがいるか? もちろん体内からだよ」
「え?」
僕は理解できず聞き返す。
「体内ってどういう――」
「そのままだよ」
ニヤリと笑ったメディウスは煙草を吸っている右手とは逆の左手を広げ、こちらにむける。
すると何もない左掌からスッと一本煙草が出てくる。
「すごいな、その手品」
「お前舐めてんのか?」
メディウスは少し怒ったらしく左手に出現した煙草を握りつぶす。
「まぁ煙草自身が煙草を出すなんて普通にできるこった」
「そういうもんなのか……」
「それより朝飯はまだかよ?」
「はいはい」
僕は簡単にレタスを切り、皿に盛りつける。
その上にはミニトマトを置き見た目的にも良くする。
そしてチンと鳴ったオーブントースターを開き二枚のトーストを大皿に乗せバターを塗る。
それらをメディウスの灰皿が載った机に置くと「おお」という感嘆の声がかけられる。
僕はそれに満足しつつ、最後のオレンジジュースを取りに冷蔵庫の方に戻る。
メディウスがテレビを点けたらしく音が聞こえてくる。
「マリボロの今日の天気予報はじまるよー!」
その声には聞き覚えがあった。
昨日テレビで街頭インタビューされてたマリボロちゃんの声だ。
一日でアイドルどころか気象予報士か――侵略じゃねぇか!
気付けばコップからオレンジジュースが溢れ床へと流れ落ちていた。
それよりも――
「どういう事?」
「まぁ軽い洗脳でもその対象を変えていけばこういう事もできらぁな、ハハッ、さすがはマリボロ――やるねぇ」
「まじかよ……一日で天気予報士か……。明日は総理大臣だったりしてな」
「ククッ、そりゃおもしれぇ話だ。だがな、派閥が黙っちゃいねぇよ」
「派閥?」
「テンスターやあたいらメディウス族がって事がだ。もしかしたら別のキセル組までこちらに来てるかもな。そいつらが黙っちゃいねぇってこった」
「なんだかややこしいな……」
僕は床を拭きオレンジジュースをメディウスに渡す。
「そういやお前は吸わないのか?」
オレンジジュースの代わりにと煙草を勧めてくる。
「吸った事ないから……」
「ならいっちょ吸ってみな」
僕は興味もなかったが、葉巻を吸う父親に憧れた事がないかと問われれば一応はあった。
渡された煙草を口につけ、火を探す。
「ほら」
メディウスが自分が吸ってたタバコの先を僕の口にくわえている煙草に当ててくる。
距離が近い……鼻息がかかる距離だ。
お互い息を吸う――僕の煙草に火が点き煙が肺に入る。
「ゲホッゲホ……」
「ハハッ、最初はそんなもんさ。徐々に慣れな」
「これのどこがいいんだ……」
僕は少しずつ吸っては吐いてを繰り返す。
肺に入ってくる煙はあまりいいものではない。
その様子を見てメディウスはふふっと軽く笑っていた。
僕は煙草を吸い終え吸殻を豪華な灰皿へと捨てる。
「感想は?」
「あまりおいしいものじゃなかったな」
「まぁ最初はそんなもんさ」
そんな会話をしつつ食べ終えた食器を片づける。
「そろそろ街に出るか」
「ああ、そう言えばそんな事言ってたっけ……」
「歯磨きをして、支度を整えるよ」
「ああ、そういえば昨日大樹の歯ブラシ使わせてもらったよ」
「え?」
「仕方ないだろ? 一本しかなかったんだ」
確かに仕方ない……そしてこれからその歯ブラシを使うのも仕方ない。
決して間接キスならぬ間接歯ブラシをしたい訳ではない――決してだ。
その後、歯を磨き街に出る支度をする。
ちなみに歯ブラシはいい匂いどころか少しヤニ臭かった……。