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煙草星の女侵略者達がやってきたよ! でものんびりゆるゆるだった件について-1

 僕はその日、いつものように大学からの帰り道、神社にある階段の一番上に腰をかけ夕陽を眺めていた――

 都会かと問われればそうでもなく、だからといって田舎かと問われると違うと否定できるような中途半端な都市部だ。

 豆腐屋がラッパを吹き、どこからともなくサンマの焼くいい匂いが漂ってくる。


「今日も何事もなく一日が過ぎ去る……」


 そんな言葉を僕は無意識の内に発していた。

 夕陽を眺める事は大好きだ。

 大学であった嫌な事も先輩に笑い者にされた事も全て忘れさせてくれる。


「帰るか……」


 僕は重い腰を上げる。

 大学に入学してすぐに見つけた僕のオアシスは、いつの間にか特等席になっていた。

 そして振り返りいつも通り神主さんに一礼し、階段をゆっくりと下りていく。

 その最中、大きな、とても大きな雷が鳴り響いた――

 すぐさま辺りを見回すが、その雷は一つではなく今見ている最中でも十……いや、もっと多くの雷が鳴り響いている。

 空を見上げると奇妙な事に雲は一つも見えない。

 だが、現実に何もない場所から雷が多数鳴り響いているのだ。

 まるで神が人間に下した審判のような光景に僕は目を奪われ立ち尽くす事しかできなかった。


◆◆◆◆◆◆


 何分鳴り響いただろうか? 僕はその世紀末のような光景をただ見つめる事しかできなかった。

 映画の一シーンを実体験したような凄まじい光景……それにただ打ちのめされ雷が止んだ後、腰をペタリと階段に落とす事しかできなかった。

 まだ階段は下まで何段もある。

 だが、腰に力が入らない――腰が抜けるとはこういう事かと僕は悟る。

 そんな中、後ろから声が掛かる。


「おい、お前……何やってんだ?」


 その乱暴な物言いは神主ではない事は明白だった。

 僕は恐る恐る上半身を後ろに向ける。

 するとそこには青く長い髪を後ろで括り、黒い半袖半ズボンを履いてブーツが良く似合う煙草をふかしている女性が立っていた。


「えと、今の見ましたか? 凄くなかったですか?」


 初対面を相手に何を言っているんだ僕は――だが、この時の僕はそんな事すら考えられないくらい興奮していた。


「ああ、奴らもこの世界に来たみたいだな――全く、面倒だぜ」


 女性は至って冷静沈着、僕とは正反対だ。


「おい、お前……一人暮らしか?」

「え? はい……実家で一人暮らしですけど?」

「そうかそうか、ククッ、最高じゃねぇか」

「へ?」


 女性がゆっくりと青い髪を揺らしながら階段を降りてくる。

 夕陽を浴びて青い髪が時折紫のようにも見える。

 そしてその降りてくるさまは、まるでパリ・コレクションのモデルのように美しく優雅だ。

 僕は何とか腰に力を入れ、立ち上がる。

 すると女性は僕の目の前で立ち止まり僕の瞳を覗き込んでくる。

 女性の目は青くブルーサファイヤ、いや、ロイヤル・ブルーダファイヤと言っても過言ではない美しさだ。

 そんな女性はニヤリと笑い、僕に言い放つ。


「今日からお前の所に泊めてくれ」

「はい?」

「だから……」


 煙草を携帯灰皿で消火しながらもう一度言ってくる。


「今日から居候させろ」

「えええぇぇぇ!」


 僕は訳が分からなかった。

 こんな綺麗な女性を家に迎え入れるなんて正気の沙汰ではない。

 いや、女性と付き合った事がないからか?

 むしろこれが世間一般では普通なのか?

 そんな事を考えていると、女性はいつの間にかまた煙草を口にくわえていた。


「あたいの名前はメディウスだ。よろしくな」


 女性はそう言いながら手を差し伸べてくる。

 男として――この手を握るのはやぶさかではない。


「警戒しなさんな、おたくには危害を加えるつもりは無いさ。この世界にもな――」


 言っている事は理解できないが、一応握手はしといた方がいいだろう。

 これを逃せば大学で孤立してる僕が女性の手を握れるのは社会人になってからかもしれないのだ。

 そっと、そして優しく出された手を握る――初めての異性とのコンタクト。


「僕は後藤 大樹。大学生です」


 ――柔らかかった。

 キスも柔らかいというが、手だけでもその意味を知る事が出来た今日はとてもいい日だ。


「さて、握手も終わったし……お前の家に行こうか!」

「えっと……メディウスさん、本当に家に来るんですか?」

「メディウスだけでいいぜ、それに当り前だろ? あたいは宿なし無一文なんだぜ? こんなか弱い女を置き去りにするつもりかい? そりゃないぜベイビー」

「はぁ……」


 メディウスが笑いながら僕の肩に手を回してくる。

 そしてその反動で当たる胸がまるでこの世のものとは思えない柔らかさだった――


「さぁさぁ、案内しておくれ。あたいのベイビー」

「あの、ベイビーはやめて下さい。恥ずかしいです」

「それじゃ、大樹でいいかい?」

「それでいいです」


 僕はメディウスに肩を抱かれ自分の家へと帰る事になった。


◆◆◆◆◆◆


 自宅に帰宅し、鍵を開ける。

 ガチャリと音が鳴ると共にメディウスが待ちわびてたかのように扉を開け、勝手に中に入っていく。


「あー、まじ疲れたわ」

「あの……本当に泊まるんですか?」

「何か不都合でも?」

「いえ……」


 僕の家には親はいない。

 両親とも海外出張で、僕ですら今何処にいるのかさえわからないのだ。


「居間はどこだ?」

「ああ、こちらです」


 メディウスを居間に案内し、電気を点ける。

 ヒューと口笛を吹きながら、傍にあったソファーへとメディウスは飛び込む。


「中々いい所に住んでるじゃないか。気に入ったぜ。今日からここがあたいの家だ――」

「いや、居候ですよね」

「細かい事は気にすんな!」


 そんな事を言いつつまた何処からともなく煙草を取り出しふかし始める。

 僕の父親は葉巻を吸っているので特に嫌悪感はない。

 だが、換気扇くらいは回してほしいものだ。


「メディウスさん、換気扇のスイッチは居間の入り口の横にあるんで煙草を吸う時は点けてもらえますか?」

「あいよ」


 机を見ると何故か携帯灰皿ではない、豪華な置くタイプの灰皿があった。

 父親の物でないのは明白だった。

 そこに煙草の灰を落としながらメディウスはこちらを振り向かず言ってくる。


「おい、飯はまだか? 腹が減ったぞ」

「飯まで要求するんですか……」

「当り前だろ? あたいと大樹の仲じゃないか」

「会ったばかりなんですけど……」

「ハハッ、そうとも言うな」

「わかりました。適当に何か作りますんで文句は言わないで下さいね」

「オーライ、文句なんざ言わないさ!」


 僕はエプロンを首に掛け、腰の紐を結ぶ。

 さぁ――何を作ろうか?

 冷蔵庫には適当に食材がある。

 野菜の炒め物……それと味噌汁辺りでも作ればいいか……。

 僕はいつものようにテキパキと要領よく野菜を切り、味噌汁を作り始める。

 おっと、ご飯は……二人分あるな。

 炊飯器を開け、ちゃんと二人分あるのを確認する。

 一人暮らしをするとどうも怠け癖がつき、一回で三合ほど炊いてしまう。

 残ったらもちろん冷蔵庫行きだが、朝炊いたやつを保温していたのでまだ冷蔵庫には行ってはいなかった。

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