狼、お城へ行く
「アル……?」
いつの間にか寝ちゃったのかな?
私は目を覚まし、身体を起こして周りをキョロキョロとする。
だけどいつも隣にいてくれたアルが見当たらない。
「アルゥ……」
近くにアルがいない事に気付いて私は悲しい気持ちになる。
いつもティナを守ってくれて優しいアル……。
もしかしてティナが街に着いたから森に帰っちゃったのかな……?
私は目に涙を浮かべ、ベッドから降りようと床に足をつけようとする。
すると足が何かふわふわしたものに振れる。
〔んっ? ティナ起きたか?〕
「アルゥ!」
アルが傍にいてくれたっ!
ティナはそれだけで嬉しいのっ!
私は勢いよくアルにしがみついた。
◇
ティナが起きたと思ったら、勢いよく俺にしがみついてきた。
俺は今人間ではないので手で支えることができないので、影を操ってティナを床に落とさないようにする。
全くどうしたんだ?
そんなに寂しかったのか?
んー……これからは一緒にベッドの上で寝た方がよさそうだな。
〔ほら、もう朝だから食堂行くぞ〕
「はーい!」
まぁ支度という程の支度するものがないんだけどな。
普通だったら女の子は支度に化粧とか髪とかで一時間とか平気で掛かるが、ここにはそんな化粧道具とかおしゃれ関連の道具はない。
そういうおしゃれ関連の道具も買っておくべきだろうか?
ティナはいつも通り俺の背に乗る。
それを確認して俺は1階へと降りる。
1階へ降りると、受付のおっちゃんがこちらに気付く。
「起きたか」
「おはよーございます!」
「おうおはよう。飯なら部屋の番号が書かれたプレートと一緒に置いてある」
ほうほう、そういうシステムか。
俺は食堂へと移動し、部屋の番号と同じプレートがある席を探す。
俺らの背が小さい事を考慮してか、俺らでも見えるような位置に掛けてあった。
ってか一般用だけあって席が少し高いな。
まぁお子様椅子なんて用意されてるはずがないしな。
〔ティナ、席が高いし俺に座って食事しろ〕
「いいの……?」
〔ティナ一人が乗ったぐらいで俺がダメだったことなんてないだろ?〕
なんかこの身体結構頑丈だから子供の2~3人が乗ったところでびくともしないしな。
ティナを乗せたまま席に乗り、ティナが食事を始める。
匂いからパンとスープってところか。
スープはトマトに豆かな?
てかトマトとかあるのか。
昨日の夜食べていなかったせいか、ティナの食欲は凄く、あっという間に食べ終えてしまった。
この食事に宿で銅貨12枚は確かに安いな。
差額サービスしてよかったわ。
「ごちそーさまでした。じゃあ次はアルのだね」
んっ?
俺のもあんのか?
ティナがお皿を持ったので、その中身をこぼさないようにゆっくりと床に降ろす。
ティナの持っていたお皿の中には、ティナが食べたであろうトマト煮の豆スープが入っており、ティナはそれを床に置く。
「アルは机よりこっちの方が食べやすいよね?」
こんな小さいのにこの気遣い……。
何だこの子……天使か……?
俺はゆっくりと席から降りて、ティナの置いてくれたスープを舐める。
ほどよく温かく、トマトがじっくりと煮込まれていて味もしっかりしている。
いやマジで何でこれで1泊12銅貨なの?
銅貨20は出していいぞこれ。
〔ふぅ、美味かった〕
あっという間に食べ終わってしまった。
お腹一杯とまではいかないが、良い感じの満腹度だ。
〔ごちそうさまでした〕
「ごちそーさまでした!」
よし、この宿屋のおっちゃんとは懇意にしよう。
美味そうな獲物取ってきて料理作ってもらいたいな。
ギルドの方には……まぁ肉以外の部分渡せばいいだろ。
当分金は使いきりはしないだろうし。
家でも買わなければな。
ハッハッハ。
サンデーを出て俺らは昨日教えてもらった革製品の防具を作ってくれる店へと向かう。
するとサンデー同様に、看板にガッシンと書かれた店を見つけた。
確かに革製品を作ってるだけあって、他の店とは違う少し独特な臭いが店の中からしてくる。
俺らは店の中に入ると、何人かの客がいて、俺らを見ると同時に店の外へと走って行ってしまった。
「?? あの人たちどうしたんだろ?」
〔何か用事あったんじゃないか?〕
客が全員出ていってしまったため、店内にいるのは俺らと店主っぽいお姉さんだけだ。
「いっ……いらっしゃいませぇ……」
「ここで革のぼーぐ作ってもらえるってきーてきました!」
「えーっと……どんな防具をご希望でしょうか……?」
何かお姉さんぎこちないな。
まぁいっか。
俺は毛布に利用しようと考えていた熊の毛皮を異次元空間から出し、それを影を操って渡す。
「こっこの毛皮は!?」
「それで作ってください! でいいの? アル?」
〔あれなら熱にも強そうだし暖かいしちょうどいいだろう〕
お店のお姉さんは渡した毛皮をまじまじと見つめ、片手で頭を抱える。
「す……すみません……この毛皮で作った防具をいつぐらいまでに欲しいとかあるのでしょうか……?」
〔特に急いでないし、ゆっくりでいいよな?〕
「うんっ! ゆっくりでだいじょーぶです!」
「ゆっくり……? ユックリって冒険者の何かの暗号……?」
お姉さんは何かぶつぶつと考え込み始めた。
てか値段聞いてなかったな。
「あのー……?」
「はっ!? 申し訳ありません! 何でしょうか!」
「おねだんいくらですか?」
「へっ? ……あぁ! えーっとご希望の防具はどの部位になるでしょうか……?」
〔全身、って言っとけ〕
「ぜんしんで、お願いします!」
「わっわかりました……。となりますと……いくらフレイムベアーの毛皮といっても素材持ち込みですし……持ち込みだと一部位に当たり銀貨3枚にしてるけど……頭含めて6部位ってことでいいのかしら……? いえ、確認しないと……」
「えーっと……全身という事は、頭含めての両手足と身体の6部位でよろしいでしょうか?」
〔頭含めてって事は、右腕、左腕、身体、右足、左足で合計6ヶ所だから合ってるな〕
「だいじょーぶです!」
「でっでは6部位で18銀貨となります……」
ふむふむそんなもんなのか。
まぁ素材持ち込みだから多少安めなんだろうな。
つっても、普通は武器とかに金取られるから防具は最低限ってのが多そうだけどな。
まぁティナに武器は持たせられないし、防具優先でいいけどな。
「でっでは明日には仕上げて見せます!」
「えっと、ゆっくりでいーんですよ? そんな急いでないもんね、アル」
〔そうだな。正直街を回っておきたいのもあるしな〕
お店のお姉さんは目をぱちくりとして再び尋ねてくる。
「えっと……ゆっくりってのは冒険者の暗号ではなく、本当にただのゆっくりという意味で……?」
「?? そーですよ?」
「あ……ハハハハハ……。かしこまりました……。では出来上がりましたらご連絡……と言いましてもどちらにすれば……」
〔サンデーのおっちゃんに伝えてもらえばいいな〕
「えっと、宿屋の、サンデーのおじさんに伝えてください! 名前はティナです!」
「かっかしこまりました……」
よし、これで防具の問題も解決したな。
店から出る時、お姉さんがめっちゃお辞儀しまくってたが……そんな大した買い物じゃないよな?
街をぶらぶらと歩いていると、ジークが走ってこちらに向かってきた。
「やっと見つけたぞ……」
〔どうかしたのか?〕
「昨日渡された石について話がある。城まで案内するからついてこい」
「お城?」
ティナは俺の顔を見て首を傾げる?
〔もしかしてあの石って超危険な物だった?〕
「確かにある意味危険な物だな……」
やっべ……もしかして追放とかそういう感じか……?
もしそうだとしたらティナだけは何とかこの国にいれるようにしてもらわないと……。
「ともかくついてきてくれ。陛下から直接お話がある」
〔うげっ……マジかよ……〕
王様直々に話とかどう考えても追放とかそっち方面じゃねえか……。
俺だけなら逃げるって手もあるが、ティナもいるからその選択肢はまずいしなぁ……。
仕方ない、腹くくるか。
俺はティナを乗せたままジークの後をついて城へと向かった。
城の場所は山城のように山の上に建っているのではなく、街の中心部に建っており、平地に掘りなどを掘って城の出入り口となる部分に橋を架けるタイプのようだった。
門番らしき兵士がジークに敬礼をして合図をすると、上げられていた橋が向こう岸から降りてきて渡れるようになる。
ジークに続いて門を越えて中に入ると、倉庫のような建物や訓練場らしき場所などが見え、多くの人が鍛錬や仕事をしていた。
それらの人もジークを見ると一旦手を止めて敬礼をする。
やっぱジークって結構偉いんだな。
そして通路を越えてようやく城の中に入ると、豪華絢爛とまではいかないがよく手入れの行き届いている廊下が続いていた。
俺個人のイメージとしては、こういったお城って結構見栄えを大事にしてめっちゃ豪華でピカピカしているもんだと思っていたから正直驚いた。
「こっちだ」
俺とティナが見とれていると、ジークが声を掛けて俺らを案内する。
しばらく進むと、近衛兵らしき兵士が立っている扉の前に到着する。
「件の者たちを連れてきた。お目通りを願う」
「はっ!」
その返事とともに扉が開けられる。
中には先程門の前にいた近衛兵らしき兵士が何人も立っており、厳戒態勢のようだった。
ジークが歩くのを確認してから俺もその後についていき、玉座に座っている王らしき人からある程度の間隔を空けてジークは膝をつき頭を下げる。
さすがにティナを乗せたまま話すのは無礼だろうし、俺はティナを降ろしてジークと同じような姿勢を取るように指示する。
「ジークよ、面を上げよ」
「はっ!」
〔ティナは一先ず王様が何か言うまでは大人しくしてような〕
ティナは小さく頷く。
よしよし、ちゃんという事聞いてくれて嬉しいぞ。
「その者たちが件の者たちで相違ないか?」
「はっ! その通りでございます!」
俺は魔獣だし、大人しくしてれば平気だろうと思って顔を上げたままだが特に何も言われないって事は平気って事だな。
てか王様って結構歳いってんなぁ。
顔にはしわはあるし、髪もところどころ金色の髪に白髪が混ざっていた。
でもなんか見た感じ元気そうだし、精々60歳ぐらいなんだろう。
「冒険者ティナよ、面を上げよ」
「はっはいっ!」
って、ティナめっちゃ緊張してんな……。
ガクガク震えてんじゃねえか……。
まぁ普通平民が王様に会う事なんてねえしな。
「その方がテイマーであるという事は真か?」
「そっそれは……」
ティナがそっと下を向いてしまう。
さすがに王様に嘘をつくってのはティナの良心的には厳しいか。
仕方ない。
〔あー、俺はそこのアルスキラウルフのアルだ。すまないが王様、その件はあまり触れないでもらえるとありがたい〕
王様は目を見開いて俺の方を向くが、俺は小さく頷く。
〔今王様に直接念話?ってのをしてる。だからこの声が聞こえるのは王様だけだ。無礼ですまないが、わかってくれたなら軽く咳ばらいを一回してくれ〕
すると王様は俺の指示通りに一回咳ばらいをしてくれた。
「まぁ今はその件はよいか」
ふぅ……何とかわかってもらえてよかった……。
「では今回二人を呼んだ件について話そう」
王様が近くに控えていた兵士に目配りをすると、何かを持って王様へと渡す。
「冒険者ティナ、その方はこれが何だかわからないから見てくれと頼んでいたな」
「はっはいっ!」
「結論から言えばこれは魔石だ。それもかなり純度の高い物だ」
……えっ?
マジで?
「そもそも魔獣から魔石が……アルスキラウルフから魔石が定期的に出てくるなど文献にすら書いていない。つまり、その方が使役しているアルスキラウルフは特殊個体というのが余らの見解だ」
「特殊個体? アルってすごいんですか?」
子供故の純粋な疑問か、ティナは王様に質問する。
さすがの王様も予想していなかったのか、少し驚いているようだ。
「ティっティナ君っ!」
「あっ! ごっごめんなさい!」
王様は右手を広げて前に出す。
「よい。それよりもこの魔石についてだが、正直値を付けた際の価値が計り知れないのだ。故に余らも困っておる」
あー……だからジークもある意味危険な物って言ってたのか。
つか王様ですら困る魔石ってどんだけだよ……。
「だがこれだけの魔石を手放すのも惜しいと考えておる」
要はあの魔石めっちゃ欲しいけど、それに見合う物が思いつかないって事か。
つっても金は魔獣の素材で結構貰ってるからそっから更に欲しいってわけでもないし……ティナもたぶん同じだろうし……。
んー……どうすっかなぁ……。
やばいあと3話でストック切れる……書かなきゃ……。