狼、お金を手に入れる
今ティナの手には大金貨7枚と金貨5枚が入った袋がある。
お金の事を聞き忘れていたと失念していたため聞いてみたところ、銅貨が100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚、金貨10枚で大金貨1枚といった具合になっているらしい。
そんで宿屋だと大体一般的なところで一泊食事付きで銅貨15枚ぐらいらしい。
まぁ銅貨1枚を10円とした場合、金貨1枚で10万円分か……。
ってことは今ティナが持ってる袋には750万円分の金があるのか……。
それと謎の石についてはまた後日城の方に来て欲しいとの事だった。
恐らく色々調べてくれるんだろう。
つっても、全部が金貨だと支払いが難しいので一度両替してもらわないとなぁ……。
幸い全部が大金貨って事じゃないからよかったが、どこかで大金貨も両替しないとなぁ……。
「ねぇアルぅ」
〔どうした?〕
「こんな光ってるお金、ティナ見たことないけど……どうしたらいいかな?」
〔まぁそれについても考えなきゃいけないしなぁ……〕
銀行とかそういったのがあれば預けられるんだけどなぁ……。
いっその事ギルドの方で預かってくれないか相談してみるか。
まぁティナに言ってもらうけど。
「えっ? まぁ確かにギルドの方で金銭の保管はしたりしますが……」
「じゃあお願いします!」
〔とりあえず手持ちには金貨5枚あれば十分過ぎるだろ。あと金貨1枚を銀貨に両替してもらっとこう〕
十万をそこらの店でそう簡単にできるとは思わんからな。
あっ、そうだ。
〔ティナ、この身分証のカードって首から下げたりできないのか聞いてもらえないか? 割と一々異次元空間から出すのはめんどくさい〕
「えっと、この身分証のカードって、首から下げたりできませんか?」
「えぇ可能ですよ。ですがちょっと今その作業をする者は倒れ……休憩中で……。よろしければ預かっておきますので、意識が戻りしだ……休憩が終わりましたらやるように伝えておきます」
あらら。
それなら仕方ない。
なら俺とティナは自分のカードをロザリア姉ちゃんに渡して少しギルド会館の中で待つとしよう。
ついでに先輩冒険者から宿屋とか防具を売ってる店を教えてもらおう。
俺はティナに指示して、見た感じ熟練そうないかついおっちゃん冒険者の方へティナを乗せて近付く。
「今だいじょーぶですか?」
「おっおぅ……どうかしたか……?」
「えっと、宿屋の場所とか、ぼーぐとか売ってる場所ってどこですか?」
「……宿屋ならここを出て右に向かうとサンデーっていうところがある。あそこは比較的安い割に飯も美味い方だ。防具は……」
おっちゃんはティナを頭からつま先まで見て考える。
「お嬢ちゃんは鎧より革の方がいいだろうな。ならここを出て左に向かって十字路を右に曲がってすぐに革製品の防具を作ってくれるところがある。名前はガッシンって店だ。そこがいいだろう」
「ありがとーございます!」
「お、おう……頑張れよ……」
ティナが頭を下げてお礼を言ったので俺は踵を返し、適当な席にティナを座らせて作業をしてくれる人を待つ。
〔いいおっちゃんでよかったな〕
「うんっ!」
〔とりあえず防具はまた明日だな。ティナも疲れただろ? 今日はさっさと寝よう〕
「はーい!」
しばらくすると、首から下げれるように紐を通したカードをロザリア姉ちゃんが持ってきてくれて、俺とティナの首にかけてくれた。
てか今更だけど、このカードって名前と冒険者ランクしか書いてないんだな。
確かにこれなら身分証になるわな。
魔道具で作られたからには偽証とか難しそうだし。
まぁよくわからんけど。
〔じゃあ行くか〕
ティナを背に乗せて俺は宿屋のあるという方向へ向かう。
街を歩いていると、皆物珍しそうな目で俺らをチラっと見てくる。
まぁこんな小さな女の子が冒険者だったら驚くよな。
あっそういえばステータスに威圧ってあったし、一応街中だからオフにしておくか。
今までの感じからたぶん念じればいけるはず……。
威圧感よー静まれー!
……これで抑えられたかな?
チラっと周りを見ると、さっきよりもビビった感じは無くなっているように見える。
よし、恐らく成功したな!
これで安心だな。
「くちゅんっ!」
〔んっ? ティナ、寒いか?〕
「んーん。ちょっと鼻がむずむずしただけー」
〔そっかそっか。まぁ夜は暖かくして寝ような〕
「うんっ!」
しばらく進むと、冒険者のおっちゃんに教えてもらったとおり、大きくサンデーと書かれた看板の付いた建物を見つけた。
今まで街を歩いていた感じ、建物は木造というよりレンガ造りが多いから、感覚的にはヨーロッパにいると思えばいいのか。
いや、まぁヨーロッパ行った事ねえから勝手なイメージだけど。
まぁこんなところで立ち止まってないで中に入るか。
俺は影を操って扉を開けて中へと入る。
「へいらっしゃぃ!?」
「えっと、ひとりよーのお部屋おねがいしまーす!」
〔あっ、あとペットも一緒で平気かも聞いておくれ〕
「あとアルも一緒でへーきですか?」
受付にいたおっちゃんは俺らを見ると固まってしまっている。
あれ?
俺威圧感消したよな?
おっちゃんはしばらくすると、少し緊張しながら説明をしてくれる。
「ペペペペっと同伴でも平気だ……。ねっ値段は一泊銅貨12枚で飯付きだ……」
〔まぁ何日もいるだろうし、一ヶ月分お願いするか?〕
「えーっと! いっかげつぶん、お願いします!」
「一ヶ月!? ……あぁすまない。なら銀貨3枚と銅貨60枚だ」
〔銅貨ないし、銀貨4枚で払って差額はおまけで渡していいだろ。一ヶ月も世話になるんだしな〕
「じゃあ銀貨4枚でお願いします! さがくはおまけです!」
「お、おう……毎度……。部屋は2階の突き当りだ……」
おっちゃんは部屋の鍵を机の上に置く。
俺はそれを影で取って2階に上がる。
その様子をおっちゃんは見えなくなるまでじっと見つめていた。
部屋の鍵を開け、中に入ると人一人が寝れるぐらいのベッドが一つ置いてある簡素な造りとなっていた。
まぁ一人用の部屋ならこれぐらいの広さがあれば十分だろ。
ベッドも思ったより汚れてないし、一回綺麗になれーってやっとけばいいだろう。
俺はティナとベッドを綺麗になれーっとやると、ティナはベッドにダイブした。
「アルみたいにふかふかー」
〔俺はベッドみたいにふかふかなのか〕
「うんー……」
返事をしたのも束の間、ティナはすうすうと寝息を立てて寝てしまった。
今思えばここまで気を抜いて休める機会なんてなかっただろうしな。
俺はティナを起こさないように影で持ち上げ、横に寝かせてその上に毛布を掛けてあげる。
ご飯は……まぁティナが起きた時に貰えばいいか。
俺も一休み一休み。
俺は自分を綺麗にしてベッドの横で丸くなって一眠りする。
◇
ティナとアルが眠っている頃、ギルド会館では……。
「ちっくしょぉ!」
「そう落ち込むなってダールトン」
「ふっざけんな! 何でよりにもよって俺なんだよ!」
「仕方ないだろうが。あの嬢ちゃんが声掛けたのがお前だったんだから。つっことでこれからもよろしくなっ!」
「あの時俺も気絶してれば……ちっくしょぉぉ!」
そして受付担当の方でも……。
「こんなのってないわよ!」
「せっ先輩……?」
「何で私があの子の担当なのよ! 貴女だって見たでしょ!? あの威圧感を放つアルスキラウルフを!」
「私はその……すぐ意識無くなっちゃったので……」
「もし査定で変な額出してあの子が怒ったりしたら私が止めることになるのよ!? そんなの無理に決まってるでしょ!」
「でっでもギルド長が先輩を担当にするって押し通しちゃったじゃないですか……」
「だって断ったら給料減額にするって脅されたのよ!? 横暴すぎない!?」
「まぁギルド長は少し強引なところもありますし……」
「もう嫌この仕事―!」
「でも他に給料のいい仕事ってそうそうないですよ……? 先輩家にも仕送りしてるんですよね……?」
「ううっ……ギルド長怨んでやるぅ……」