狼、報告を聞く
「さて、まずはどこかから話しましょうか」
〔王様から報告したい事があるって聞いたからそれからでいいと思うぞ〕
「わかりました」
セリアさんは頷くと、影狼の一匹に空いている台の上に乗ってもらうように話し掛ける。
その指示に従い影狼は大人しく台の上へと乗る。
「まずこの下位の影狼が持っている姿変化の能力について分かった事を説明しますね。文献や伝承ではネズミなどの明らかに小さい生き物にも変化したといいます。そこで一つ疑問が出てきます」
〔もしかして体積か?〕
「素晴らしいです。その通りで、大きい物に姿を変化させるときは複数体で行うという事はやはり体積は関係あると思います。では小さくなった際にその体積はどこへ行ったのか、という事になります。それで我々も色々と調べてみたところ、不要な分は全て影に移動しているという事が判明しました」
そういや影狼たちが俺の影入るとその分俺の影の範囲も広がってるし、そう言う事だったのか。
〔って事は影狼かただのネズミか判断する場合は、その影の大きさで判断をする事ができるって事か〕
「はい。とはいえアルスキラウルフと敵対した時点で、ネズミに姿を変えた影狼一匹をどうかしたところで何の意味にもならないんですけどね。そもそもの数が違います。いやはや『黒き波』とはうまく言ったものです」
まぁそれは俺がやった事じゃないから何とも言えないんだが……。
「他には基本的な身体の作りを調べさせていただきましたが、爪や牙はきちんと硬度がありましたし、体毛を少し取らせていただいたところ微かに魔力を含んでいることが分かりました」
ということはやっぱり魔力生命体的な感じでいいんかな?
食料いらないっていう話だし。
「そこで影狼の近くの空間魔力濃度を調べてみたところ、ほんの少し減少している事から、やはり影狼は魔力で活動しているという事で間違いないでしょう。ただ空間に魔力がない場合どうなるかという事を調べてはみたいのですが、それでもし何か異常があった場合、大きな問題となってしまうためそちらの実験はしておりません」
〔普通の魔獣の場合だとそういう環境でどうなるんだ?〕
「その場合ですとすぐには絶命はしませんが、呼吸困難や体調が悪くなるといった事になります。まぁこれは魔法使い全般に言える事なので、大気中の魔力は魔法を使う生物にとっての酸素と思っていいと思います。過去にそういった周囲の魔力を奪う魔道具もありましたが、使ったら最後、数十年はその周囲に魔力が戻らない現象が起こったと聞きます」
一種の真空状態を作り出す感じの兵器って事だな。
ただ真空だったら解放すれば少し経てば気圧とかは戻ると思うが、魔力の場合はそうはいかないってことなんだろ。
「という背景があるため、そういった実験を行う場合は国の許可が必要となります。と、いった二点からそちらの実験は行いませんでした」
〔うん、よくわかったよ。あんがとな〕
なんか聞いてる限りこの国の研究者たちって結構優秀なんじゃね?
「うみゅぅ……」
〔ティナ、おねむか?〕
「だいじょうぶー……」
口ではそう言ってはいるが、眠そうにフラフラになりながら影狼に支えてもらってるあたり大丈夫じゃねえよなぁ……。
「お連れの方もお疲れのようですし、今日はこの辺りで終わりにしましょうか。また何か報告したい事がありましたら連絡いたします」
〔いやー忙しいのにわりぃな〕
「いえいえ、大事な影狼をお貸しいただいているのですからそれぐらい難ということはありません」
〔なら連絡したいなら影狼に頼めば俺らがいる家まで案内してくれるはずだからそうしてくれ〕
「わかりました。それにしても本当に賢いですね。アルスキラウルフは皆あなたのように賢いのですか?」
〔んー……俺は他の同族と会った事ねえからわかんねえんだよなぁ……〕
それどころか前世すらよく覚えてねえし……。
てかさっきからマオたちが静かだが……。
そう思ってチラッと見ると、マオとシスティーナは深く関心してように頷いており、フローラは……影狼に囲まれて幸せそうだからまぁ別として、ライルとレイラは……まぁ何の話かわかるわけないよね。
〔じゃあまたなー。……一応統括者のマネスにもよろしく言っといてくれ〕
「いえ、あのバカは起きたらまた騒がしくなるのでしばらく寝かせておきますのでご遠慮なさらずに」
〔お、おう……そうか……〕
えーっと……マネスが統括者……なんだよな……?
お城から出て購入したばかりの家に戻ってきた俺らは、止まるところがないライルとレイラにも部屋を貸し、旅の疲れを癒すことにした。
つってもティナはもう熟睡してるから、マオとシスティーナと一緒に話をする事にした。
〔マオ、旅はどうだった?〕
「うん、魔国とは違う物が色々見れたし、旅も初めてで本当に楽しかったよ」
〔そりゃよかった〕
「しかし少しの間とは言えアルやティナたちと離れるのは寂しいね」
〔まぁ勇者の関係もあるし、そこは仕方ないだろ〕
「全くもって迷惑な話だね」
「マオ様、ご命令いただければ今すぐにでもその勇者を爆殺してきますが」
「システィーナ、一応まだ問題は起こっていないのだからじっとしていてくれ」
「畏まりました」
ホントシスティーナの勇者嫌いにも程があるなぁ……。
「まぁ話が終わり次第戻ってくるから、そこまで長い間いないという事はないと思うよ」
〔ホント空間転移とか便利だよなぁ。俺も欲しいわ〕
「こればっかりは元々持っているかどうかだからね。でもアルの異次元収納もかなりのレアな能力だよ?」
おっそうだったのか。
やっぱり空間系の能力って便利だよなぁ。
「ではそろそろお開きにしてお休みになりましょう。マオ様も夜更かししていては魔王様とお話の最中に欠伸をしてしまいますよ?」
「わかったわかった。ではアル、お休み」
〔二人ともお休みー〕
さて、俺も寝るとするか。
俺はティナとフローラが一緒に寝ているベッドの近くへ行き、床で丸くなって眠ることにした。




