狼、研究所へ行く
王様が案内を任せた兵士に連れられ、俺たちはシスティーナさんたちと合流し一緒に研究室へと向かった。
ただ俺のイメージでの研究室は機材が一杯という感じなので、いまいちこの異世界での研究室のイメージがさっぱり湧かない。
一体どんななのだろうか……。
「こちらが研究室となります」
兵士に案内され、俺らは研究室の中へと入る。
「ほぅ、これはなかなかだね」
部屋に入るとマオは感嘆する声を上げる。
俺にはいたるところに機材に変わって道具箱みたいな箱や大きめな銅像とかが置いてあるようにしか見えないんだが……。
つか目に見える研究者っぽい人ら全員倒れてるように寝てるか作業に集中してね?
こっちの事なんて見向きもしてないよ?
「さすがに魔国に比べると劣りますが、あちらの魔力受信の魔道具に至っては高い純度の魔石を使っているようですね。あれならそう易々と壊れることはないですね」
「うん、これは想像以上だよ」
あっその人たちはスルーなのね?
魔族の二人は寝てる人たちをスルーして何やら機材らしき物に感心してるが、ティナやフローラは全くわからず首を傾げてしまっている。
いやまぁ俺もなんだけど。
そんな感じで唖然としていると、数匹の黒い狼たちが周りの物にぶつからないようにこちらに向かってきた。
「あっ、アルのおーかみさん!」
影狼たちは俺らの前で止まると、一斉に伏せの姿勢を取る。
えーっとこれはたぶん……。
〔ティナ、影狼たちを撫でてあげな〕
「うんっ!」
ティナを背中から降ろすと、ティナはそれぞれの影狼の頭を「いーこいーこ」と言いながら撫でていく。
影狼たちも満足そうに目を細めているので、あれで正解だったようだ。
「アル様がこんなに一杯……。ああああアル様……私も撫でて差し上げてもよろしいでしょうか……?」
〔おっおう……嫌がらない程度にな……〕
「はいっ!」
ティナが撫で終えた一匹に恐る恐る近付き、それはもう幸せそうに撫でるフローラ。
これ影狼たちで囲まれたら過呼吸とかになるんじゃねえのか?
こりゃ早めに耐性付けさせるべきだな。
つか案内の兵士のにーちゃんもまさか目に見えている研究者全員寝てるかこっちをスルーするとは思ってなかったらしく、どうしようか困ってるじゃねえか。
「あぁすいませーん!」
どうするべきか悩んでいると、だぼだぼな服を着た赤髪女性が胸を揺らしながらこちらに走ってきた。
……スイカぐらい胸って……あそこまで揺れるんだな……。
「ちょっと記録に集中してて気付かなくてすいませんでしたーあははー」
「いえ、マネス女史が来ていただければ安心です。では私はこれで失礼します」
「はーいお疲れ様ですー」
マネス女史と呼ばれた女性は片手をぶんぶんと振って案内してくれた兵士を見送る。
「ってことで、私がこの研究所の統括者のマネスです。よろしくお願いします」
〔あぁ、よろしくな〕
「おぉ! 本当にアルスキラウルフが喋ったぁぁぁぁぁ!」
俺が挨拶を返すと、突然マネス女史のテンションが上がりガッツポーズを取った。
「記録によればアルスキラウルフは人語を理解できるとありますが、それはあくまで理解するだけであって会話というコミュニケーションを取るために人語を理解しているわけではないとされていた。ですが今! 私の目の前でアルスキラウルフが喋った! 発声というわけではなく直接頭へと語り掛けるこの感じ! 恐らくそういう会話能力を持っているということ! では何故過去のアルスキラウルフは我々人間に話し掛けなかったのか。『愚国墜とし』とされているアルスキラウルフならば語り掛けてきたという話があってもおかしくはなかった。否! 話し掛けなかったのではなく、話し掛けられなかったのだ! つまり私の目の前にいるアルスキラウルフは特殊個体! あぁ……今すぐ隅々まで調べたい……」
突然の豹変ぶりと陶酔ぶりに軽くドン引きした俺は後ろへと下がってしまう。
こいつはやべぇ、マッドサイエンティストの匂いがぷんぷんしやがるぜ。
てかマネス女史の名前のマネスって、マッドネスからきてんじゃねえのかこれ……?
軽く狂人だぞこれ……。
「こら落ち着けこのバカ」
「あうっ!?」
マネス女史の後ろからスレンダーな青髪女性が現れ、マネス女史の頭を殴る。
「すいません、このバカが暴走してしまったようで」
〔いっいえ……大丈夫です……〕
「申し遅れました。私はこの研究所の副統括者のセリアと申します」
〔ご丁寧にどうも。俺はアルで、その小さい子がティナ。あとヴィトニル族のフローラに……〕
「マオだ」
「システィーナと申します」
「ライルです」
「レイラです」
「はい、よろしくお願いします。ではバカのせいで無駄に説明に時間が掛かりそうなので、私が代わりに説明に入りたいと思います」
ふぅ……。
とりあえずセリアさんのおかげで普通に話ができそうだ……。
てか一応マネス女史ってここのトップなんだよな……?
……大丈夫かこの研究所……。




