狼、訳ありと出会う
ようやく長い旅の終わりが近付くようにレスティア王国の関所が見えてきた。
あの関所を越えれば遅くても二、三日で王都へ着くはずだ。
って、何か関所が騒がしい気がするな。
何かあったんかな?
俺たちは少し駆け足気味で関所へと向かう。
すると男女の二人組を囲むように関所の兵士たちが立っていた。
「アルー、へーしさんたちどうしたのかな?」
〔んー……様子から切羽詰まった感じじゃなくて困ったような感じだなぁ〕
残りの兵士たちは関所を通ろうとする人たちの審査をしているが、人数が減ればその分審査の時間も増えるため待機列の人たちは苛々しているようだ。
しゃーない。
〔フローラ、悪いがここでマオとシスティーナさんと一緒に順番待ちしてててくれるか?〕
「はっ! 畏まりました!」
「二人とも気を付けるんだよ」
俺は一旦マオを降ろし、ティナを背中に乗せたまま問題になっている人だかりへと向かう。
〔おーい、関所の兵士さーん〕
「むっ? 今誰か呼んだか?」
「いえっ……私は呼んでおりませんが……」
「……隊長、こちらに向かってくるあの狼と子供は確か……」
「……まさかな」
俺は関所の兵士の手前で止まって顔を見上げる。
〔何かあったのかー?〕
「……どうやら私は疲れているようだ。頭に直接声が届いた」
「えーっと……私も今同じように声が聞こえたのですが……」
〔あっ、わりぃ。前回は俺黙ったままだったの忘れてた。ってことでティナ、紹介してくれ〕
「はーい。ティナはティナっていーます! このおーかみさんはアルっていーます! アルは実はしゃべれるんです!」
ティナの発言に兵士たちは困惑した顔を見せ、誰しもが片手で顔を抑える。
「……すまない、やはり私は疲れているようだ。魔獣が話すわけなど……」
「むぅー! ティナの話きーてくださーい!」
どうやら冗談と思われてティナはご立腹のようだ。
俺の背中の上でプンプンと怒っている。
それを見た兵士たちはどうしたものかと顔を合わせる。
〔あー……ティナの言った事はホントだ。何なら後で王都の方に確認取ってみ。ジークや王様辺りなら知ってるし、冒険者ギルドのやつらなら全員知ってるから〕
「……本当か……?」
〔こんなんで嘘ついてどうすんだよ。んで何かあったのか?〕
こんな事で無駄に話長くしてても意味ないし、さっさと本題に入るか。
「まぁ王族御用達の君らなら構わないか。実は彼らはレゾ王国からこのレスティア王国まで来たというので、事情を聴いているところだ」
レゾ王国って……確か北の人間主義国家だっけか?
そっからってなると結構きな臭いよなぁ……。
「だがな……話を聞くとどうも困ってな……」
〔困った?〕
俺が兵士に尋ねると、兵士に囲まれていた二人組の内、男の方が口を開いた。
「私は……国に捨てられたのです……」
〔……はい?〕
聞くところによると、彼はレゾ王国のある貴族の息子らしいのだが、最近異世界から勇者を呼び出した事による一悶着で許嫁をその勇者に取られたという。
しかも王族権限で強制的に。
勿論彼はそれに対して抗議をしたが、相手が勇者であるという事で話すら却下されたという。
更に質の悪い事に、彼の親も勇者相手に事を荒立てるのを避けるために彼を廃嫡して勘当までしたという。
もはや完全に国ぐるみであった。
正直途中からティナに聞かせたくなかったので影で耳を塞いだ程だ。
〔それでこの国へ来たってところか〕
「はい……。もうあの国に未練はありません……」
彼はすっかり気落ちしており、一緒にいる女性に連れられてようやくここまで来たという事だ。
「我々も事の真偽を確認するまで通すわけにもいかなくてな……」
まぁ密偵として潜り込むとかそういう事ありそうだしなぁ……。
こればかりは俺は兵士の考えは最もだなと思い、特に口出しはできないなと思った。
だがティナは突然俺の背中から降りて彼へと近付く。
「おにーさんだいじょーぶ? かなしーって……辛いって……くるしーって顔してるよ……?」
〔ティっティナ?〕
「アル、だいじょーぶだよ。このおにーさん嘘ついてないよ」
ティナは項垂れている彼の頭を背伸びしながらなでなでと撫でて元気を出させようとする。
〔んー……まぁティナがそう言うなら本当なのか……〕
兵士が揃って「それでいいのか!?」と驚いた表情を見せるが、あのティナのお墨付きなら平気だろう。
これに関しては理屈とかじゃねえんだよなぁ。
あのティナが平気って言ったら平気なんだよ。俺もうまく説明できねえけど。
〔つってもそっちも心配だろうし、手紙やらなんやらは送っていいと思うぞ。なんなら俺が口添えして責任も取るって書いてもいい〕
ティナの言葉で俺が決めたんだ。そんぐらいの責任は負うわ。
俺の話に何とか納得してくれたのか、二人ぐらいを残して兵士たちは通行人の審査の方へと戻っていった。
つっても異世界からの勇者……ねぇ……。
嫌な予感しかしねーわ、ホントに。




