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狼、思案する

 新たに奴隷兼仲間となったヴィトニル族のフローラ。

 尊敬するアルスキラウルフである俺は勿論、マオやシスティーナさん、そして人間であるティナにも丁寧に接してくれる。くれるのだが……。


 「アル様、気持ちいいですか?」


 〔うっうん……〕


 現在俺はフローラにブラッシングされていた。

 街を離れる前にブラッシング用の櫛が欲しいとフローラに言われ、てっきり自分の毛の手入れをするのかと思ったのだが実際は違った。

 野営をして一休みしていると、フローラが「アル様、ブラッシングをしてもよろしいでしょうか?」と丁寧に聞いてくるのだ。

 よくよく考えたら俺は特にブラッシングをされた事がなかったため、そのような発想が出てこなかったのもあるが、特に邪気のようなものは感じなかったのでフローラの好きにさせた。

 そしたら俺の毛が見違えるほどにふわふわで触り心地が良くなったとティナが大喜び。

 それでもう俺へのブラッシングが日課となってしまった。


 いや、別に嫌なわけではないんだ。

 ただフローラは幼女ではない。

 つまり成長期である女の子なのだ。

 ティナやマオとは違うのだ!

 端的に言えば柔らかい部分を当ててくる。無意識に。

 しかもブラッシングをする姿勢が俺を膝に乗せるようにしてやるのと、俺の体型がジャストフィットしたせいで服越しだが結構強く当たってしまうのだ。

 お忘れかもしれないが俺は元人間の男(のはずだ)。

 美少女にそんな事されて意識しないわけがない。

 そして俺らのメンツの中に生物学的上男は俺のみ。

 つまり俺の気持ちを分かってくれるやつはいないという事だ。

 ……辛い……。


 最初の態度からフローラは真面目な委員長タイプなのかと思ったのだが、それは全くの間違いであり、所謂忠犬タイプなのであった。

 事ある毎に俺やティナたちに何かする事はないかと尋ねてくる。

 そして頼み事を完遂すると、俺の前に座ってじっと何かを期待したような目で見つめてくるのだ。

 その光景をどこかで見覚えがあったことを思い出した。

 影狼たちがティナに褒められる時の仕種にそっくりだったのだ。

 そしてその対象は恐らく俺であるという事は……。


 〔よくやったな〕


 と褒めてやるととっても嬉しそうにするのだ。

 流石にティナのように撫でることはできないので言葉だけになってしまうのは少し心苦しいが、それでもフローラは満足そうだった。

 たぶん尊敬するアルスキラウルフに褒められるという事自体が名誉な事とかそういう感じなのだろう。

 まぁ反抗的な感じじゃないだけ良かったと安堵する事にしよう。



 だがそんなフローラも就寝の時はその様子を変える。


 「お父様……お母様……」


 横になって身を丸くさせ小さくなって眠っているフローラは毎晩のように呟く。

 俺は時折零す涙をそっと影で拭いさりながらシスティーナさんと交代で周囲を警戒し続ける。


 「今日もですか?」


 〔あぁ〕


 システィーナさんが小さく俺に声を掛けてくる。

 どうやらそろそろ交代の時間のようだ。


 〔こういうのを見てると昼間は無理をしているように思えてくるんだよなぁ……〕


 「彼女はヴィトニル族の姫と言ってもまだ成人していないですからね。それに牢屋の中では弱みを見せてはいけないと常に気を張っていたでしょうし、それが突然解放されて尊敬するアル様と一緒にいれるのです。色々と心の整理を付けているのかもしれません」


 〔だといいけどなぁ……〕


 この世界では人間や獣人の成人は15歳からのようで、フローラはまだ13歳のため成人していない。

 そんな子供であるフローラは先の戦で両親を亡くし、自身は奴隷へとなった。

 精神的ショックは計り知れないだろう。

 フローラでこうなのだ。

 未だ奴隷となっているヴィトニル族の心情は更に計り知れない。

 早い内に全員解放しないとなぁ……。


 ただそのためには金がいるんだ……。

 マオも気を使って「お金を貸そうか?」と言ってくれたが、金があるからって人間換算で6歳の幼女に金を借りるのは俺の倫理的にも社会的にもアウトだろう。

 そもそもマオからお金を借りて解放できたとしても、住む土地を確保していなければ生活させるのにも大きな苦労を掛けてしまうので、土地を確保してもお金が足りないという事になった場合に借りるという事でマオがようやく納得してくれた。

 いやぁ……何とかそこまでにさせるまでが大変だった……。

 最初マオはお金も土地も出すからと言い出してきたからな……。

 そこを粘り強く説得してこうだからな……疲れた……。


 「それにしてもマオ様やティナ様たちが三人一緒に寝ているところを見ると姉妹のようですね」


 〔まぁ一番上がフローラで、次女がマオで末っ子がティナってところか? 年齢的にはマオが一番上だけどな〕


 つってもその妹二人は全く手を焼かないから姉としたら安心だろうけどな。


 〔つかフローラにはあんまり聞けないんだけどさ、ヴィトニル族ってどんな種族なんだ?〕


 「ヴィトニル族は彼女も言ってたように、アルスキラウルフに助けられたことからとても崇拝していると聞いております。そして少数民族ですが、戦闘能力は高く、特に1対1での戦いではそう易々と引けを取らないらしいです。ただ人数は少ないため、どうしても物量的な攻撃には弱いところがあるそうです。なので今回も人数に押されて敗北したところでしょう」


 単体で強い種族って事か。

 まぁ確かに広域殲滅魔法とかそういうの持ってなかったら物量作戦は厳しいよな。


 「とはいえ、普通に戦えば厄介な種族という事には変わりありませんし、手元に置いておいて損はないかと思います」


 〔損得で買ったわけでもねえけどなぁ……〕


 ただ無下に見捨てることができなかったわけで、何か思惑があるわけではないのだ。

 そこは間違えないでほしいところだ。


 〔てかマオもヴィトニル族の土地の事言ってたが、それってやっぱり俺がマオの配下としてなった時用にそういう事も考慮して言ったのか?〕


 「お気を悪くされたのでしたら申し訳ありませんでした。ですがマオ様は善意でおっしゃっただけで、そこに他意はありません」


 〔あぁ、別に責めてるんじゃない。どうだったのかなーって思っただけだ〕


 まぁマオの事だしそこまで考えてないだろ。

 しっかし土地を貰うほどの功績って何すりゃいいんだ……?

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