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狼、奴隷を買う

 牢屋の中で顔を伏せたまま跪いているヴィトニル族。

 俺は事情をマオに通訳して聞いてもらおうかと思ったのだが、奴隷商自身の様子からあちらも事情はわかっていないようだ。

 さてどうするか……。

 少なくともヴィトニル族が言う神祖様とやらはマオやシスティーナさんではないのだろう。

 ティナが女神の生まれ変わりとかそんな突拍子もない子供だったらという可能性もあるが……まぁ本当にそうなら森に捨てられるわけはないだろうしないだろう。

 となると残りの選択肢は……俺か?

 ……あーもうしゃぁない、この際俺が直接喋ろう。


 〔あー……すまない、お前たちの言う神祖様ってのはアルスキラウルフの俺でいいのか?〕


 「っ!?」


 俺が周囲に垂れ流す形で念話で話し掛けると、ヴィトニル族は一斉に顔を上げ驚いた表情を見せる。

 だがすぐに慌てて先程のように顔を伏せる。

 もしかして不敬とかそういう風に取られたのだろうか……?


 「無礼を承知でお答えさせていただきます。神祖様がおっしゃった通り、我ら一族の神祖様とはアルスキラウルフである貴方様の事です。我らは神祖様に助けていただき、そしてそのまま部族となる事が出来ました。言うなれば神祖様の下僕でございます」


 先程静寂を破ったヴィトニル族の少女が俺の質問に答えてくれた。

 てか暗くて姿がよく見えねえ……まぁ声である程度判断できるからいいんだけどさ。

 つか下僕って……。


 「それで神祖様は何故このような場所に?」


 〔えーっと奴隷を買いに来たっていう感じなんだけど……〕


 この様子じゃとても彼女たちを買うという気には……。

 と思っていると、今まで黙っていたヴィトニル族が一斉に口を開く。


 「「「ならば是非とも姫様の解放をお願い致します!」」」

 「あっあなたたち!?」


 〔えっと……姫って俺と話してくれてた君の事?〕


 「はっはい! 私がヴィトニル族の長の娘です!」


 えーっと……。

 ……よし、作戦タイム。


 〔ティナ、少し相談がある〕


 「なぁに?」


 〔ティナからは暗くて見えにくいと思うけど、この動物の耳をした部族のお姫様を買う感じでいいか?〕


 「ティナはアルがいーって言うならそれでいーよ?」


 〔……おう、わかった〕


 まぁティナがいいって言うならいいか。

 俺はティナを背に乗せたまま奴隷商に近付く。


 〔って事で話を聞いてたと思うんだが、ヴィトニル族の姫さんを買う事にしたわ。んで値段は?〕


 「……よろしいので?」


 〔一族総出で頼まれて断れるとでも?〕


 「まぁ変に怨まれるよりはいいでしょう。となりますとまだ躾ていないのを考慮して少し値下げしましょう。大金貨3枚でいかがでしょうか?」


 〔5枚払う。代わりに今後俺が全員分買うから他に売らないでくれ〕


 下僕っていうし、言い換えれば俺の配下って事だろ?

 なら面倒見なきゃいけないだろ……?

 あー……どこかで王に恩売ってヴィトニル族の住処作らねえとなぁ……。


 「畏まりました。それではこうしましょう。彼らヴィトニル族はアルスキラウルフの配下であったが、今回の件でそのアルスキラウルフがノヴァ公国へと乗り込んできたが交渉の結果、ヴィトニル族全てをアルスキラウルフが買い戻すことになったと。だがもし強引に奪ったり傷付けるような真似をした場合この国を攻め滅ぼすと警告してきた、と」


 〔……おい……〕


 「話とは少し大袈裟にしておくのがいいのですよ。特に貴方の姿は実際に街の中で見られている。ならば信憑性も出てくる。それに独自のルートでヴィトニル族を捕まえている者たちが慌てて売りに来る可能性もあります。実際にレスティア王国にいた山賊は逆鱗に触れておぞましい姿で見つかったとこの国でも噂になりましたからね」


 いやまぁ山賊の件は本当の事だけどよ……。


 〔そんな事になったら討伐とかそういう話に発展しないか?〕


 「ハハハ、御冗談を。レスティア王国御用達の冒険者である貴方に手を出したら国同士の争いに発展する可能性が高いです。国もわざわざそんな危険な橋を渡らないでしょう。そもそもちゃんとお金を払ってでも交渉なので黙ってれば国にもお金が落ちるのですからね。不満はあっても手は出ないでしょう」


 まぁ他に迷惑が掛からないならいいが……。


 〔んで、全員分買うとしたら全部でいくら掛かる?〕


 「ここにいるのは全部で大人35子供13人の48人ですが、今ヴィトニル族の姫を買うという事で47人になりますね。そして大人を大金貨2枚、子供を大金貨1枚とすると大金貨82枚となりますね」


 82枚か……結構頑張んないといけないな……。


 「ただ、他のところからこちらに周ってきた場合、更に額は増える可能性が高いため恐らく大金貨150枚程あれば大丈夫かと」


 ひゃ……ひゃくごじゅう……だと……。

 まっまぁ……かなり頑張ればなんとかなる……はず……。


 「それで今日のところはヴィトニル族の姫以外はどうしますか?」


 〔土地の問題もあるし、金貯めてまた来るわ。てか一気に買う場合って運ぶのってどうすりゃいいんだ?〕


 「追加料金を払っていただければ輸送のお手伝いは致しますよ」


 〔ならそん時は頼むわ〕


 「いえいえ、今後もご贔屓していただきたいので」


 全く食えない奴隷商だ。

 俺は大金貨5枚を払い、ヴィトニル族の姫という娘を連れてきてもらう。

 この部屋に入った当初は反抗的だったヴィトニル族も、俺が全員を購入するという話を聞いてからは大人しくなっていた。

 契約については詳しい事はわからないのでマオとシスティーナさんに説明してもらいながらしてもらい、何とかヴィトニル族の姫を購入することができた。


 〔と、いうことでこれからよろしく。あと自己紹介お願い〕


 「はっはい! 神祖様! ……私はヴィトニル族の長の娘であるフローラと言います! これからよろしくお願いいたします!」

 「ティナはティナっていーます!」

 「マオはマオだ。よろしく頼む」

 「私はシスティーナと申します。以後お見知りおきを」


 〔そういや名乗ってなかったな。俺はアルだ。フローラ、よろしくな〕


 「はいっ!」


 フローラは奴隷のため服は少しみすぼらしいが、セミロングの銀色の髪に水色の瞳、そして整った顔の美少女と言っても過言ではない顔付きであった。

 そして何より耳が少し尖ってるが毛でもふもふのような感じで、俺が人間だったら直接触って感触を確かめてみたいと思った。

 この時ほど俺が狼である事に後悔した事はなかっただろう……。

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