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狼、困惑する

 〔長かった……〕


 レスティア王国から出て早三週間。

 俺らはようやくノヴァ公国の関所を越え、街や砦を通りようやく公国の首都に着くことができた。

 いやまぁ街はそこまで問題じゃなかったんだよ。

 問題は関所と砦だ。

 関所では細かいチェックはされなかったが、その分出費が大きかった。

 レスティア王国が一人銀貨2枚に対し、ノヴァ公国では一人銀貨10枚だった。

 これが往復となると、俺とティナだけで銀貨40枚となる。

 よかった……有り金全部持ってきておいて……。


 ただ、ノヴァ公国はまだマシな方らしく、北のレゾ王国では人で銀貨20、それ以外の人種ではなんと銀貨40も取るというのだ。

 うん、素直に馬鹿じゃねえのかと思った。

 こりゃダールトンのおっちゃんが行きたくないって言った意味わかったわ。

 つかそれを聞いてレスティア王国ってそんな関所の金低くて平気なのかと思ったが、織田信長も関所の税を無くしたりして金や人材を流れやすくさせてたっつー話もあるし、そういう面を狙っていたりするのだろう。たぶん。


 とまぁそんな感じで関所はよかったんだが、問題は砦だよ砦。

 特に俺は魔獣じゃん?

 しかも危険度が高い(らしい)アルスキラウルフじゃん?

 あっちめっちゃ警戒しててよ、目的とか予定の滞在日数とか詳しく聞かれたわ。

 ところどころマオに通訳してもらって何とか事なきを得たが……。

 流石に警戒心バリバリの相手に喋る魔獣とか絶対騒ぎにしかならないからな……。

 でも向こうも騒ぎは立ててほしくないようで、俺らの目的が奴隷購入という事がわかると、わざわざそういった店の地図とか紹介状や手紙やらを用意してくれた。

 ティナは素直に喜んでいたが、俺は暗にさっさと要件済ませて出ていってくれって思ったな。

 まぁいいけど。


 という感じで俺らはようやく首都に着いたというわけだ。

 さてここからの行動なのだが……。


 「すぅ……すぅ……」

 「うみゅぅ……」


 お子様お二人がもうおねむなのだ。

 まぁもう日も沈んで辺りも暗いから仕方ないんだけどな。


 〔っつーことでシスティーナさん、マオの代わりによろしく〕


 「畏まりました」


 俺の背中で寝ている二人起こさないように注意しつつ進み、見つけた宿で一晩過ごすことにした。

 俺は2人部屋を二部屋でもよかったのだが、ちょうど4人部屋が空いてたのでそこにした。

 部屋に入り、寝ている二人に浄化魔法を掛けてベッドに寝かす。


 「ではアル様。私は周囲の警戒を致しますので先にお休みになってください」


 〔あっそう? じゃあお言葉に甘えて〕


 旅を始めてしばらくしてからなのだが、二人の警護の意味を兼ねて俺とシスティーナさんで交代で周囲の警戒をする事にした。

 いや、正確にはさせた。

 だってシスティーナさんいつ寝てんのかわからないぐらいずっと周囲の警戒してんだもん。

 いくら大丈夫って言われてもこっちは気になるのよ!

 という事で、何とか半々になるように説得して今に至るというわけだ。

 さてと、さっさと休んでシスティーナさんと交代すっか。

 俺は床で尻尾を丸めて一眠りする。



 翌日、宿で食事を取りぐっすり休めたティナとマオを乗せて奴隷を売っているという店に向かう。

 昨日首都に着いたのが夜遅かったので人通りも少なかったのもあるのだが、今はもう街の人たちは活動している時間である。

 つまりだな。


 「ねぇねぇおかーさん、あれってまじゅー?」

 「しっ! 見ちゃダメよ!」


 とまぁこんな感じで奇異の目で見られてるわけよ。

 つっても仕方ないけどな。

 片や魔獣、片や魔族が二人。

 注目されない方がおかしいわ。


 「アルぅ? どーしたの?」


 〔いや、何でもない。さっさと奴隷買って帰ろうって事思っただけだ〕


 「そうだね。マオは慣れているが、ティナはそうでもないだろう。早めに帰ろう」

 「なんなら私が黙らせましょうか?」


 〔やめて〕


 「ダメだよ」

 「……はい……」


 貴女の実力行使はホント危険(らしいん)だからやめてください。

 こんなところで問題起こしたくないわ。



 〔ここか?〕


 「地図によるとそうらしいですね」


 俺らは地図の案内に従って店を探した。

 そして着いた場所は少し大きめな洋館風の建物だった。


 〔俺のイメージと違ったな……〕


 てっきり大きなテントとか、外で奴隷が立たされてるとかそんなのをイメージしちゃったが……。


 「奴隷商という事ですし、大きい建物という事はそれだけお金を持っていて奴隷も多く扱っているというアピールにもなりますし、特におかしいところはないかと」


 あっ、そういうもんなのね。


 建物の入り口で立っていると、中から警備か警護かはわからんが複数人が出てきた。

 その中の一人が俺らを威嚇するように口を開く。


 「何用だ」


 男の威嚇を気にもせず、マオは俺から降りて対応する。


 「この二人が奴隷を買いに来たんだ。砦の者たちからこの場所を教えてもらったのだが、合っているかな?」

 「客か……では中へどうぞ」

 「ありがとう」


 男はマオの対応で敵意は下げてくれたのか、丁寧な対応へと変わった。

 俺らは口を開いた男についていく。

 中へ入ると誰かが呼んだのか、少し着飾った男が近付いてきた。


 「これはこれは、魔族の方がいらっしゃるとは珍しいですね。それで、どのような奴隷をお望みで?」

 「すまない、正確にはこの二人が奴隷を購入するのだ」


 マオの紹介と合わせて俺はティナを乗せたまま前へと出る。

 奴隷商は驚くが、すぐに表情を戻し話を続ける。


 「なるほど。それで、どのような奴隷をお望みで?」


 まぁ一先ず真面目でいう事聞いてくれるってのが第一条件だよな?

 あと人数は……精々一人か二人ぐらいだよな?

 って、そういや最近部族を平定したんだっけ?

 それ見せてもらうか。


 〔ティナ、一先ず最近平定した部族の奴隷を見せてくれって言ってくれ〕


 「えっと、さいきんへーてーしたぶぞくのどれーさんを見せてください!」

 「おや、随分と耳が早いのですね。えぇ、確かにいらっしゃいますが……本当によろしいので?」

 「だいじょーぶです!」

 「わかりました。ではついてきてください」


 俺らは奴隷商に従い、後へついていく。

 一応念のために奴隷商の護衛や奴隷商自身の影に影狼を気付かないよう潜ませる。

 まぁ万が一の時の保険だ。


 「こちらです」


 奴隷商は鍵の付いたドアを開け、中へと入っていく。

 どうやら地下へと続いているようだ。

 奴隷商に続いて進むと、少し薄暗い空間に多くの牢屋が並んでいた。

 だが、その牢屋の中にいたのはただの人ではなかった。


 「どーぶつさんのお耳?」


 ティナが呟いたように、牢屋の中にいるのは全員犬っぽい耳をつけた人たちだった。


 「彼らが最近我が国が平定したヴィトニル族です」


 ヴィトニル族と呼ばれた者たちは、誰もが反抗的な目をしており、奴隷商を睨んでいる。

 だが、見たところ包帯を巻いていたりしているが、暴行を受けたような痕は見られなかった。


 「きちんと食事も日に3回用意しており、姉妹や兄弟は同じ牢屋に入れ、暴行といった事はしておりません。とはいえ、彼らにとって我々は侵略者なので反抗的なのは仕方ないとは思っております。ですが日数があればある程度はマシにできますがいかがなさいますか?」


 どうするって言われても……。

 簡単に言えば調教するって事だろ?

 まぁジークがまだマシという国だからそこまで酷い事はないと思うが……。

 でもここまで反抗的だとなぁ……。


 「アル?」

 「わふぅ……」


 俺が息を漏らすと、突然牢屋の中のヴィトニル族は一斉に俺とティナの方を向いた。

 そして誰もが鉄格子に飛びつき、俺らを食い入るように見つめる。


 〔えっ!? 俺何かやった!?〕


 「アルゥ……」


 その様子にティナは怯え、流石の奴隷商も驚いてキョロキョロとヴィトニル族の様子を見ている。

 そしてしばらく俺らを見つめていると、ヴィトニル族は一斉に鉄格子から離れて右足を右手で床に押さえつけ、左足を立てて膝を左手で押さえ頭を下げる。


 「えっ? えっ?」

 「……システィーナ、これは一体……」

 「私もわかりかねます……」


 ヴィトニル族は皆口を閉ざし、ずっと頭を下げている。

 だがその静寂が突然破られる。


 「神祖様。このような場所にも関わらず神祖様にお会いできた事、我ら一族望外の喜びです」


 静寂を破ったヴィトニル族の一人であろう少女。

 彼女が発言すると、ヴィトニル族は一斉に涙を流し始めた。


 ……ごめん、一体全体どうなってるんだ?

長らくお待たせいたしました。

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