狼、関所を通る
翌日、軽く朝食を取り支度をして先へと進む。
とはいえ、さすがにこのペースは食料的な問題もあるためすこーしばかり駆け足になる。
主に二人を乗せている俺の速度上昇の意味で。
「流石アルスキラウルフのアル様ですね。これでも全力ではないのですよね?」
〔まぁある程度ティナとマオに景色を楽しんでもらいたいし、加減はしてるが……システィーナさんも結構足早いよな?〕
車程とは言わないが、少なくても自転車よりは早いんじゃないかと思う速度は出してると思う。
それに対してシスティーナさんは特に息を切らした様子も見せず、俺の横を一緒に走っている。
「アルすごいんだよ! もっと早くてびゅーんって進むの! お馬さんより早いの!」
「ほうそれは凄いね。でもそれほど早ければ風の抵抗とかでティナに少なからず影響があると思うのだが……」
〔あー……それなら俺が風魔法でそういった向かい風とかを払ったりしてるんだわ。あとはティナが飛ばされないように今やってるみたいに影で固定とかな〕
勿論マオにも影をシートベルトのように纏わせている。
「やはり君は賢いねぇ。ますますマオの配下として欲しくなってしまうよ」
このようにマオが素直に俺を評価して勧誘してくるから少しこそばゆい……。
いやまぁ褒められるのは悪くないのだが、こうも何度も評価されると……な?
今日は急いた事もあり、お昼過ぎには関所に到着する事が出来た。
関所には商人であろう馬車に多くの荷物を乗せている人や、武器を持った冒険者っぽい人もいて、それらを一人一人審査しているようだった。
俺らは列に並んで順番を待つことにした。
まぁ待っている間、俺らの前のやつが何度もこっちを見てきたが、まぁもう慣れた。
にしても……。
流石あの王様あって部下ありと言ったところだな。
特に不真面目な態度や横暴な態度は見えず、真面目に職務に当たっている。
こういう王都から離れた場所って、上からの目が届きにくいから不正を働く者がいてもおかしくはないと思うのだがねぇ。
そういうところも踏まえて魔国も交流しているのだろう。
「次の者!」
おっと、俺らの番か。
俺らが前に進むと、審査をしている兵士さんたちがぎょっとした顔を一瞬するが、すぐに表情を戻す。
そしてその一人がこの中で一番偉い人であろう兵士に声を掛ける。
「隊長……もしやこの者たちが連絡にあった……」
「恐らくな……。それに冒険者カードと一緒に首元に掛かっている通行証を見てみろ。国の紋章が描かれているだろう」
「という事は通行料は半額という事でよろしいのでしょうか?」
「通行料は基本銀貨4枚と決まっていたが……国の御用達に対して半額で本当に良いのだろうか……しかももう片方は魔国の姫様だぞ……」
「ですがいくら魔国のお姫様とはいえ、例外を作るのはどうかと……」
「陛下もいっその事減らす額を言ってくだされば……」
……なんかめっちゃ悩んでるけど平気か?
確か関所通るには少なくない金を払うとは言っていたが、もしかしてその事で相談してる?
まぁたぶんマオたちの事で悩んでるんだろうなぁー……。
一応姫様だし、友好国であろう国相手だから悩むだろうなぁ。
しばらくして話し終わったのか、一番偉いであろう兵士が俺らに近付いてくる。
「ではお名前とその身分証を確認させていただ……もらう」
「ティナはティナっていーます! このおーかみはアルです!」
「マオはマオだ。こっちはシスティーナだ」
「ご確認させていただく……」
兵士さんが俺たちの身分証を魔道具を使って確認し、間違いはないかを確認する。
恐らく鑑定か偽証等を暴く能力を持った魔道具だろう。
「……はい、問題ありません」
「では通行料として一人銀貨2枚の支払いを」
俺は自分の分とティナの分のお金を出し、マオとシスティーナさんはシスティーナさんが払った。
にしても通行料が一人銀貨2枚か。
確かにこれは出費が多くなると大変そうだ。
しかも俺は国御用達って事で割引されてるだろうから本当はもっと高いんだろ?
そりゃ他の国に行きたくなくなるわな。
とまぁ特に問題なく関所を越えられたのだが、もうここからはレスティア王国の領土ではなくなるということだ。
ちゃんと気を引き締めないとな。
〔そういや俺らは関所を通ってるけど、やっぱり関所を通らないで行くやつとかいるのか?〕
「詳しくはわかりませんが、少なからずいるはずです。関所を通るお金がない、お金を払いたくない、密入国といった様々な理由はあると思いますが」
〔そういった奴らって捕まってんの?〕
「これは昔私が調査した事なのですが、ここ一帯は基本平地です。ですのでどうしても密入国をしやすい環境にあります。そこで、センサーのような魔道具を設置してそういった者が侵入した際にその情報が得られる、というのを聞いた事があります。まぁ数は多くはないということですが」
「せんさー?」
〔簡単に言えばお店に入った時に鳴る鈴みたいなもんだな。あれみたいに誰かが入ってきたら気付けるようにしてるってことだろ〕
確かにここ一帯は平地だからそれを監視するにも大変だろう。
一応国境沿いにいくつか砦や監視塔はあるだろうが、絶対とは言えない。
だからカバーできない範囲をそういった魔道具を使って監視しているんだろう。
つかそういう魔道具まであんのかよ……。
「それにしてもアルはよくセンサーなんて知っていたね。魔国は人間の国と比べて結構最先端の技術を使っているから、そういう技術を短く呼称したりするんだよ。こっちでは検知器だったかな?」
〔まっまぁね……。ちょっとそういう話をチラッと聞いた事があってな……〕
「とはいえ、レスティア王国に関しては友好国という事とダンジョンが近くにあるというのもあって、技術提供といった事はしているらしいけどね。しかしそういった魔法を魔石に込めるにも魔国と違い、魔法使いの関係上あまり進んでいないらしいため、先程のセンサーのような魔道具の配備もうまく進んでないと聞いたよ」
〔へ……へぇ……〕
うぉぉぉぉい!?
マジかよそういう事先に言ってくれよ!
つか魔国マジやばくね!?
でもマオの説明から、魔法使いなら魔石にその魔法を込められるという事なのか?
センサーということなら感知と連絡系の魔法だろうけど、そんな特殊な魔法を持っている奴なんてそうそう見つからないだろうし、配備が進まないのも納得できる。
うん、俺はただ魔石を食ってるだけだが、なかなか興味深いな。
古戦場始まっちまったよ…やべえよやべえよ…。




