狼、街道を進む
「いー天気だね!」
「あぁそうだね。こう晴々していると気持ちもよくなるね」
俺らは今王都から出発し、ノヴァ公国へと繋がる街道を進んでいる。
まぁ幼女二人を背に乗せながらなんだけどな。
「アル様、大丈夫ですか?」
〔二人はそんな重いわけでもないし、これぐらいならむしろ軽い方だな〕
てかティナはもっと飯食っていいと思うけどな……。
今でこそ多少肉付きがマシになってきたが、会った当初なんてもっとガリガリだったしな……。
「アル、女性に対して重いとかはダメなんだよ? 気にしている女性も多いからね。システィーナも昔はむぐぅっ!?」
「マオ様、そのお話はおやめください」
「むぁぁ……」
システィーナさんに両手で口を塞がれたマオがコクンと頷く。
「アルー」
〔んっ? どうかしたか?〕
「マオちゃんの言い方から、しすてぃーなさんってふとってたの?」
ティナの素朴な質問に一瞬周りが凍り付いた気がした。
そして俺は直感した。
ここで返答を間違えたら殺されると。
俺は極限状態の緊張の中、命運を分けるであろう返答をする。
〔……ティナ〕
「なぁに?」
〔そういう話には男性は入ってはいけないものなんだ。だから俺が傍にいない時に女性同士だけで話すんだ〕
「そーなんだ! アルって物知りだね!」
〔おっ……おぅ……〕
ききききききっとこれが無難な答えだろ!
下手に太ってないとか痩せてたとか言っても絶対気まずくなるやつだもん!
俺は恐る恐るチラっとシスティーナさんの方を見ると、彼女の様子は特に冷ややかなものであったり、殺意全快といったものではないようなので、俺は何とか地雷は踏まずに済んだとほっと一息ついた。
街道は平地沿いにできており、少し外れても平原が広がっていた。
この身体が狼だからか、こうただっ広い平原を見ると駆けたくなる衝動に襲われるな。
〔にしてもよくもまぁこれだけ平原が広がってんな〕
「基本的にはこの大陸の北部の中央部は平原地帯が多いらしいです。逆に南部は盆地や丘といった少し段差が多いと聞きます。そのため、北部では穀倉地帯が多く、南部の国々は前々から北部に侵攻したいと考えていますが……」
〔魔の森と死の門があるからこれないってところか〕
「はい。ただ、北部も平原が多いため、他の国を攻めようとするとどうしても横腹を突かれる可能性が高くなるので南部と比べても戦火が少なくなっております」
まぁそこは立地の問題だよなぁ。
こうも平原が続いてると砦を建てる場所とかも考えないといけないし、軍の動きも察知されやすい。
その点レスティア王国は南を魔の森、西部分は山脈に死の門らへんで囲まれてるから四方から攻撃されることはないときている。
まぁダンジョンとか怖い場所が近いのはあれだが……敵国が近いよりはマシか。
〔てかシスティーナさん結構この大陸の事詳しいんだな〕
「えっ? いや……まぁ……」
何故そこで顔を反らす……。
まさかまた昔に何かやったのか!?
システィーナさん指名手配とかそういう事になってないよな!?
俺の考えを読んだのか、マオが一声掛けてくる。
「アルの心配するような事はないから安心してくれたまえ。魔国は仮想敵国としてこの大陸の国々を考えていたため、地理情報などは集めていたのだよ。ただ……50年程前、情報収集の際にシスティーナが父様の事をレゾ王国やドルフ帝国あたりから貶されるような声が聞こえた時に少し暴れそうになったと苦笑いの父様から聞いていて……」
「あの時は未遂です! 手は出しておりません!」
「でも父様が後数秒同行した者たちの強制転移が遅かったら、街一つの範囲を火の海にしそうになったと聞いたが? しかも同行した者たちの咄嗟の機転で無人の荒野へ飛んだおかげで被害はなかったと……」
「ママママママオ様ぁぁぁぁ! アメあげますから少し静かにしてくださいねぇぇぇ!」
「むぐぅっ!?」
システィーナさんがどこかから取り出した棒付きの飴を慌ててマオの口に突っ込む。
てか飴ってあるんか。
つかシスティーナさんマジでやべーな……。
「アルー。ひのうみってなにー?」
「はーい! ティナ様もアメどうぞー!」
「はむぅっ!?」
話を広げられると察したシスティーナさんがティナの口にも棒付きの飴を口に突っ込む。
「んっー!」
ティナは初めて口にしたであろう飴の味に嬉しそうに驚いている。
この様子からするとこの大陸には飴はないってところか。
そうなると魔国には飴以外にも俺の見知った物とかあるのかもな。
「んむ? アル、その様子からアメの事を知っているのかい?」
〔んっ? あっあぁー……いや、単にティナが嬉しそうだなーって思っただけだ〕
「そうかい?」
まぁ少なくても俺が実は違う世界にいたとかそういう話しても信じちゃもらえなさそうだし、こう言っとけばいいだろう。
割とのんびり進んでいたため、レスティア王国の国境に着く前に日が落ちてしまった。
「今日はこの辺りで一晩過ごす事にしましょうか」
〔そうだな。灯りなんてないし、魔獣とか襲ってきそうだし〕
まぁシスティーナさんがいれば大抵の魔獣は即死だろうけど。
俺らは街道から少し逸れて野営の準備をする。
野営といっても、焚火の準備ぐらいしかしてないんだけどな。
「ではアル様。料理の準備をしますので材料や道具をお願いします」
〔あいよー〕
俺は異次元空間から適当に材料と道具等を出す。
道具といっても、システィーナさんから預かっている簡易キッチンの魔道具という便利な物を使うからそこまでかさばるような事はない。
さて後は水と火の魔石を出してっと。
準備はシスティーナさんに任せて、俺は焚火の前で座ってるティナとマオの傍に寄る。
〔二人とも旅はどうだ?〕
「たのしーよ!」
「うん、こう外で一夜を過ごすのは初めての経験だから楽しいよ」
〔そらよかった〕
その後、システィーナさんが作った料理を食べ、俺らは眠りに就く事にした。
勿論周囲の警戒に影狼を出してな。
最初はシスティーナさんが寝ずに番をすると言っていたのだが、せっかく影狼たちがいるのだ。
ここは任せようと言って強引に休ませた。
「んぅ……アルぅ……」
俺を毛布代わりにしているティナがぎゅっと毛皮を掴んでくる。
俺は影でティナの頭を一撫でして眠りに就いた。
ちょっと忙しくて更新遅れました。




