狼、公国へと向かう
結論から言って、家探しはすぐに終わった。
いや、正確に言えばすぐに終わらせた。
兵士に不動産を案内してもらったのはいい。
だが問題はそこからだった。
比較的金を持っている俺らに対して不動産はやたら豪邸やら敷地が広い土地を紹介してきた。
いや、それが悪い行為とは言わないが、別に俺らは豪邸が欲しいわけでもないわけで、むしろ数人しか住まないのに五十人は住めるであろう広い土地を紹介されてどうしろと?
この王都では過去に大きな戦があったせいか、そういった大きな土地に住んでた跡取りのような者たちが亡くなったりしたせいで、隠居や何やら色々な理由で小さな家に引っ越したり、他の街へ引っ越したりしてしまったらしい。
そのせいで手付かずの大きな家が比較的にあって、その処分にも困っているという。
だが俺らにそんな事は悪いが関係なく、普通の一軒家を紹介してくれと少し威圧を掛けてお願いした。
そしたら不動産も快く普通の一軒家を紹介してくれたのだ。
俺らの家は二階建てで、一階にキッチン付きのリビングに風呂場にトイレ、それに小部屋が一つ。
そして二階は部屋が四つと恐らく標準的であろう間取りとなっていた。
だが隣の家は何故かお店っぽい間取りの空き家になってたが、どうやら商品が売れなくて赤字経営になって潰れたらしい。
うん、もしお隣さんが出来たら仲良くしよう。
お隣さんいないと寂しいもんね
とはいえ、家を買ってすぐ住めることにはならない。
基本的な家具や空き家であった間に溜まった埃などを掃除しないといけない。
しかし、その家具の分や掃除を含めてある程度値引きをしてくれたので、大金貨2枚と金貨5枚で購入することができた。
やっぱり二階建てだと大体大金貨3枚ぐらいはいくらしく、俺らが国御用達の冒険者という事もあってかなり値引きしてくれたようだ。
不動産も本当だったら豪邸を紹介して大金貨10枚ぐらいは欲しかったんだろうなぁ……。
しかし、一度家を買えば家賃や光熱費とかそういうのは払わなくていいが、逆に言えばそれらの元となる魔石は自分で購入しないといけないということだ。
しかも特に水と火の魔石は料理や家事によく使うとのことで、購入する頻度が高くなるらしい。
逆に言えば家を買ってしまえば、それらの必要代金さえあれば税金以外特に払う物はないらしい。
更に言えば、俺の場合魔石を渡しているため税金が掛からない、というのは語弊があるが、その魔石が税金代わりとなってくれるとのことだ。
いやまぁ……俺の魔石が割と凄い物らしく、この国の職人たちが日々欲しがっているという事を聞いて割と困惑してるんだけどね……。
聞いた限りじゃ今まで作ってた武器の性能が桁違いに上がったとかなんとかだったり、今まで使ってた魔石の量を一気に減らすことができたとかなんとか……。
そんな俺の魔石凄いの……? ってなるぐらい不安だったよね。
少し話を聞いてみると、魔石の純度が高いと効率とかが一気に上がるとか、性能が上がるとか色々良い事があるとのことだ。
普通だったら俺は飼い殺しにされてもおかしくないが、王様は特にそういう事をしようともせず、むしろ友好的に接してくれている。
そんな国だからこそ、ティナの家をここにしてもいいかなと思ったんだけどな。
とまぁこんな調子で家を買ったのだが、せっかく楽できる手があるので買った家の掃除は影狼たちに頼んで、俺らは今日のところはマオたちには悪いがサンデーに泊まる事にした。
幸いな事にマオもシスティーナさんも不満などはなく、普通にその日は寝る事にした。
翌日、俺らはノヴァ公国に向かう旨をギルド会館に告げようと向かった。
〔んっ? ダールトンどうしたんだ?〕
ギルド会館の中に入ると、ダールトン含め何人かが何やら身支度をしており、ダールトンも普段は装備していない大斧を持っていた。
「アルか。いやなに、北のレゾ王国付近で大型の魔獣が現れたらしく、こっちにもその討伐の要請が来たんだよ」
レゾ王国って魔族嫌いで、システィーナさんが行きたくないって言ってた国か。
てかこの前見せてもらった地図では割と離れてたよな?
〔わざわざこっちから行くのか?〕
「これでも一応B級だしな。危険度が高い魔獣の場合他の国のギルドから要請されることもあるんだよ。しかも人襲ったらしく、緊急性が高いときたもんだしな……。つかレゾ王国の冒険者の奴らマジで使えねえからあんまり行きたくねえんだけどなぁ……」
ダールトンがここまで言うとは珍しいな。
俺はあんまり詳しくないが、割とこの国の冒険者はランクは低くても基礎的な事や色々な事を知っているため、他の国では評判がいいらしい。
まぁつまり教育がちゃんとされているって事なんだろうけどな。
んで、ダールトンの言い方からレゾ王国の冒険者はそういう教育とかを上の人がやらないようだな。
そりゃ下は育たんわな。
一から十教えろとまでは言わないが、せめて基礎の一と二ぐらいは教えてやれとは俺は思うがな。
あとは行き詰まったらさりげなくヒント与えるとかな。
「んでアルはどうしたんだ?」
〔あぁ、俺らはこれから西のノヴァ公国に向かうって事を伝えようと思ってな〕
「マジかぁ……。アルがいると思って留守の間の事考えてなかったんだが……」
〔なんなら上級の影狼でも置いておくよ。割と上級さえ何匹かいれば他増やせるし。でも指示出しは誰に頼むかなぁ……〕
「それならギルド長のクラフトに頼めばいいだろ。ギルド長なら緊急性の高い依頼とかそういうのはわかるだろうしな」
確かにギルド長に頼んでおけば、ある程度の裁量でなんとかしてくれるだろうしな。
するとロザリア姉ちゃんが話を聞いていたのか、クラフトさんを呼んできてくれた。
「話はロザリアから聞きました。二人がノヴァ公国へ向かうのでその間、アルさんの影狼を預かって指示を任せるという事ですね?」
〔あぁ。基本的に飯代は掛からねえし、場所もクラフトさんの影に入っちまえば取らないから特に困らないと思うし。あと数については色々手が欲しいとかあるだろうし、ある程度なら増やしちゃって構わないから〕
「わかりました。とはいえ、上級冒険者がいない間に何が起こるかわかりませんし、その代わりとなる影狼を貸していただけるなら幸いです」
〔こっちこそ悪いね。急に伝えて〕
「いえいえ、冒険者とはそういうものですから」
ふぅ、とりあえず許可して貰えてよかった。
これでダメですとか言われたらどうしようかと思ったわ。
〔さて、後は食料に野営用の毛布とかテントとかそういうのがあれば買っておかないとな〕
「アルときゃんぷ?」
まぁ……野営ってキャンプになるのか?
〔まぁそうだな〕
「アルときゃんぷー!」
「ティナは可愛いなぁ。だがマオもキャンプは初めてだから少し楽しみだ」
「では食料はどうしましょうか?」
〔んー……普通だったら保存食とかそういうのだろうけど、俺異次元に食べ物しまえるから料理道具さえあれば何かしら作れ……って俺作れねえわ! えーっと……システィーナさんは料理とかは……〕
「はい、問題ありません。むしろ同行させていただくわけですので、料理ぐらい作らせていただきたいと思います」
一応マオの方をチラッと見るが、特に焦ってる様子はないのでメシマズメイドという事ではないようだ。
なら料理についてはシスティーナさんに任せよう。
そうして俺らは昼頃までに必需品を揃え、ジークにノヴァ公国へと向かう事を伝えて出立した。




