狼、奴隷制度を知る
システィーナさんが割とやばい人だという事を認識した俺は、マオにシスティーナさんの逆鱗を当たり障りなく聞いてみた。
「そこまで心配しなくていい。よっぽどの事がなければシスティーナも怒らないから」
〔そのよっぽどの事が知りたいんだが……〕
「そう言われてもねぇ……」
マオはうーんうーんと考えるが、特に思いつかないようだ。
〔りょっ……料理方面とかで何かしちゃいけないとかは……?〕
「そういった事もないはずだ。システィーナも「味覚や好みは人それぞれ違うのですから、それを私がとやかく言う事ではないです」とも言ってたからね」
ふむ、ともかくそこら辺は大丈夫と……。
よかった……目玉焼きに何かけるか戦争とかそういうのがある人じゃなくて……。
「それでアルたちはこれからどうするつもりなんだい?」
〔んー……まぁダンジョンに潜るのもいいんだが、流石に俺らに同行している二人をわざわざ宿に泊めさせるのも悪いし……〕
いくら見聞を広めたいからって王女様をそこらの宿に泊めさせるわけにもいかんだろ……。
いやまぁ勝手にっていう部分はあるが、元はと言えば俺がいたことで二人が来たんだから、ある程度の管理責任は俺にあるわけだと思うのよ。
と、いうわけで。
「そこで何故私なのだ……」
〔いやぁ俺この街の不動産とか知らないし?〕
困った時はパーフェクトイケメンのジーク君に聞くのが一番!
「そもそも以前家などいらないと言っていなかったか?」
〔いやぁ、サンデーのとこのおっちゃんの料理も悪くはないんだが、正直俺の魔石の余剰によって増える金を消費したい部分がある。経済回す意味で〕
「それならもっと豪華な宿に止まればいいではないか……」
〔それも考えたんだけどさ……ティナがあまり高すぎるところに泊まるのは……その……〕
もし俺がいなくなった時に遊び癖が付いたら大変だし……。
〔という事で、家だったらある程度の金は使うし、家具とか揃えちまえばあとは最悪ティナ自身で食事代を稼ぐだけで済ませられるだろ?〕
「まぁ話はわかったが……実際のところ本音は?」
〔王女様をいくらうまい飯があるからといって安宿に泊めさせられるか。せめてちゃんとした家ならなんとでも言えるだろ〕
「そこは陛下に頼めば何とでもなると思うが……」
〔毎日城から他国の、しかも重要なお姫様が出ていくことになるが、それがいいか?〕
「……すまん、失言だった」
わかればよろしいのだ。
とはいえ、旅ならともかくこの街に滞在するなら家の方がいいだろうしな。
「だがそうなると家事はどうするんだ? 影狼たちにさせるのか?」
〔あっ〕
やっべ、その事忘れてた。
普通に俺がやればいいやと思ってたけど、俺今狼なんだった。
流石にシスティーナさんに家事をさせるわけにもいかんし……。
呆れたジークは俺の耳元に顔を近付ける。
「ならば西のノヴァ公国に行くといい。あそこはつい最近とある部族を平定したという」
〔んっ? どういうことだ?〕
俺はジークの様子からあまり周りに聞かれたくない事だと察してジークだけに念話を絞る。
「この国ではほとんど扱っていないが、他の国では奴隷制度がある。そこで奴隷にアルたちの家を管理させるのはどうだ? ノヴァ公国ならば他の国と違って奴隷にした者たちを無下に扱っていないという。それならば解放した時にも歯向かったりしてこないだろう。流石に大勢の奴隷を連れてくるのは困るが、一人や二人ぐらいならばどうとでもなる。それにアルたちならばその奴隷に対して非道な事はしないだろうしな」
なるほどな。
確かに奴隷にさせられて、酷い事をされていたのならば憎しみとかそういったのがより一層強くなるが、ある程度環境がちゃんとしているならば自分が解放された時に今まで世話をしてもらった恩を感じても恨みまではそうそうないだろう。
まぁ確実にとは言えないだろうが。
〔てか奴隷制度ってどんなもんなんだ?〕
「基本的には主人の命令に逆らえない、危害を加えないといったものだが、細かく決めたいのならばそこは奴隷商に頼むしかないな。その分値は上がるがな」
〔その奴隷を解放する時は?〕
「まず奴隷にする際にその奴隷の能力に応じた契約金が発生するという。その契約金に値する働きをすればその契約金についての契約魔法の効力が弱まるとかなんとか……。とまぁそれで契約金に値する働きで返済しきると、後は命令に対する解放のみになるので、そこについては奴隷の飼い主の自由にできるらしい」
〔つまりその二つの契約魔法みたいなのを解除できれば解放されるわけか〕
「ただ、命令に対する契約魔法を解除してもその奴隷が主人に逆らえるわけでもないので、実質二つの契約魔法を解除する必要はあるのだがな」
ようは奴隷を解放しようと買ってもすぐに解放できるわけではないという事か。
「あとはアルももしかしたら盗賊団のアジトで見たかもしれないが、基本的に黒っぽい首輪を掛けているのが奴隷だな」
あー…あのくそ野郎が俺に付けようとしてた首輪か。
ってことは、あの首輪が強制的に従わせるためのツールで、契約魔法ってのが奴隷にするための契約書みたいなもんか。
それに誰か一人いてくれればティナの面倒は見てもらえるしな。
割と良いかもしれない。
しかし奴隷と聞くとこうエロスな方面を感じてしまうが……まぁ俺は今狼だ、関係ない。
「アルー? お話終わったのー?」
大人しく俺の背中に乗って待っていたティナが尋ねてくる。
〔あぁ、これからノヴァ公国の方に行って家の管理をしてもらう人を探しに行こうかなって感じだ〕
「家かうのー?」
〔いつまでも宿屋ってわけにもいかないだろ? ってことでジーク、なんか良さそうな家知ってそうな不動産知らないか?〕
「それなら案内したいところだが……これでも私は忙しい……。案内に兵士を一人派遣する。場所はそいつに案内してもらえ」
〔えっ? でもジーク俺と喋ってたじゃん〕
「お前が尋ねてきたのに一介の兵士に任せられるかっ!」
えぇ……。
何でそんな怒るの……。




