狼、同行者は危険人物だと察する
「そうか、ティナは魔の森でアルと出会ったのか」
「うんっ! アルすごいんだよ! 影でいろいろできるんだよ!」
「そうかそうか。本当にアルは賢いねぇ」
背丈も歳(見た目)が近いからか、ティナとマオは仲良く話している。
実は確認でマオの歳をシスティーナさんに聞いてみたのだ。
するとマオはもうあの見た目で三十を超えているというのだ。
それを聞いた俺の思考はフリーズしたが、魔族は人間よりも寿命が五倍ほど長く、身体の成長も人間の五倍ぐらい掛かるらしい。
なので大体100歳ぐらいで成人と見なすとのことだ。
つまりマオは人間換算で6歳ぐらいらしい、見た目も含め。
って、それってつまりくっそ長生きじゃねえか。
ちなみにシスティーナさんの歳も聞こうと思ったが、成人女性の歳を聞くのは色々と、い!ろ!い!ろ!とやばいのでやめておいた。
竜を単騎で倒す人を怒らせたらあかん。
「それにしてもティナは羨ましいねぇ。いつもアルに乗せてもらっているのだろう?」
「うんっ!」
〔……もしかして乗りたいのか?〕
「乗りたいと言えば乗りたいのだが……アルの大きさでは一人が限度だろう? マオが乗るとなるとティナが降りなければいけなくなるだろう?」
あー、その事を気にしていたのか。
なら……。
俺はティナをちょっと持ち上げて影を纏って身体を大きくする。
〔これなら二人乗れるだろう?〕
大きくなった俺の様子にマオとシスティーナは驚く。
「アルスキラウルフが影を纏う事はありますが、大きくなるのは聞いた事がありませんね……」
「やはりアルは特殊個体なのかい?」
〔んー……その特殊個体ってのはわからないが、てっきりこの種族はできるもんだと思ってたぞ〕
まぁ細かい事は置いといて、俺はマオを影で抱えてティナの後ろに乗せる。
〔これでいいか?〕
「うん。ありがとう、アル」
どうやらマオも満足そうだ。
「それでアル様はどちらに向かっているのですか?」
〔一応王様に二人が俺らに同行することを伝えないと色々まずいかなーって思って城に向かってるんだが、そもそもいきなり行って会えるものじゃないし……ジークに話しつけてもらうしかないかなぁ……〕
「でしたら問題ありません。私にお任せを」
何やらシスティーナさんに策があるようなので、任せてみる事にしよう。
〔えーっと……〕
今俺らは王様に謁見している。
うん、してるのはいいんだ。
問題はその方法だ。
「では王女殿下が直々に視察という事で、冒険者ティナと冒険者アルに同行するという事でよろしいのですね?」
「マオで構わない。公式の場でもないのだから。あくまでこちらがお願いしている立場なのだから、何か同行の条件とかがあれば承るよ。それと口調についてはすまない。魔族は基本的にあまり堅苦しい言葉を使わないんだ」
「えぇ、ご理解しております。会談の際にも現魔王陛下から伺っております」
「口調については近年取り入れるようにはしているのだが、長い年月ずっとこういった口調だからうまく使えなくてね」
「いえ、気を付けて喋っていらっしゃるのは理解しておりますのでお気になさらずに」
一応マオは現魔王の娘って事だから王女って事になるのはわかる。
となると、王女のマオは国王である王様に比べると身分は一つ下ぐらいになるはずなんだ。
にも関わらず王様が丁寧に話しているのを見るに、魔族の国はそれだけ慎重になる必要があるが、この国としてはかなり友好的な関係なのだろう。
まぁガチガチに頭のお堅い貴族様たちからすれば、王様と話している態度が無礼な振舞いと思われかねないんだろうな。
「ねぇアル。マオちゃんってすごいの?」
〔まぁ現魔王の娘って事だからお姫様って事になるしな〕
「お姫さまっ!」
あっ、この様子だとティナわかってなかったっぽいな。
「ティナ様、ご安心を。マオ様もティナ様とお友達でいたいと思っておりますので、そのように畏まらなくても平気です」
そのティナをシスティーナさんがフォローしてくれる。
まぁ魔国にいたのならマオは王女という目でしか見られなかっただろうしな。
普通の友達なんてそうそうできなかっただろう。
王様と話が終わったのか、マオはトコトコとこちらへ歩いてくる。
「すまない、待たせてしまったかい?」
〔そこまで長話でもなかったし、そんなに待ってないぞ。んで話はもういいのか?〕
「大丈夫だ。ちゃんと許可は貰えたし、もしマオに故意以外での怪我等が起こってもこの国に責任は問わないという書状を出したからね」
故意……まぁ確かに魔族だからって手を出そうとするやつはいそうだもんなぁ……。
「まぁもしマオに手を出そうとしたらシスティーナが何かしら対処するだろうから、むしろそっちの被害の方が大変になるかもという旨は伝えたが……その場合の賠償はどうしたらよいだろうか? ある程度の修復ならできるが、流石に街一つ吹き飛ばされるとどうしようもないからシスティーナも気を付けてくれよ?」
「畏まりました。なるべく威力は抑えるように致します。ただ、街以外では特に問題ないですよね?」
「えーっと……あまり環境を破壊しないよう考慮してくれるかい? 二人の住んでる大陸であまり大きな破壊痕は良い気はしないだろうし……」
……えーっと、マオを守る時の行動についての話だよね?
戦争の話とかじゃないよね?
システィーナさんって実は魔族の中でも戦略級とかそういった部類に入る割とやばい人じゃないの?
「えーっとだね、実はシスティーナは昔魔国で【爆炎の魔女】と呼ばれて恐れられていたんだ。今はだいぶ落ち着いたが、当時は父様が暴れるシスティーナと三日三晩戦ってようやく敗北を認めさせて部下にさせたのだよ」
〔それって危険度で表すとどれぐらい……?〕
「危険度で言うならアルが影狼で数を増やして大体三月分かそれぐらいだね。それも物量でシスティーナの広域殲滅魔法を掻い潜っていく感じのやり方だからね。正直人国で暴れられたらもう止めるのは大変だね。ってことでシスティーナ、念のために爆炎魔法を抑える特別製の指輪何個か付けようか」
「まっマオ様がそうおっしゃるなら……」
俺は察した。
一番怒らせてはいけないのはシスティーナさんだという事を。
単騎でやべーやつ:システィーナ
数でやべーやつ:アル




