狼、新たな幼女と出会う
王様との会談も終わり、ギルド会館の方へ向かっていると、何やらギルド会館の方角が騒がしい。
「何かあったのかな?」
〔一先ず行ってみるか〕
俺はティナを落とさないように影で支え、ギルド会館へと少し急ぐ。
ギルド会館に着くと何やら人だかりができており、この状態でティナを背中に乗せたまま中に入るのは何か気が引ける。
「おっ! アル戻ってきたか! お前に客だ!」
すると俺に気付いたダールトンが俺を手招きする。
俺に客?
俺は道を空けてもらい、ダールトンに案内されたままある一席に向かう。
その一席には、ある二人組がいた。
その一人は俺に気付くと、椅子から降りて俺に近付いてくる。
「君が噂のアルスキラウルフかい?」
噂?
てか……俺に声を掛けてきたのは、背丈が大体ティナぐらいで、ブカブカの黒いコートを着た赤い髪の幼女だった。
まぁただの幼女ではないとは見てわかる。
だって耳の部分から角が生えてるんだもん。
明らか人間ではないよね?
「だれ?」
「おっと、自己紹介がまだだったね。マオは魔王って言うんだ。正式名はマオ・ウラキナ・ラスティクス。皆からはマオって呼ばれているよ」
……んっ?
今魔王って言った?
いやいや、気のせいだ。
きっと正式名称を略してマオウっていっているんだろう。
「ティナはティナっていーます! よろしくね、マオちゃん!」
「君はティナっていうのか。それにしてもアルスキラウルフに乗ってるということは、君がマスターなのかい?」
「えっと、そーです!」
「ならば君にも話を通すのが筋だろうね。今日マオが来たのは君のアルスキラウルフを配下にしたいと思ったからなんだ」
「アルをはいか?」
「つまりマオの部下にスカウトしにきたんだ。マオはこれでも次期魔王候補だから、優秀な部下を早いうちに集めたいと思っているんだ」
んんん?
今次期魔王候補って言った……?
〔えっと……ダールトン君、魔王って……いるの?〕
「んっ? あっあぁ、いるぞ。一応自称魔王はたまに現れるが、あの子は正真正銘魔族の国の魔王候補だ。実際に現魔王から候補の証となる証明書を持っていたからな」
うっそぉぉぉぉぉ!?
あんな幼女が次期魔王候補!?
てか魔族が普通に街中いて平気なのか!?
「たぶんアルの心配しているような事は大丈夫だ。この国はダンジョンが近くにある関係上、魔国とも繋がりはある」
〔どういうこっちゃ?〕
「魔国は知性のある魔獣の保護も行っているんだ。ダンジョンからたまにそういったのが生まれるから、そこから外に出たのを魔族が保護する、っていう取り決めが行われているらしい」
〔えっ? じゃあダンジョンの中でそういうの見つけた場合倒しちゃったら捕まったりするの?〕
「そこは問題ない。あくまで外に出てしまったのだけだ。てかそもそも見ただけで知性があるかなんてわからないからな。アルじゃあるまいし、喋れないからな」
そらごもっともだわ。
「お話は終わったかい?」
魔王……マオがとことこと俺に近付いてくる。
〔あぁ、大丈夫だ〕
「おぉ! ホントに喋れるんだね! なんて賢いんだ」
マオは俺の頭をいい子いい子と撫でてくる。
いや、あのさ、なんで俺の周りには幼女ばっか集まるの?
神様、実は狙ってる?
「それでどうだろうか? マオの部下になってくれるだろうか? 勿論ティナも一緒に歓迎するよ」
〔あー……悪いが、俺そういう誰かの下に就くとかそういう事考えてないんだ〕
「……そうかい……」
マオは俺が提案を拒否すると、顔を背ける。
いや……そんなに落ち込まなくても……。
「大丈夫だ。二人にも事情はあるんだ。マオが我が儘言ってるだけなんだ」
〔えーっとだな……〕
「だから自分で決められる魔獣がいて、マオももっと頑張ろうと思うよっ!」
振り返ってにぱっと嬉しそうに笑顔を振りまくマオ。
何だろうこの罪悪感……。
「マオ様偉いですよ。相手の事を考えての発言。このシスティーナ、マオ様を誇らしく思います」
今まで黙っていたもう一人の客であるメイドさんが近付いてきた。
てかこの人も赤い髪に耳から角が生えているんだな。
「ではマオ様、この方たちは配下にならないという事がわかりましたし、お城に帰りましょうか」
「それなんだがね、システィーナ。マオはもう少し二人と一緒にいたいと思うんだ。父様も世界を見るのは良い事だと言っていた。二人は冒険者ということだし、色んな場所へ行くだろう。それにマオもついていきたい。ティナ、いいだろうか?」
「ティナはいーけど、アルはどう?」
〔んまぁ魔国がいいって言うなら俺は構わないが……大丈夫なのか? その子次期魔王候補だろ? 危険な目とかに遭う可能性もあるぞ?〕
そんな下手な事起きて魔族との戦争とか俺嫌だからな……?
「それについてはご心配なく。マオ様への護衛兼同行は私がさせていただきます」
〔それってつまり……システィーナさんって結構強い……?〕
「強さについては詳しく計った事はありませんが、ある程度の荒事ならば対処できます」
「システィーナ、暴れ竜を一人で倒せるのはある程度とは言わないとマオは思うよ?」
「その程度できなくて魔王様の配下とは言えません」
えーっと……つまり……システィーナさんはめちゃつよって事……?
「実はシスティーナは現魔王である父様の直属の部下だったのだよ。それでマオが候補者になった時についてきてくれているんだよ」
なるほど……。
って事は、ちゃんとしたマオの部下を探す意味で色々と探しているという事か。
普通なら部下にならないとどうなっても知らないぞーとかいう脅しがあってもおかしくないが、マオはそういった事を弁えているように見える。
教育がいいんだろうな。
てかこの世界の幼女割と聡いの多くね?
何?
幼女には英才教育するのが一般的だったりするの?
〔でも魔族がこの国以外を歩くのって平気なのか?〕
「そうですね……北にあるレゾ王国以外でしたら大丈夫なはずです。あそこは勇者を呼び出す関係上、あまり……いえ、魔族を異端の目で見ますからね」
〔勇者を呼び出す?〕
「はい。異世界から勇者を呼び出すという話を聞いております。とはいえ、拉致紛いな事をしておいて魔族が悪だとほざく愚国ですのであまり気になさらないでください」
あっ、これは暗にその国には行きたくありませんって言ってるな。
まぁ魔族が嫌いって事は魔獣である俺も好まれないだろうし、行くのはやめておくか。
しかし、流れとは言えまさか魔族……しかも軽くやばい二人が同行する感じになるのか……。
〔ティナ、本当にいいのか?〕
「うんっ! マオちゃんもアルの嫌がる事しないって言ってるし、しすてぃーなさんも、いー人そう!」
まぁティナがそう言うなら俺がとやかく言う必要はないな。
とにかく賑やかになりそうだ。
新しい幼女…つまり、ぅゎょぅι゛ょっょぃ




