狼、幼女と出会う
「??」
金色の髪をした女の子……もういいや幼女で。
幼女は首を傾げて俺をじっと見つめている。
恐らくあの熊から守ったのは自分を食べるためだと思ったのだろう。
んな事するわけないだろうが。
すると幼女のお腹がぐるるーと音を立てる。
「あぅ……」
仕方ない。
ちょうどいいところに餌もある事だし、飯にするか。
俺は幼女を影で抱えて殺した熊の近くに一緒に移動する。
さて……どうするか……。
この狼の姿ではうまく処理なんてできないし……。
まぁともかく邪魔な内臓を取り出すだけ取り出してみるか。
俺は影を操って熊を仰向けにする。
そして影の形をメスのようにして腹を軽く掻っ捌く。
すると突然腹の中から良い匂いがしてきた。
俺はつい掻っ捌いた熊の腹に顔を埋めて匂いの元を探す。
口元が臓物とか血で汚れているとは思うが、今はこの旨そうな匂いの元の方が先だ。
するとコツンと何かに当たる音がしたため、それを噛み砕かないように口に咥えて顔を出す。
咥えた物を地面に置いて確認してみると、大体直径10cmもいかないぐらいのところどころ黒く濁っている球体の物だった。
「わぅ?」
なんだこれ?
でもなんかこれから良い匂いがする……気がする。
てか俺今腹の中掻き分けるついでに熊の内臓食ったけど普通に食えたな。
俺完全に味覚が狼になってんじゃねえか。
すると幼女が俺が落とした物を興味深そうに見つめる。
「魔石……?」
「わぅ?」
魔石?
なんじゃそりゃ?
「まじゅーなのに魔石知らないの?」
「わぅ……」
すいません何にも知らないのです……。
「えっと、死んじゃったおとーさんが言ってたんだけど、まじゅーのお腹の中にある大事な物で、色んなどーぐに使えるんだって」
ほー。
ならこれは残しといた方がいいのか?
でも……食いたい衝動に駆られる……。
俺がじっと魔石を見つめていると、幼女が魔石を持って俺の口に近付ける。
「はい、どーぞ」
「わぅ?」
「この魔石はあなたのだよ。だからどーぞ」
そんな近付けられると……我慢できなく……できなく……。
俺は幼女の手を噛まないように注意して魔石を喰らう。
口の中で噛み砕いて飲み込むと、なんだか力が少し漲ってきた気がする。
もしかして魔獣にとって魔石って回復アイテムかパワーアップアイテム的な物なのかもしれない。
それを教えてくれたこの幼女にお礼をしないとな。
一先ず食えることが分かった内臓だけを俺は腹に顔を突っ込んで喰らう。
そして改めて熊の皮を影を操って器用に剥いでいく。
一応毛皮は毛布になるかもと思って丁寧に残しておく。
あとは骨を取り除いて肉部分を……。
って、火がねえから焼けねえじゃん。
と思ったけど、何となく火が吐けることがわかるので、適当に枝木を集めて石で囲んで火を吐いて焚火を作る。
あとはこの便利な影に肉を突き刺して焼く!
影なだけあって全く熱さとかは感じないから便利だ。
段々焼けていく肉に幼女は涎を垂らしているが、もう少し待ってくれ。
生焼けは危ないのだ。
十分に焼けたであろう肉を幼女の口元へと運ぶ。
幼女は俺の影を恐る恐る掴み、肉をこぼさないように齧りつく。
「んーっ!」
そこからの食いっぷりは見事だった。
あっという間に渡した肉を食ってしまったので、次の肉を焼く事にした。
肉を焼いている最中何となく俺にできる事がわかったので、並行して少し作業をしようと思う。
どうやら俺は火を吐いたり、水を出したり、風の弾とかを出したり、土の壁を出したり、雷を落とせたり、発光した玉を出したり、黒っぽい球を出せたりできるようだ。
なんだこの狼、マジやばくね?
てかそれと同時にこの狼の種族も何故だか理解できた。
どうやらアルスキラウルフという狼らしい。
こんな狼がいる異世界とか怖いわー。
っと、肉焼けたっぽいな。
俺は幼女が満足するまで肉を焼いた。
「ごちそーさまでした」
幼女は満足したのか、俺にお礼を言う。
まぁ一先ず言語とかは通じるようだし、神への言葉とかも一致している部分があるようで安心した。
さてあとはこの熊の皮を洗って綺麗にするか。
俺は水の球体を作ってその中に熊の皮を入れて洗う。
その最中、幼女が俺に問いかける。
「おーかみさんは何で私を助けたの?」
何でって言われてもなぁ……。
こんな幼女を見殺しにしたくないって思っただけだし、あの熊に勝てると思ったからだとしか……。
てかこの幼女結構聡くね?
精々幼稚園か小学一年生ぐらいだよな?
実は合法ロリとかそういうのじゃないよな?
とはいっても喋れないから説明できないしなぁー。
『念話』とかそういうのとかがあればできるんかなー。
なーんてな。
「? 今おーかみさん喋った?」
「わぅ?」
いやいや、喋ってないよ。
「あれ? 頭の中に声が?」
……あれ?
これもしかして本当に念話できてる感じ?
なんなんだこのハイスペック狼!?