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狼、過去の伝承

 アルスキラウルフ。

 太古より存在しているという伝説的な狼型の魔獣であり、その寿命は長く、千年とも言われている。

 通称は多々あるが、有名なものとすれば以下のものが挙げられる。

『黒き波』『愚国墜とし』『狼王』

 これらがアルスキラウルフを通称で呼ぶ場合となる。


 とはいえ、アルスキラウルフ自体はそこまで数は多くない。

 寿命が長い事もあるが、彼らは子作りを滅多に行わない。

 故に家族とも言える同胞を慈しみ、大切にする種族である。

 それ故に家族に危害が及ぼされた場合、その脅威がその者に対して猛威を振るう。


 本来アルスキラウルフは極めて知性が高く、温厚な性格である。

 自らの欲望のために縄張りを広げたり、魔獣にとって敵対者である人を虐げたりしていない。

 場合によっては助けを求めて来た者を外敵から守る事もあったという。


 では何故そのような種族が恐れられたのか。

 その理由は種族固有スキルである影狼作製にあった。


 影狼作製は言葉通りで、影の狼を作り出す能力である。

 だが、問題はその中身である。

 それは上級影狼、中級影狼、下級影狼といった具合に影狼には三つの種類がある。


 本体であるアルスキラウルフが影狼作製を使用した場合、上級影狼2匹、中級影狼5匹、下級影狼10匹を一日毎に作り出せる。

 そしてここからが影狼作製の恐ろしいところである。


 作り出した上級影狼は、下の位である中級と下級の影狼を本体同様に一日毎に作り出すことができるのだ。

 数は中級2匹、下級5匹と数は減るが、たった1匹の上級が群れを成すことが可能なのだ。

 更に中級影狼も下級の影狼を2匹作り出すことができる。

 つまり、一日経つ毎に配下の影狼はねずみ式に増えていくことになる。


 各々の影狼の強さを冒険者ランクで考えると、上級でA~B級の冒険者パーティ、中級でC~D級冒険者、下級でE級冒険者で討伐可能と言われている。

 ただし、これは各位の影狼が1匹(・・)の場合である。


 先にも述べたが、配下である影狼は一日毎に数を増やしていく。

 これが一ヶ月にもなると上級中級下級含めて5万匹を超える計算となる。

 そして何より恐ろしいのが、影狼には兵站の概念がない(・・・・・・・・)事である。


 移動の際には本体のアルスキラウルフの影へと潜っており、食料が必要なのは本体のアルスキラウルフのみである。

 武器防具や道具といったものも、下級影狼の所持している姿変化という能力により、武器にも防具にもなり、複数体いれば投石機などの攻城兵器にすらなる事も可能である。

 それすなわち、投石機に投げられる石にもなり、鳥となって強固な城へ潜り込む事やねずみとなって小さな隙間から侵入する事すら可能という事になる。

 つまり、アルスキラウルフを敵に回した時点で籠城などもっての他であり、野戦などただ蹂躙されるだけということになってしまう。


 ここまで聞けばなんと恐ろしい魔獣だと思われるが、実際にアルスキラウルフによって攻められた国は片手で数えるぐらいしかないという。

 そのどれもが悪政を敷き、民や従属国、そして敗戦国を苦しめていた国々や、不幸にもアルスキラウルフの子供に危害を加えた王族が原因と言われている。

 普通に考えれば数万、下手をすれば数十万の魔獣に国が襲われて生き証人が出る事などほとんどないだろう。

 しかし、伝承が残るということは生き証人がいたということになる。

 それが一人や二人ではそうそう伝わらないだろう。

 にも関わらずそのような伝承が残ったのは、アルスキラウルフの知性と習性故の結果に他ならない。


 伝承によれば、アルスキラウルフに襲われた国の民の8~9割の民が生き残り、畑などもほとんど被害にあっていないという。

 被害に遭ったのはほとんどが王族や友や家族を見捨てて逃げようとした者、他人を虐げているような者たちだったという。

 アルスキラウルフは家族を大事にするという事は、家族を大事にしない者には容赦しないという事なのだろう。

 それ故にアルスキラウルフ自身も家族を害されるということをよく理解しているため、そういった者たちには手を出していないのではという事が伝承に記載されていた。


 しかし、王族がいなくなってその国がガタガタになってしまえば他国が攻めてくるかと思うが、誰が好き好んでアルスキラウルフが生き残らせた(・・・・・・・)民を傷付ける愚者がいようか。

 そんなことをすれば今度は自国が滅ぼされるだけだと、愚国とされなかった(・・・・・・・・・)国々は認識した。

 故にアルスキラウルフの伝承を知る王族は一重にこう結論付ける。


「アルスキラウルフを怒らせるな」

「家族、民を大事にしろ」

「堕落した生活をするな」


 これらを破った時、自らの国が滅ぼされると理解した。

 いや、理解せざるを得なかったのだ。

 たった1匹で数万の兵を作り、率いれる魔獣を相手にするなど馬鹿馬鹿しいにも程がある。


 だがあくまでアルスキラウルフはやたら滅多に人間の争いに介する事はない。

 事実、ここ数百年の間、アルスキラウルフの目撃はほんの僅かにされてはいるが、国が滅ぼされたという事はなかった。

それもたまたま寿命で亡くなっていたであろう遺体を見つけた程度でしかない。

 そのためだろうか、いつしかアルスキラウルフの伝承など忘れ、各国が覇を競うようになってしまったのは。


 そして彼らはまだ知らない。

 アルスキラウルフが人里に現れたことを。

 そして彼らは忘れ去っていた。

 アルスキラウルフを怒らせたらどうなるかを。

 敵に回した場合、どのようになってしまうかを。

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