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狼、激昂する

 「ハハハハハッ! やった! やったぞ!」


 盗賊団の首領は高らかに勝ち誇り、これから訪れるであろう至福の日々を頭の中で描く。


 首領の持つレアスキルである使役権強奪は、テイマーならば持っている魔獣使役という魔獣をテイムするのに必須のスキルの使役権を奪うスキルである。

 しかし条件はかなり厳しく、その支配権を持つ主に触れており、なおかつ対象とする魔獣が使役権強奪からなる設置型の魔法陣に入っていなければいけない。

 だが所詮テイマーは魔獣がいなければ何もできない。

 そう考えていた首領はこれまでに使役者を誘拐し、罠を張る事で使役者の魔獣の使役権を奪っていた。

 実際に王都へ難なく侵入できたのも、迷彩効果を持つカメレオンのような魔獣の能力のおかげであった。


 そして今回、アルスキラウルフを使役しているテイマーがいるという情報を得て王都まで足を運んだ彼らは、大胆にもダンジョン近くの山脈に拠点を作った。

 ダンジョン近くにいる騎士団はあくまでダンジョンの見張りをしているだけであり、周辺の索敵で下手に人員を減らした時にダンジョンで異変があった際の対応ができなくなるのが問題となるため、索敵をしても山脈までは来ないということを彼らは確認していた。


 彼らが山脈に潜伏して偵察を続けること二週間。

 ようやくターゲットとなるアルが使役者であるティナと離れて行動した。

 それを好機と見た彼らは白昼堂々と現れてティナを攫い、鼻の良い魔獣対策への臭いの漏れない効果を発揮する特殊な魔道具とともにティナを袋に詰めた。

 だがターゲット本人が自分たちを見失っても困るため、途中途中ティナの顔だけを出して臭いを外に残して自分たちを追わせた。

 そして何重にも仕掛けた罠にようやくターゲットが引っかかった。

 その嬉しさからか、首領は高笑いを続ける。


 「さぁアルスキラウルフよ! そこの元飼い主を食い殺せ!」


 首領はティナからナイフを降ろし、距離を取る。

 そしてアルはゆっくりとティナへと近付いていく。



 ◇



 ……なんだったんだあの光は?

 身体に異変は特にねえし……。

 つか何命令してんだくそ野郎が。

 しかもティナを食い殺せとか舐めてんのか?

 まぁいい。

 勝手にティナから離れてくれたしさっさと保護するか。


 「アルゥ……」


 ティナが涙を流している姿を見てすぐ声を掛けてやりたいが、ここで声を掛けるとティナが明らかに動揺してあのくそ野郎も動くだろうから少し我慢してくれな。


 俺はティナの目の前へと来る。

 するとティナは目を瞑って祈るように手を組む。


 「っと、そうだそうだ。さっさと服従の首輪付けねえとなぁ」


 首領がにやけ面をしながら首輪を持って俺に近付いてくる。

 俺はそんな首領の首輪を持っている腕ごと影で切断する。


 「はっ……?」


 首領は何が起こったかわからず、切断された腕を見て叫ぶ。


 「なっ何で俺様の腕が……腕がぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 〔その耳障りな声をティナに聞かせんじゃねえ!〕


 「アルゥ……?」


 俺は舌でティナの涙を舐め取り、ティナを安心させようとする。


 〔悪いな。さっきはあのくそ野郎がティナの近くにいたから話し掛けたくても話し掛けられなかったんだ〕


 「アルゥ……!」


 涙を舐め取ったはずなのだが、ティナは再び涙を流して俺にしがみついてくる。


 〔ティナ、ちょっとだけ待ってくれな〕


 そう言って俺は影で優しくティナを離す。


 「何でだっ! 何で俺様の能力が効かない!」


 首領は腕から血を流しながら焦るように怒鳴り散らす。

 つか能力って何だよ。

 もしかしてあの光の事か?

 てかもしかしてさっきの発言から俺を使役しようとしてた?


 〔テメェ……まさか俺を使役しようとするためだけにフィリアのお母さんを傷付けてフィリアを泣かせたのか?〕


 「フィリアって誰だってんだよ! ああ痛えよ! おい! 誰か治癒魔法掛けろっ!」


 首領は何で俺が話せる事など介さず、ただ自分の傷を治せと怒鳴り散らしている。


 〔んな事のためにティナが怖い目に遭って泣いたっていうのかぁぁぁぁぁぁぁ!〕


 「ヒィィィィ!?」


 俺は激昂し、アジト内に響き渡るような大きな遠吠えをあげた。

 首領は俺の遠吠えにビビったのか、斬られた腕の事など気にも留めず、逃げて行った。


 〔誰が逃がすかよぉ!〕


 俺の怒りに呼応するように影が俺を包み、身体が二倍程大きくなった気がする。

 そして影が周囲に展開され、その影から無数の赤い瞳が浮き出て次第にそれが狼へと形を成していった。

 その数、およそ50程になる。


 「アルが……一杯……?」


 〔やつらを全員食い殺せ!〕


 俺の指示とともに、黒い狼は首領を追い掛けていった。


 よくわからないが、俺の影から出てきた黒い狼は俺の指示を聞くようだ。

 本来ならば俺があいつらをぶち殺したいところだが、またティナを放っておくわけにはいかない。

 俺がティナの方を向くと、ティナは不思議そうに俺を見つめる。


 「アル、おーきくなったの?」


 〔んーわからんがティナがそういうならそうなんだろ〕


 「アルが一杯になったのはなんで?」


 〔そこもわからん。何かキレたら増えた〕


 そうとしか言えないんだよな。

 それよりもだ。


 〔ティナ〕


 「なぁに?」


 〔怖い思いさせてすまなかった〕


 大きくなってしまっているが、俺はティナの前に頭を下げる。

 ティナは不思議そうに首を傾げるが、すぐに笑顔になって俺の頭を抱き締める。


 「ティナね、あの時アルに殺されちゃうならいーかなって思ったの。でもアルはティナを守ってくれた。ティナはそれだけでいいの」


 あの時ティナが目を瞑って手を組んだのはそういう事だったのか……。


 「あっ!」


 〔どっどうした!?〕


 「フィリアちゃんのおかーさん……怪我しちゃってたけどだいじょーぶかな……」


 〔あぁ、それなら治しておいたから大丈夫のはずだ。フィリアも怪我してなかったようだしな〕


 「アルが治してくれたの!? ありがとっ!」


 おっとっと。

 いくら身体が大きくなったからと言っても、少し下向きに体勢が崩れてるからそんな勢いよく抱き着きながらタックルされるとバランス取るのが難しいって。

 まぁ怖い思いをさせちまったんだ。

 ティナの好きなようにさせてやるか。

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