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狼、平和とは紙一重と知る

 初めてダンジョンに潜ってから早一ヶ月。

 俺もティナもだいぶダンジョンに慣れてきたし、なんとティナに友達ができたのだ。

 名前はフィリアといって、9歳との事だ。

 まぁティナが大体6歳ぐらいだとするとお姉ちゃんという感じにはなるが、フィリアが道端で転んで足を擦りむいた際、通りすがりの俺が治してあげたのが事の発端だったのだが。

 それからティナはフィリアと仲が良くなり、一緒に街を歩いたりしている。


 〔いやー平和だなー……〕


 「いやまぁお前がそれでいいならいいが……」


 ギルド会館の椅子に伏せてのんびりとしている俺にダールトンが呆れながら話し掛けてきた。


 〔だってティナに友達ができたんだぞ? いやぁよかったよかった〕


 「あの嬢ちゃんなら時間の問題だろ。どう見ても友達ができない様子はないしな。つかここの冒険者の奴らもいつの間にか嬢ちゃんの事追っかけようとしてるやつが……って、おい! またか! やめろっつってんだろ!」


 天真爛漫なティナの後を付けようと何人かの冒険者がギルド会館から出ていこうとするのをダールトンが抑える。

 いやぁー平和だなぁー。


 そもそも何故別行動しているのかというと、今日の夜にフィリアのお母さんがティナと俺を家に招待して食事をごちそうしてくれるとのことだ。

 それで俺が行くと鼻の良さからそのごちそうが何なのかわかってしまうため、ティナとフィリアが「お楽しみなのー」と言われて俺は大人しく待っているわけだ。

 勿論俺はティナはともかく、魔獣の俺がお呼ばれして旦那さんとか平気なのか尋ねたが、フィリアのお母さんは気の良い人で問題ないと言ってくれた。

 優しいお母さんだ。


 「たくっ……嬢ちゃんが楽しそうにしてんだから邪魔するなって言ってんのによぉ……」


 〔サンキューな〕


 「気にすんな。にしてもお前も嬢ちゃんもホント慣れたよなぁ」


 〔ただのガラの悪いやつらならティナもあそこまで慣れねえよ。ティナが慣れたってことはそういう事だろ?〕


 「はんっ! まだF級冒険者には優しくしてやらねえといけねえからな」


 〔F級ねぇー……〕


 実は昇級試験自体の勧めは来ているのだが、昇級するという事はそれだけ危険な任務に出なければいけない必要が出てくる。

 俺だけならともかく、魔獣単体で行かせるのは周りの目の関係上あまり好まれない。

 なのでせめてティナが一人でその昇級試験を通れるぐらいになってから受けようというふうにティナと話し合ったのだ。


 〔にしてもごちそうかー。何が出てくるんかねー〕


 「おい尻尾尻尾」


 おっと、つい楽しみで尻尾がぶんぶんと動いていたようだ。

 いかんいかん。

 人間じゃないんだからこういう部分が無意識に動いてしまうのだ。

 自制しなくては……。


 さて、そろそろ買い物を終えてティナが戻ってくる頃だろう。

 俺は椅子から降りてティナの帰りを待つ。


 「全く、その見た目だけだったら忠犬で通るのによぉ」


 〔ハッハッハ。忠犬ではなく忠狼だろう? 一応これでもおおかっ!?〕


 「どっどうした!?」


 少なくない量の血の臭い……?

 こんな街中で?


 「なっなんだ? 市場の方が騒がしくねえか?」


 〔ティナっ!〕


 「あっ! アル待てっ!」


 俺は慌てて市場の方へと駆けていった。



 俺が市場に着くと、そこには傷を負った市民たちの姿が見えた。


 〔ティナっ!〕


 怪我をしている人たちには悪いが、俺は先にティナを探す。


 「おかーさん! おかーさんっ!」


 ティナを探していると、フィリアの声が聞こえたため俺はそちらに向かう。


 〔フィリア!〕


 「アルゥ……。ティナちゃんが……おかーさんが……」


 フィリアは服が血塗れになっており、その近くには血を流しているフィリアのお母さんの姿があった。

 俺は急いで治癒魔法でフィリアのお母さんとフィリアの怪我を治す。

 治癒魔法のおかげか、フィリアのお母さんの顔色と呼吸が良くなってきた。


 「なっなんだこりゃ!?」


 ダールトンや他の冒険者、それに城の兵士も到着したのか、市場の状況に驚きながらも怪我人の手当てを始めた。


 〔フィリア、ティナはどこだ〕


 「わかんない……いきなり黒いローブを着た人たちが来てティナちゃんを攫っておかーさんを刺して……」


 ティナが……攫われた……?


 「おいアルっ! わりぃがこの重症のやつを……っ!?」


 どこのどいつだ……ティナを攫ったやつは……!

 意識の片隅でダールトンに呼ばれた気がしたためそちらを向き、抱えていた怪我人を治癒魔法で治す。

 その後、チラッと周りを見て重傷者がいない事を確認した俺はティナの残り香を追い掛けた。



 ◇



 「アル……?」

 「ふぃっフィリアの嬢ちゃん。アルに何を言ったんだ!?」

 「えっと……ティナちゃんが攫われたって……」

 「嬢ちゃんが!? それで襲ってきたやつらの特徴は何か覚えているか!」

 「確か……大きな鉤爪みたいなマークがあったような……」

 「大きな鉤爪だとっ!?」


 ダールトンはフィリアからその情報を聞いて冷や汗を流す。


 「って事は奴らの目的はアルか!」


 ダールトンはこれでもB級冒険者である。

 そのため、ある程度の有名どころの情報を抱えている。

 その中の一つに大きな鉤爪をマークにしたとある盗賊団が存在する。

 その盗賊団はテイマーをターゲットとしており、そのテイマーの使役している魔獣を奪う事を専門としているという。

 そして今回、アルスキラウルフを使役しているという情報を得てティナを狙ったとダールトンは予想した。


 「おいっ! 怪我人の手当てに最低人数残したらアルを追うぞ!」

 「どっどうしたんだ? あんな怒ってるアルなら一人で十分じゃ……」

 「その敵がアルを使役しちまう可能性があるんだよ!」

 「なっ!?」


 ダールトンと一緒に来ていた冒険者は顔を青くする。

 あのアルがこんなことを仕出かす奴らの手先になってしまったらもう大惨事どころの騒ぎではない。

 冒険者一同はダールトンの指示の元、急いでアルを追い掛ける。

 少なくてもあの垂れ流しにしている威圧感を追えば自然とアルに追いつけるはずだと。

 だが同時に、手遅れになった場合にはその威圧感が自分たちに向けられることを覚悟して。


 侵入方法はわからねえが、こんな白昼堂々に王都でこんな騒ぎを起こしたんだ。

 奴らも勝算があって仕掛けたに違いない。

 そもそもアルを使役してしまえばどの国も相手の交渉に乗るしかなくなる。


 「くそっ!」


 ダールトンは愚痴を零すが、そんな強行に及ぶとは熟練者であるダールトンにすら予想付かなかった。

 彼らに出来る事はただ必死にアルを追い掛ける事だけだった。



 ◇



 〔ここか……〕


 途中に度々ティナの匂いが現れたと思ったら消えるを繰り返していたせいか、時間が掛かってしまった。

 だけどまさかダンジョンの裏の山脈にいるとはな。

 それにしても怪我人の手当てをしていた事を考慮したとしても、俺が全力で追い掛けても追いつけないとなるとかなり早い足を持っているのか。

 だがティナから血の臭いはしていなかった。

 という事は怪我をしていないということか。


 俺はティナを攫った奴らのアジトへと入っていく。

 中は迷路のように道が分かれているが、俺はティナの匂いを追って奥へと進む。

 途中何匹か獣臭い臭いがするが、今はティナの方が先決だ。

 そうして一番奥であろう部屋へと進むと、スキンヘッドの男が座りながらティナの首にナイフを構えているのを見て立ち止まる。


 〔ティナ!〕


 「アルゥ……」

 「感動の対面のところわりぃが、これでお前は俺様のもんだ!」


 次の瞬間、俺の足元に魔法陣のようなものが展開され、眩い光が部屋一杯に広がっていった。

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