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狼、経験を積ませる

 「えっと、これでいーのかな?」


 ティナは先程倒した大きなコウモリ――ジャイアントバットという魔獣を解体している最中である。

 さすがにいきなり人型を解体させるのはちょっとあれかなと思ったので、動物や爬虫類系の魔獣を探してたらちょうど大きなコウモリがいたので、ティナの練習台になってもらった。

 ティナはコウモリの羽と牙、それに身体の中から魔石を取り出して用意した布の上に置く。


 〔そうだな。使えそうな部分は羽に牙ぐらいだと思うし良いと思うぞ。まぁ他にも実はあったなら次から取るようにしような〕


 「はーい。じゃあアル、ご飯だよー」


 そう言ってティナはジャイアントバットの魔石を手に持って俺に近付ける。

 一層のゴブリンの件以来、ティナが俺に手に入れた魔石をちょいちょい食わせに来るんだよな。

 いやまぁ嫌っていうわけでもないが……。

 ただせっかくティナが解体した物なんだから、ティナの物として査定してもらえばいいと思うんだよなぁ……。

 まぁ流されてしまう俺も俺だが……。


 ダンジョンに入ってわかった事だが、比較的入口に近い階層はそこまで脅威ではないようだ。

 ただ、このダンジョンがどれだけ深いかはわからないため、どこまでが適切なのかを見極めるのが大事だな。

 そして次に魔獣が生まれる場所だ。

 俺が見た限り、比較的横からが多いが、たまに天井から出てくるのもいる。

 だが天井から出てくるのは飛行型のみで、出た瞬間こちらに向かってきている。

 今は音がしているからわかりやすいが、これが無音だったら影を展開していなければ気付かないだろう。

 そういった意味では浅い階層でも注意は必要だ。


 「アルゥ」


 〔んっ? どうした?〕


 「おとーさんもぼーけんしゃだったからダンジョンに潜ってたのかな?」


 〔んーどうだろうな。ティナはたぶん帝国の生まれだろ?〕


 「うんっ!」


 〔その帝国にここのようにダンジョンがあるとは限らないし、山とか草原に魔獣が生息しているだけかもしれない。でもティナのお父さんはE級冒険者って事は駆け出し冒険者の域は抜けていたってことだろうし、少なくても何かしらの成果は出していただろうな〕


 まぁその過程で命を落としたんだろうけどな。

 だがティナの環境からそこまで裕福な村ではなかったのだろう。

 そんな村に熟練とは言わないでも少しは腕が立つ冒険者がいたということは、何かしら危険な依頼を受けざるを得ない状況になっていたのかもしれない。

 にも関わらず、その父がいなくなり、母も他界したからと言ってティナを放り出すのはどうかと思うけどな。

 ティナのお父さんがどんな事をしてたとか、村の環境は全く知らんが、こんなに純粋で聡い子がこんな目に遭ってしまうのは間違っていると俺は思う。


 だから俺はティナを保護して育てようとしているのだろうか。

 本来ならばジークなりダールトンのおっちゃんなりに任せて俺は森に戻るべきなんだろう。

 だが俺はそうしていない。

 それはつまり俺はティナをただの一人の人間より大切に見ているということなんだろうか。

 それともこのアルスキラウルフという種族の性なのだろうか。


 「アル? どーしたの?」


 〔あぁ、少し考え事をしてただけだ〕


 まぁその考えは今度でいいか。

 今はともかくダンジョン探索だ。

 にしてもティナって子供の割に力強いよな。

 普通ティナぐらいの子供ならあまり重い物が持てないイメージだったんだけど、解体しているティナの様子を見てる限りそこまでひ弱な感じには思えないんだよな。

 まぁ異世界だし、俺が元いた世界とは少し違うんだろう。


 っと、今度はゴブリンとジャイアントバットのセットか。

 まぁゴブリンは瞬殺するとして、ジャイアントバットはティナの解体の練習であんまり損傷がないように倒さないといけないから大変だ。



 「アルー! できたよー!」


 〔おぉ、だいぶ慣れてきたな〕


 まぁ同じやつを十匹以上解体してれば慣れるか。

 つっても下に降りてから数が増え始めるのか、ティナが解体している間に襲ってくるから探す手間が省けるのはよかったな。

 あとは動物系の解体練習をさせておきたいな。

 どこかに良さそうなのは……。

 そう思って辺りを見渡していると、チラッと額に角を生やした兎っぽいのを見つけた。


 〔……〕


 「……」


 兎が脱兎の如く逃げようとしたのを、俺は影を操って捕獲する。

 ダメだ、逃がさん。

 大人しくティナの解体の練習台となるのだ!



 「えーっと、ここを取って……えっと……?」


 〔練習だから色々試していいんだぞー〕


 「うっうんっ!」


 まぁこの様子だとあと何匹か見つけないといけないな。

 それと失敗したやつは……俺が食うか。

 いやまぁさっきからいらない死体食ってるけどさ。

 そこまで腹一杯というわけでもないからまだいけるが、さすがに数が多すぎるとな……?

 ティナに「アル太った?」とか言われたらショックで立ち直れなさそうだ。

 どこかで……ダイエットするか……。


 その後、ティナがある程度解体に慣れたのを確認して俺らはダンジョンから出て王都へと戻った。

 ダンジョンの成果をロザリア姉ちゃんに出したのだが……。


 「……えっと、これだけ?」

 「はいっ!」


 いや、ロザリア姉ちゃん。

 そんな嘘でしょ? みたいな顔で見つめんでくれ。

 今日はダンジョンに慣れるために行っただけだから三階層までしか潜ってないのよ。

 ティナ連れてそんな初めて行く場所の、しかも深い層に行くわけないじゃん。

 依頼で深く潜ってほしい時はティナ置いていくから勘弁してくれ。

 お金としては多くはないが、ティナは自分で稼いだ銅貨を嬉しそうに受け取っていたので良しとしよう。

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