狼、ダンジョンへ向かう
〔へー、ってことはこのカードでも能力追加はできるわけか〕
「はい。ですが浮かんできた能力がどういったものかわからないため結局はこちらに伺って取る、というのが一般的ですね」
俺とティナは今受付のロザリア姉ちゃんにスキルポイントを使っての能力追加について聞いていた。
まぁ俺の持ってた吸収とか共有がどんな能力か聞きたかったのもあったけどな。
結局わからないっていう事だったが。
ロザリア姉ちゃんも俺が話せる事に驚いていたが、受付嬢なだけあって色々と慣れているのかそこまで驚きは長くはなかった。
〔まぁティナが怪我した時用に回復魔法とかそういうのは欲しいからなー……ってこれポイント30も使うのかよ!?〕
「そんな治癒魔法の使い手がたくさんいたら薬師の方の仕事が無くなりますからね……。そもそも能力というものは生まれた時点である程度は持っているものですからね。剣術にしろ鍛冶にしろ、そういった才能というものが所謂能力となりますから」
なるほどなぁ。
でもティアはそういった職業的な能力は持ってなかったけど……。
いや、ティアはこれから一杯出てくるんだ!
それに魔法系の能力を持っているということは魔導士なんだ!
「じゃあティナはまほーがいっぱいあるからまほうつかいさんなの?」
「……ティナちゃん、一杯って何個魔法書いてあったの……?」
「えーっと、火と水と風と土の四個です!」
それを聞いたロザリア姉ちゃんが一瞬くらっとして後ろによろける。
俺は影を操って倒れないように背中を支える。
〔ロザリア姉ちゃん大丈夫か?〕
「はっはい……。てか四個ってどういう事……? 普通は一個で才能が凄くて二個……天才と言われる方ですら三個だっていうのに……どういう事なの……?」
ロザリア姉ちゃんはぶつぶつと頭を抱えて呟いてる。
何か色々と疲れるところがあるんだろう。
んにしても治癒魔法で30も取られちまうと残りは20かぁ。
一応浄化魔法が実は状態異常を回復させるってのが確認できたから、治癒魔法と合わせて回復面はばっちしなんだよな。
ステータス方面も体力上昇がHP、精神力上昇がMP、気力上昇がST、頑丈がDEF、身体強化は……まぁとりあえず全体強化ってことだろう。
そう考えると他に上げる部分ってのが魔法耐性とかそんぐらいなんだよなぁ……。
でも基本魔法攻撃は影で防ぐから至急必要でもないんだよなぁ……。
となるとあとは状況観察系のやつってところか?
んな都合のいいもんは……。
俺が何かねえかなーっと思いつつ浮かんでくる能力を見ていると、そこに鑑定の二文字が見えた。
鑑定……鑑定……もしかして相手の能力とかも見れる?
〔ロザリア姉ちゃん〕
「はっはい!」
〔鑑定ってどんな能力なんだ?〕
ロザリア姉ちゃん曰く、鑑定は魔道具とかが呪われていたり、危険ではないかを判断するために必要な能力で、冒険者のカードを作る時に使う魔道具にもその鑑定の能力が含まれたものが組み込まれているらしい。
ってことはあれだよな?
やっぱ相手の能力とか見れるよな?
ポイントは……ジャスト20だし取れる!
さて取得っと。
ふっふっふ。
基礎ステータス完備で魔法も攻撃治癒何でござれ!
更にアイテムに魔獣の識別すらできる!
このハイスペック狼!
今ならなんとティアが付いてきます!
とかお得セットとして売り出しできるレベルになったのではないだろうか。
「アルうれしそー」
〔おう、これでもう何も怖くないぜ!〕
あれ? 何かフラグ立てた気するが気のせいだろう。
まぁともかく、これで準備は平気だな。
ティナの防具もできて既に装着してるし。
……まぁ何故か頭が防具というより着ぐるみの頭部分っぽくなってるのは気になるが……。
てかあれって熊……?
丸っこい耳ついてるし……。
熊の素材だったから熊耳……ということなんだろう、たぶん。
〔じゃあ準備はいいか?〕
「だいじょーぶだよ、アル」
支度を終え、俺らはダンジョンへと向かう。
ダンジョンは王都から半日掛からないぐらいの距離にあるとのことだ。
ただ、ダンジョンではモンスターが沸く不思議な現象があるとのことで、そこを警戒する駐屯所も近くにあるらしい。
まぁ普通に考えてリポップするような場所を監視もしないのはまずいよな。
ただ、ダンジョンは洞窟風で階層式になっており、その後ろには山脈、隣には森があるせいか、ダンジョンから逃げてくる冒険者を追って外に出てきた魔獣がそっちへ逃げて野生として繁殖してしまう魔獣も少なくはないとのことだ。
魔の森に生息している魔獣も、ダンジョンから出て野生となった魔獣が多いらしい。
逆にアルスキラウルフは太古から野生で存在しているらしく、ダンジョンで生まれた報告とかはないらしい。
ということで、ダンジョン内で同族に会う事はないだろうとのことだ。
しかし、半日と言ってもあくまで徒歩での場合だ。
馬なら数時間、早馬なら一、二時間程度で付ける距離。
つまり俺なら……。
「アルはやーい」
連絡員であろう兵士さんの早馬とすれ違い、それを追い越す速度でティナを背中に乗せて駆ける俺。
兵士さんは俺とティナを見て驚いていたが、早馬の方は俺に負けるのが悔しかったのか、勢いを増していた。
おいおい兵士さんガクガクしてるが大丈夫か?
俺の方はティナをちゃんと影で掴んでるし、風の抵抗受けにくいようにちょっと風魔法で流れいじってるからそんなに辛くないが……お前、ただの馬だよな?
俺は(主に)兵士さんの心配をして速度を落として駆けるようにした。
その甲斐もあったせいか、何とか早馬もペースを落としてくれて、兵士さんは振り落とされずに済んだ。
いやぁよかったよかった。
途中速度を落としたのもあったが、約二時間程でダンジョンの近くまで着くことができた。
〔ここがダンジョンかー〕
大きく口を開けるように穴が開いている。
そこに何人もの人が中に入ったり出たりしている。
「一杯人いるねー」
〔ちょうどダンジョンに入るやつらと出てくるやつらだな。出てくるやつらはちょっと防具がボロボロだったり汚れ程度だったりとまちまちだな〕
ボロボロなやつらはきっと奥まで行き過ぎたとかそういうのだろう。
逆に汚れ程度で済んでるのは自分の力量をわかってて、それに応じた深さに潜ってるとかそういうのかもしれないな。
つまり、自分に合った深さの魔獣を狩るのがいいということか。
〔ティナ、一先ずダンジョンに慣れるためにあんまり奥まで潜らないで行こうな〕
「はーい」
ダンジョンの中に入る前に出てきた冒険者たちが何か驚いてたが、まぁ俺が魔獣だからだよな。
だがもうその反応には慣れたぜ。
ダンジョン内は通路自体は五人ぐらいは横に並べるぐらいの幅はあり、高さは優に五メートルはあるぐらいだろう。
〔割と広いな〕
「そーなの?」
〔いや、ここが特別なのかはわからないが、もう少し狭いもんだと思ってたからな〕
でもこんだけ広いと索敵するのも大変だな。
幸い俺には感知っていう能力があるからある程度は判断できるし、影を周りに展開して罠とかそういったのも探ってる。
この二重の警戒網が有効かどうかってのも調べておきたいしな。
しばらく歩いていると、少し前にある壁が裂けるような音を立て始めた。
すると壁が裂け、中から耳がとがってて緑色の人型のような魔獣が出てきた・
〔あれって……所謂ゴブリンってやつか?〕
「そーなの?」
いやいや、見た目で判断してはいけない。
せっかく鑑定があるんだから見ればいいのだ。
俺は緑色の人型魔獣に視線を合わせて鑑定してみる。
……やっぱりあれゴブリンだったな。
ただ、説明文に『女を攫って孕ませて繁殖する』とかいう不吉な文が書かれていたので即座に影を操って処理した。
これからはゴブリンを見かけたら駆逐する事にしようそうしよう。
きっとあれは害獣だ、そうに違いない。
「アル? あのまじゅーすぐ倒したけどどうしたの?」
俺の突然の行動にティナが疑問を浮かべるが、まぁ無理もないよな。
慣れるためといいつついきなり敵を排除しているんだからな。
〔あれは危険な魔獣だったからすぐ倒したんだ。ティナもあれを見たらすぐ攻撃するようにしような? 例え子供でも危険らしいから可哀想とか思っちゃだめだぞ?〕
「そーなの? わかった!」
よしよし、良い子だティナ。
俺もあの一文がなかったら少しは様子を見ようと思ったんだが……さすがに女を攫って孕ませるとかいう事が書かれてたらなぁ……。
ティナの精神衛生上よろしくない。
それに俺が危険と言っておけばティナもそうだと判断してくれるだろう。
俺らは辺りを警戒しつつ、ゴブリンの魔石と素材になりそうな爪と耳を回収して先に進む。
フレイムベアーの魔石は美味しそうな匂いがしたのだが、このゴブリンの魔石は全くと言っていいほど美味しそうな匂いはしなかった。
となると考えられるのは一つ。
強い魔獣の魔石は美味しそうな匂いがして、弱い魔獣は匂いが弱いのではないのだろうか。
〔ってことは魔の森にいた魔獣って結構強かったんだな〕
あれ全部美味しそうな匂いのする魔石だったし。
「アル、この魔石食べないの?」
〔んーあんまり美味しそうな匂いしないから、ギルド会館の方に素材と一緒に出してもいいかなーって〕
「そーなの? でもまじゅーさんはこの魔石をよく食べるっておとーさんが言ってたよ?」
エネルギー補充とかそういった類の役にも立つんかねぇ?
ティナがそこまで言うし、食べさせてもらうか。
俺はティナが手に持っているゴブリンの魔石を一口で食べる。
魔の森の時とは違い、力が湧いてくるとかはないが……まぁ少しは何かが回復したんだろう。
先の経験から、ダンジョンでは魔獣は壁から生れ落ちてくるって考えでよさそうだな。
そして魔獣によってはダンジョンの奥に行くか、もしくは外に出る。
このダンジョン内に留まるのは、恐らく冒険者が回収した魔石を食べてパワーアップとかを狙ったりするためなんだろう。
もしくはこのダンジョンに留まるとかそういうプログラム的な本能が組み込まれているのかもな。
ダンジョンのために生きて、死ねばダンジョンの肥料となる、そんなシステムとして。
とまぁそんな適当な予想は置いといて、ダンジョン探索だ。
上からの奇襲とかも考えてるが、展開している影には全く反応がないし、罠の気配もない。
これは少し下に降りないといけない感じかねぇ?
下に降りずグルグルと回っていたが、出会う魔獣の数も少なく、ダンジョンに慣れる以前の問題だったためティナに許可を取って少し下に降りることにした。
下への階段は比較的広くて段差も小さく、俺でも普通に降りれるぐらいで安心した。
一つ下の階層を探索中に、上へ向かってきた冒険者たちがいたが、その中の一人が何やら大怪我していたので軽く治癒魔法を掛けてあげた。
その冒険者の仲間がすっげえ感謝してたが、まぁお互い様ってことで。
ただ、ティナがすっごく嬉しそうにしてくるんだよなぁ……。
「アルやさしー!」とか「アルすごーい!」とかそんな感じで……。
本来はティナに使う用に取った能力だからね?
ティナ、そこわかってるかい?
ストックが……切れた……(白目