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狼、他国の情報を知る

 通行証のおかげで俺らは他国にも割と気楽に移動できることがわかったので、その他国についての情報を得るためにギルド会館へと向かう。

 ギルド会館の中に入ると、俺らを見て冒険者たちが寄ってきた。


 「おいおい嬢ちゃん! 城の中に入ったってマジかよ!?」

 「何で呼び出されたんだ!?」

 「えっと……その……」


 初めてギルド会館の中に入った時と真逆の反応だな。

 何かあったのか?


 「テメェら落ち着け!」


 寄ってきた冒険者を落ち着かせるように、昨日店を教えてくれたおっちゃん冒険者が近寄ってきた。


 「わりぃな嬢ちゃん。こいつらも悪気があってやったわけじゃねえんでな」

 「だっだいじょーぶです!」


 やっぱこのおっちゃんいい人だな。


 〔ティナ、いっそのことこのおっちゃんに他国の事聞こう〕


 「えっと、他の国の事、教えてください!」

 「他の国? 嬢ちゃん別の国に行くのか?」

 「えーっと……」


 ティナが困ったように顔を下げる。

 まぁそんな事言われてもわからんよな。


 〔通行証もらえることになったからって言えば平気だろう〕


 「えっと、つーこーしょーをもらえることになったからです!」

 「……何ぃ?」


 あれ?

 おっちゃんの表情が変わったぞ?


 「嬢ちゃん、どうやって貰える事になったんだ? 通行証は冒険者のランクがC以上で発行されるようになる物で、審査も悪用しないように厳重にされる。そんな物を新人の嬢ちゃんがどうやって貰える事になったんだ?」

 「えっと……」


 まぁ魔石との交換条件で貰ったなんてそうそう言えないよな。

 と思っていたらカコンっと何かが俺の側に落ちた音がする。

 その音の方をチラッと見ると、そこには例の俺から排出される魔石が落ちていた。


 「あっ」

 「なっ!?」


 ちょっと今このタイミングで排出されるのは……。

 俺は恐る恐るおっちゃんたちの方を向くと、誰しもが一様に驚愕していた。


 「なっ何で魔石が落ちて……」

 「えっと……その……」


 ティナがどうしようといった表情で俺を見つめてくる。

 んー……仕方ないかぁ……。


 〔ティナ、正直に言っちまおう。俺の魔石と交換したって〕


 「えっと……アルの魔石と交換して……その……」

 「……まぁアルスキラウルフの魔石なら……。って、魔石が出てくるってそのアルスキラウルフ特殊個体とかじゃねえのか!?」


 まぁ普通に考えて魔石が出てくるなんて特殊個体的な感じだよな。

 仕方ないか……。


 〔こっからは俺が説明するから驚かないで聞いてくれ〕


 まぁ特殊個体って事で、念話会話できるって事にすりゃいいよな。



 「つまりアルから出た魔石との取引で国御用達の通行証を発行してもらえると……」


 〔まぁそういう事だな〕


 おっちゃん――ダールトンっていう名前らしい。

 ダールトンはこめかみを抑えて俺の話したことを咀嚼していた。

 念話での会話も割と驚いていたけど……大丈夫か?


 「そもそも魔獣が話せるなんて聞いた事ねえぞ……」


 〔喋れるっつっても念話だけどな〕


 「つか何で金要求しなかったんだよ!」


 〔いやーティナがお金はいいって言うから〕


 「ティナはアルと一緒ならいーの!」


 そう言ってティナが俺にしがみついてくる。

 ダールトンも呆れたのか、溜め息をつく。


 「嬢ちゃんたちが納得してるならいいけどよ……」


 〔つーことで他国について教えてくれ〕


 「まぁいいが……」


 そう言うとダールトンは机に自分の持っている地図を広げる。


 「今俺たちがいるここがレスティア王国だ」


 ダールトンは地図の南寄りの真ん中を指差す。


 「んで、ここから東に海洋国家のオリス王国。北の街道を進んでいって分かれ道になって、そこから東にグラム帝国、西にノヴァ公国、北にレゾ王国となっている。そっから更に周辺に小国がちらほらあるが、いずれこれらの国に併合されるだろう」


 〔この国は平気なのか?〕


 「この国は近くにダンジョンがある関係上、下手に攻めて魔獣がダンジョンから氾濫しちまう方が問題だからな。暗黙の了解のような形で他の国も攻めようとしてないのさ。まぁ他にも理由はあるがな」


 まぁせっかく取れた国も魔獣が溢れて統治できない方が問題だし旨味もないしな。


 「とは言っても、北の国が統一したらわからねえけどな」


 そらそうだ。

 国力が十分だったら別部隊でダンジョンを抑えるぐらいできそうだしな。


 「それで、これからどうすんだ?」


 〔まぁいきなり他国へ行くこともないし、まずは近くのダンジョンで練習がてら冒険者っていうのを感じてみようかなって〕


 「お前はいいけどな……嬢ちゃんはいいのか? それで」

 「アルがそーしたいならそれでだいじょーぶです!」


 ティアは元気よく返事をするが、ダールトンは再び頭を押さえる。

 何か変な事言ったか?


 「まぁアルはアルスキラウルフだから余程の事がない限り嬢ちゃんに何か起こるとは思えねえけどなぁ……。だが俺らも冒険者だ。準備を怠ったやつらの心配をする必要はない。だけどな、いくら何でも嬢ちゃんみたいな子供が冒険者をやるっつーのは気が引けんだよ。悪い事は言わねえ。ダンジョンにはアル一人で行ってこい。嬢ちゃんはギルド会館で残ってるやつに面倒見させるから」


 確かにダールトンの言う事はもっともだ。

 今まではティナを面倒見てくれる人がいなかったから俺一人で何とかしないといけないと思っていたが、今回俺が念話での会話ができる事が冒険者の中で判明した以上、ティナを無理に俺と同行させて危険な場所へ行く必要はない。

 だがティナはダールトンの話を聞いて俺の背中をぎゅっと握る。


 「アルゥ……」


 よわったなぁ……。

 ダールトンもティナの様子を見て困り顔をする。

 ティナもお父さんが冒険者だったから置いてかれる寂しさを理解してるんだろう。

 何よりティナの様子から、お父さんはティナの知らない場所で亡くなったようだしな。

 熟練冒険者っぽいダールトンが太鼓判を押すぐらいの俺に至ってそんな事はないだろうが、もしもの時を考えているんだろう。

 何よりこんな悲しそうな表情のティナを置いていくなんてできないと思ってしまう俺がいる。


 〔心配してもらって悪いな。でもティナはちゃんと俺が面倒みっから〕


 「たくっ……。俺はちゃんと言ったからな!」


 ぶつぶつと文句を言ってこの場から離れていくダールトンを他所に、ティナは俺の背中に顔を埋めるようにしがみついてきた。


 〔ティナ、どうした?〕


 「アルゥ……ありがと……」


 ティナも自分で我が儘を言ったことを自覚しているのだろう。

 それでもティナは危険な思いをしても俺から離れたくなかったのだろう。

 まぁ俺がしっかりすればいいだけだ!

 つっても、ティナもダンジョンに連れてく以上冒険者らしい事をさせた方がいいよな?

 いつまでも俺に頼るだけではいけないだろうし。


 〔ティナ、俺とダンジョン行く上で一つ覚えてもらいたい事がある〕


 「なーに?」


 〔ティナは冒険者になったんだから、魔獣の解体とかを出来なきゃ今後困ると思うんだ〕


 「かいたいって森でアルがやってたの?」


 〔そうそう。魔獣によっては牙とか骨とかが使える素材だったりするし、毛皮だって立派な素材だ。それを綺麗に解体できるようになってようやく立派な冒険者って言えると思うぞ〕


 「立派なぼーけんしゃ!」


 俺の言葉に反応したのか、ティナが目を輝かせて俺を見つめる。

 あれ?

 何かティナのやる気スイッチ的なのに反応しちゃった?

 ティナは俺から離れてダールトンのおっちゃんの名前を呼びながら近付いていってしまった。

 いくら何でも極端すぎんだろ!


 〔ティナっ! ちょっと待てっ!〕


 全く忙しい日々になりそうだ。

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